安易な「解決」を用意してくれないリアルな雰囲気小説

 まず、本作は起承転結のはっきりしたエンターテイメント小説と呼ばれる部類に属する作品ではありません。じゃあ純文学かと言われるとそれも違う気がします(そもそも僕は純文学とは何ぞやというものを理解していませんが)。雰囲気小説、というジャンルが一番しっくり来るでしょうか。昼と夜の境目を迎えた仄暗い海岸を物思いに耽りながら一人歩く。そういうえも言えぬ雰囲気を楽しむ小説です。

 透明で繊細な散文詩のような文章にはどこか浮き世離れした美しさがあり、なのに物語はどこまでもリアルです。単に離婚や鬱病などの重たい問題を扱っているからリアルというわけではありません。その重たい問題に物語的な「事件」、そして「解決」を用意しないところがリアルなのです。

 例えば、本作の主人公は二度離婚していますがそれを「過去」にはしません。正確に言うと「過去」にはするのですが「終わったこと」にはしません。二回の離婚と二人の男はいつまでも経っても主人公の中で消えない火種としてく燻り続けます。そしてそれがたまらなくリアル。「過去」は「終わったこと」。そんな風に割り切れる人間なんて、きっと現実にはそうそういないでしょう。

 物語的解決を避けながら、それでも物語は物語として進みます。僕は冒頭で本作が放つ雰囲気を「昼と夜の境目を迎えた仄暗い海岸」と称しました。それが朝なのか夕なのか。これから日は昇るのか沈むのか。それは作品を読み、それぞれの目と心でご確認ください。

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