〈第4葉〉老人と川
*前回までのあらすじ*
ガーデナー教と呼ばれる宗教によって、この世界では野生の植物に関わることが禁忌とされていた。ワゼット村の人びとは過激派のガーデナー正教会に対する恐れを抱いているらしい。有益な情報を集めることができないまま、リンネは途方に暮れていた。
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広場には、いつの間にか角ばった帽子を
左手には何やら重たげな金属製の道具箱が提げられている。
男が右手をかざして小さく言葉を
恐らく街灯師というものだろう。都会では既に機械制御の
流石に仕事中の村民を捕まえて話を聞こうというのは分が悪い。無表情で仕事を続ける男から目を離して、リンネは空を見上げた。既に日は陰り、薄紫色の雲が不安げにたなびいている。
――今日はこのあたりにして、明日に備えようか。
そう思った矢先である。
広場の真横を走る小川に架けられた橋の上に、小さくうずくまる人影を見つけたのだ。
今日はこれで最後にしようと心の中で
人影の正体は、川に釣り糸を垂らす老人らしかった。革のチョッキを羽織った老人はこれまたローブ材で出来た木箱に腰掛け、水面に浮かぶウキをじっと見つめている。
「こんな小さな川でも、釣れますか」
「急にすみません、僕の名前はリンネ。リンネ=ライラックと言います。この村に少し用があって来ました」
にっこりと笑いながら、リンネは
「はあ、旅人さんかね」
「そんなところです。どうです、
「まずまずってとこだ。昔はもっとよく釣れたもんだが」
老人は片手で釣り竿を引き上げ、改めてリンネに
これは間違いなく情報収集の好機だ。
「少し拝見しても?」
「構わんよ。旅人さんのお眼鏡にかなう魚がいるとは思わんがね」
「ありがとうございます」
礼を言って、びくの中を
「ムイラ、サルベに、スノウポグですか。大漁ですね、今夜はご馳走だ」
「まあな。ああ、でもムイラは逃がさねえといけねえんだ」
ああ、一匹死んじまってるよ、と呟きながら、老人はびくに手をかけた。
「なぜです? もしかして、この村じゃムイラは神の使いだったりするんですか」
「お前さん、なかなか面白いこと言うね。なに、そんな難しい話じゃねえさ」
「というと」
「問題はうちのカカアでな」
老人は
「ムイラの臭えのがダメだってんだ。煮ても焼いても、どうにも臭いが抜けないってんでやたら毛嫌いしやがる」
「なるほど」
リンネは
こうなったら、一か八かである。
「それなら、ちょうど良い方法がありますよ」
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