holoholo

𝚊𝚒𝚗𝚊

chapter 1

'ole、オレ。ハワイの言葉で0の意味。

 十八歳の私。

 材木座からバスとJRを乗り継いで、辻堂のファッションビルまで通勤していた。十四歳の頃から憧れて、十六歳から着ていたブランドのショップに、高校を卒業した時に誘われて服飾販売員になった。

 同じフロアのショップに、同じ歳の和希かずきという女の子がいた。和希は「ベティー・ブルー」のベアトリス・ダルみたいな大きな口で、魅力的に笑った。髪はセシルみたいなベリーショートで、良くミニのカットソーのワンピースを着ていた。私はジョニー・ロットンみたいなヘアスタイルで良くカンゴールの大きなベレーを被ってベビーピンクに髪を染めていた。和希とお互いの店に行き来し、休憩所で会い、休憩時間は先に入った方が呼びに行く仲になった。休日が合えば二人で海辺を歩いたり、同じ日程で連休を取って箱根や伊豆へ旅行したり、たまに和希の実家方面の電車に乗って和希の部屋に泊まりに行った。和希の父は亡くなっていて、母とシングルマザーの姉と、和希の姪が二階建の家で暮らしていた。一緒に過ごす夜はルーツロックレゲエが漂う部屋で、彼氏の話をしたり、和希が読んでいた岡崎京子や私が読んでいた水野純子を教え合ったりした。

 和希はラブアンドピースなレゲエだったし私はヘイトアンドウォーなパンクだった。和希の先輩の店で飲んで、知らないサーファーや地元の人と知り合いになり、星を見ながら歩いて戻った。朝は朝食をご馳走になりその日のシフトを迎える。幼稚園バスを待つ和希の姪はママと朝の支度をしていた。初めて会った和希の姉は、和希によく似たショートヘアの大人の女性だった。

「姉は鬱病なの」

 和希の姉は少し寂しそうに見える笑顔を向けてくれた。

 和希は私の事を、偏見のない健全な精神の持ち主だと評価してくれていたに違いない。でも十八歳の私は誠実さや真心より、シド・ヴィシャスを愛していた。私は和希の素敵な姉であり可愛い女の子の素敵なママに対し間違いなく戸惑いと無知を見せた。


 今の私。

 和希の姉に出会ったあの瞬間から二十年以上経ち、髪が伸び、同じ一人の女の子の母になっている私は、あの時の、和希の姉が抱えていた病気だと診断された。

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