「誰が話しても面白い話」×「何を話しても面白い人」=最強

 世の中には「何を話しても面白い人」がいます。

 平凡な日常の出来事を漫談として成立させてしまう人たち。小説でいうと文体や比喩などを含む語り口に該当する面白さです。「この人は日常会話も面白いんだろうな」と思わせる文章を書く人、いますよね。個人的には作品より近況ノートに顕著に表れる部分だと思います。

 対して「誰が話しても面白い話」というものがあります。

 そんなの誰が話しても面白いに決まっている、いわゆる「ズルい」話。小説でいうと設定やストーリーに該当する面白さです。小説においてその面白さだけで最後まで読ませるのは至難の業ですが、それでも「自分風に解釈したいから骨組みだけ貸してくれないかな」と思うぐらいベースラインが魅力的な作品はあります。

 では「誰が話しても面白い話」を「何を話しても面白い人」が話したらどうなるのか?その問いに僕はこう答えましょう。「汎銀河企業体 メロンスター.Inc」を読め、と。

 本作のコンセプトはシンプルです。銀河的大企業メロンスターでシュレッダーマネージャーとして働くセン・ペル氏が数々の理不尽で酷い目にあう様を愉快に綴るSFコメディ。ですがこの説明は本作の魅力を、何を食べても「おいしいです」しか言わないことに定評がある草なぎ剛のグルメリポート並に伝えることが出来ていません。僕は作中でいうところの知能が低い地球人なので上手く語れるかどうか分かりませんが、本作の魅力を「ベースラインの魅力」と「語り口の魅力」に分けて解説を試みたいと思います。

 ベースラインの魅力は「ブラック企業でこき使われる社畜」という身近な題材を軸にしておきながら、何もかもが宇宙的でスケールが大きいというギャップ。キャッチコピーの「宇宙系社畜物語」は伊達ではありません。今すぐに恒星間戦争が始まってフォースとか暗黒面とか言い出してもおかしくない世界観の中、語られるのはあくまでも一社畜の悲哀。このズレが全編に渡って何とも言えない奇妙な面白味を醸し出しています。

 語り口の魅力は至るところ挟まれる特殊な世界観を利用した小ネタのおかしさ。例えば序盤、主人公のセンは新しく発注したシュレッダーロボを起動させようと試みるのですが、この際にロボの取扱説明書が宇宙に存在するありとあらゆる言語で書かれているせいでページ数が可算無限数になっていて、自分が読める言語で書かれているセクションを見つけるのにギャラクティカジャンボくじの一等に当たるくらいの運が必要で、判読には取扱説明書判読士の資格が必要という解説が挟まれます。こういう小ネタがいちいち面白い。軽妙洒脱に語られる作りこまれたネタの数々は、作者様の高いユーモアセンスをまざまざと感じさせてくれます。

 落語の骨子だけを要約して話しても何が面白いかわからないように、この手のセンスで読ませるコメディは読まないと面白味がわかりません。まずは読んでみてください。なお、作者様が作品を面白おかしく仕上げているせいで作中でいいところが微塵も語られていないメロンスター.Incに好感を持ってしまうことがあるかもしれません。そういう方はブラック企業のブラックっぷりを面白おかしく語る話を聞いた時、雰囲気に流されて「なんか楽しそう」とか思ってしまう傾向がありそうなので変な企業に捕まらないように注意しましょう。それはそれ。これはこれ。

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