〈第13葉〉不穏な噂
*前回までのあらすじ*
アンネ=フリージアの墓参のために村外れの教会を訪れたリンネは、教会で働いている修道女らしき娘と出会う。リンネは墓前に花を供え、わずかながら彼自身の過去を語った。
その足で彼女の薬草園へ向かおうとするリンネを、娘は必死に留める。
「化物が、出るのです」
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――アンネ=フリージアの薬草園には、魔物が出る。
その
アンネ=フリージアが亡くなり、ワゼット村には医者が一人もいなくなった。当時新しい医者を招き入れる目処が立っておらず、例の正教会への恐怖もあったのだろう。事件の後、若者が次々と村から出て行くようになったのだという。時代も変わったものだ、と、老人はどこか悲しげに話した。
若者が大勢いなくなった村で、唯一活力があったのは自警団だった。元々、自警団に入るような者は血の気が多い。しばらくは村おこしに
そんなある日のことだったという。
薬草園に
「あれは、人間の出来るような所業ではありませんでした。我々の背徳にお怒りになった先生の霊が、魔物の形となって転生したのでしょう」
亡くなった男の墓前で
「以来、薬草園は立ち入り禁止区域となっています。私が以前近くを通ったときには、
「警備にあたっているのは自警団ではないのですか」
「ええ。村長さんが町から雇ってきた方々です。何度か魔物退治に向かったようですが、残念ながら成果は挙がっていないみたいで……」
そこまで話して、娘ははっと我に返った様子でリンネの方を向き直った。
「ですから旅人さん、どうか考えをお改め下さい」
「なるほど。それは確かに考えを改めた方が良さそうですね」
「分かっていただけましたか」
「ええ。先に村長さんのお宅に伺うことにします。許可が必要でしょうからね」
「旅人さん!」
半ば怒りを含んだ声が、身を翻したリンネの背中にかかった。足を止め振り返ると、そこには修道服の
「……私は、これ以上人が無為に亡くなるのを見たくはありません」
この平和な村で生まれ、修道女として処女を貫いてきたであろう娘はあまりにも純朴で、長い一人旅を続けるリンネの目には眩しすぎるほどだった。
旅は世界を知ることが出来る。それはつまり、世界の闇を知ることでもある。
しかし、それをこの
「私にだって、根無草の意地があります。そう簡単にこの地で枯れ果てる気はありませんよ」
リンネはそう言って娘に笑顔を手向けた。
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