ある夏の日、僕は「それ」を「あれ」と呼んだ。

ありふれた会話が、ある日、ゆっくりと歪み始める。

高二の夏、転校してきた麻生貴史。新しい高校生活は、どこか奇妙な言葉の「ズレ」に満ちていた。生徒も教師も、皆が当たり前のように「それ」や「あれ」といった指示代名詞を多用し、具体的な言葉を置き去りに会話を成立させている。

やがて、その「ズレ」は、友人の「人間性」を蝕み、学園全体、ひいては麻生自身の言葉と認識をも侵食していく。彼は「あれ」が単なる現象ではなく、人間の言葉に潜む「病」であると悟るが、時すでに遅し。逃げ場を失った麻生の視界は歪み、思考は狂気のパターンに囚われていく──。

これは、あなたの日常に潜む「言葉の曖昧さ」が、すべてを破壊する始まりの物語。