〈第6葉〉女将・ドライアド
*前回までのあらすじ*
川釣りをしていた老人から植物学者・アンネ=フリージアに関する情報を得ることに成功したリンネ。日没が近くなり、リンネは宿を探しに向かおうとするが、そこで老人はようやく自身の身分を明かす。
「ラモザ=アドニス。ワゼットの宿屋王といえばこのわしのことよ」
______________________________________
「おおい、今帰ったぞ! お偉い学者先生も一緒だ!」
ワゼット唯一の宿屋だという「ローブ亭」のドアを開くや、ラモザ老人は橋での会話の調子に似合わない大声で自らの帰宅を叫んだ。その声の大きさたるや、リンネがドアの外で思わず後退りしたほどである。
「うるさいね、他のお客さんに迷惑だろう!」
それにも勝る大声で、フロントの奥からは怒声が飛んだ。リンネが二度目の後退りをしたのは、その声量のためではない。その声質のためである。
「他の客なんていねえだろうによ」というラモザ老人の
露出度の高い純白のロングトルソーをまとった、長身のうら若き女性である。純白のボートネックから覗く褐色の肌に思わず視線が吸い寄せられるが、もっと目を惹くのは頭にたくわえられた
「いらっしゃい。あら、旅人さんかい?」
「ああ……どうも、はじめまして。リンネ=ライラックです」
はっと我に返り、名前を告げる。あまりにも規格外な女性の登場に、流石のリンネも動揺を隠せなかった。
「ははは、流石のリンネ先生も驚いたみたいだな」
「ったく、あんたはどうして毎度毎度人を
「はあ」
そう
「ほら、あんたもいい加減におし」
「ああいや、すまねえ。紹介するよ。わしの妻で、クレマチス=アドニスだ」
説明不足だよ、とクレマチス夫人の手が――髪が伸びて老人の腹を小突く。リンネの思考がようやく落ち着いてきた頃になって、これまた衝撃的な一幕であった。
「見ての通り、こいつは普通の人間じゃない。先生も知っとるだろう、ニンフって種族のことは」
「ええ。自然界に
「そ、あたしはニンフの中でもドライアドの仲間でね。元々はここから北の森に――ドライズの森に住んでたんだ。ほら、この村のローブ材なんかは全部そこから採ってきてるのさ」
「ドライアド……」
ドライアドは
中には顕現化の力を持つ者もいると聞いていたが、本物を見るのは初めてだ。
リンネが無遠慮にもまじまじと夫人の姿を眺めているのに、ラモザ老人はどこか慌てた風に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます