カクヨムコンテスト10へご参加してくださっておりますみなさま、本当にお疲れ様です。
私、見た目の凶悪さに反して肝が小さいおじさんなので、待つ時間というものがとにかくプレッシャーです。それこそうまく眠れませんし、やらないといけないことに集中もできない有様。ちなみに人前に出るのは何回やってもずーっと緊張しっぱなしです。プレッシャーを楽しむとか、そんな機能はまったく備わっていないのですよねぇ。
とまあ、そんなこともありまして、今回のテーマは『艱難辛苦』。主人公が大変な目に合う作品をピックアップさせていただきました。
実際、全作とも趣向を凝らした困難が手ぐすね引いて待ち構えているわけですが……それは裏を返してみれば挑戦の種でもあります。主人公がいかに打ちのめされ、それを覆すべく挑戦して乗り越えるか、または激しくもんどりうって倒れ伏すものか。ぜひご注目の上お楽しみいただけましたら!
両親を亡くし、中学卒業と同時に社会人となった高橋 朏(たかはし みかづき)。18歳になった今、正社員として忙しくも充実した日々を過ごしていたのだが、突然異動の辞令が下る。そうして放り出された先は、邪神とダイスが支配する地球ならぬ異星だった!
内容をさくっと説明すれば、クトゥルフ神話をモチーフにしたテーブルトークRPG、『クトゥルフの呼び声(略称CoC)』をベースにした物語。
朏さんは業務である「5年間生き延びろ」を遂行すべく御伽街の御伽横丁なる場所に臨むのですが――行動の成否は全部ダイスが決める! 事あるごとに正気度(SAN値)が削られる! 邪神が出たら世界が終わる!
そう、あのゲームのプレイヤーなら誰もが知る理不尽さがそのまま襲い来るところが本作のおもしろさなのですよ。それこそ思わぬどんでん返しが来るあたりも含めて。
リプレイ感覚で読めるクトゥルフ小説もといCoC小説、探索者の方へはもちろん、深きものどもにもオススメです。
(「艱難辛苦が襲い来る!!」4選/文=高橋剛)
聖典に記された異端の民族へ死の罰を与える、それを使命とする教団“悪への鞭”。その一員であるネイサンが、仲間と共にとある異端を「浄化」せんと刃を振るった直後――彼は教団へ入る以前の若き自分へと成り果てていたのだ。かくて始まる。彼が斬った黒髪黒目の男、ケントの能力による無間ループの生き地獄が。
死に戻りをテーマにしたこの作品、その特徴はなんといっても対象者が主人公である悪役ネイサンならぬ、彼が斬ったケントである点です。
ケントが死ねば時間が巻き戻り、ネイサンも強制的に時間を巻き戻されます。
ヒーローならループにはなんらかの意味や救いがあるわけですが、なにせネイサンは悪役。そんなものは一切ありません! 自分の知らないところでループを発動させられては過去へ引き戻され、努力も尽力も失い果てて悶え狂う。
ダークヒーローが魅せる負のカタルシスとはまた違う、悪役がひたすら苛まれる懲悪のカタルシスこそ本作最大の魅力なのです!
さあ、穏やかにして凄惨なる報いの果てをその目でお確かめください。
(「艱難辛苦が襲い来る!!」4選/文=高橋剛)
根元・秀夫(ねもと ひでお)は人生を順当に失敗しつつあった。だが、持ち金は徐々に減り、住む場所すら失ったそのとき――勇者一行となる高校生たちの異世界召喚に巻き込まれてしまう。そんな彼に与えられた唯一の力は“チャレンジスピリット”なる不可解な代物。だが、生き延びるため、子供たちの期待へ応えるため、彼は理不尽へと挑む!
秀夫さんは無気力系クズです。チャレンジが辛いのでしたくないと本気で思っても居ます。ただその一方で意外なほどの優しさや熱いプライドを持ってもいる。人間には多面性があるものですが、それがさりげなくもしっかりと浮き彫られていて、つい共感させられてしまうのですよね。
そして、そんな秀夫さんが追い詰められ、追い立てられて、チャレンジするしかなくなってしまう顛末、コミカルながら妙にかっこいいのは、構成のよさに咥えてやはりキャラクター造形の妙あればこそなのです。
残念ながら物語は未完で終わっていますが、ぜひ続きが読みたいチャレンジ譚です。
(「艱難辛苦が襲い来る!!」4選/文=高橋剛)
カクヨムロイヤルティプログラムをきっかけに、自らの文章をきちんと収益化することを志した書き手がいた。これはそんな困難へ立ち向かう福倉 真世の奮迅と苦闘とを赤裸々に語り上げたエッセイである。
こちらは自費出版(Web出版)で自身の文章の収益化を目ざすと決めた福倉さんの記録となります。
「ただやってみた!」的な内容ではないのですよ。出版媒体についての詳細はもちろん、なぜそこを選んだのか、そして出版に際してなにを用意したのか、これらが実にわかりやすく紹介されているのが本作の注目点。同人誌活動もそうですが、自力のみでなにかを為すとなると、実は本作業以外の手間がものすごく大きいですものね。
そしてそれを実行したことで得られた利と次々迫り来る新たな問題! これもまた自費出版あるあるで、共感させられずにいられないのです。
多様化しつつある出版の新たな道、自費出版。ひとつの読み物として、そしてそれにどんな苦労があるのかの参考書として、ぜひご一読を。
(「艱難辛苦が襲い来る!!」4選/文=高橋剛)