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販売員になって二年目の夏。
二十歳になる少し前に材木座の実家を出て、十七歳から付き合っていた彼氏と横浜で暮らし始めた。いまは別居している父と母はまだ一緒に暮らしていて、妹と祖母も実家に住んでいた。
引越しが片付くと彼氏と私は保健所に出掛けた。お互い猫が好きで猫が飼えるアパートを借りていたのだ。保健所にはまだ小さな子猫がいた。私たちは、その長毛の白猫と一緒に暮らすことにした。アパートから一番近い動物病院に連れて行くと、子猫は生後数ヶ月の雄だということが分かった。病気や怪我はなく、身体を洗ってもらって帰って来た。白くてふわふわの子猫の名前は、ミニーマウスの飼い猫と同じフィガロになった。雌だったらアリスの飼い猫と同じダイナにしたかった。
付き合い始めて六年目の春。私はフィガロを連れて実家に戻った。服屋を辞め、財形を崩してハワイに十二週間滞在した。日本に帰ってからバイトしていた飲み屋で知り合った人は猫が苦手だったので、三年半フィガロと別々に暮らした。その人の家を出てから知り合った男と暮らし始めた時も、入籍した時も、娘が産まれた時も、離婚前に父親の部屋に居候した時も、娘と二人で暮らすアパートを借りてからも、ずっとフィガロは私の側で生き続けた。
服屋を辞めた二十三歳の頃。
和希と出会った辻堂のショップから横浜のショップに転勤になり、店長になってから三年経っていた。横浜は全国一位の売上げを達成した。本社から指示される毎月の予算は、追いかける間もなく上がって行った。月間のノルマを達成出来ない販売員には、ボーナスが支給されなかった。副店長と五名のスタッフには取れそうなノルマを課した。私のシフトは毎日通し。開店前から閉店後、に設定し、スタッフに振り切れない残りの予算を自分に課した。十五日以上の連続勤務を毎月していた。
建設中の別館に移転が決まったときの私のノルマは、月間六百万だった。辻堂、川崎。同じ販売会社のスタッフが毎日ヘルプに入り、移転の準備が進んだ。ワンフロアー展開。ブランド最大の店舗が設営されていった。そして私は体調を崩して休んだ。そのまま出社しなかった。今思えば、あの頃から鬱状態だったのかもしれない。
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