第16話 耳鳴りのする旧校舎
僕は、花村が語る身体的な不快感と、僕自身が書き出した混乱の記録を重ね合わせた。
無数の線が脳内で繋がり始め、暗闇に光が差し込むような感覚が走る。ある共通点に、僕は気づき始めた。
「特定の指示語が使われた時……あるいは、その直後……」
僕の喉の奥が、ひやりと冷たくなる。
言葉の連鎖とその後に続く不穏な出来事。体育館でのボールの奇妙な動き、教室で友人が突然見せた無感情な表情、僕自身の視界の歪み……。
それらが、漠然とした、だけど無視できない「悪影響の予感」となって、脳裏に焼き付いた。網膜の裏に、不気味な模様が刻印されるようだった。
まだ「法則」という明確な形にはなっていない。
ましてや「呪文」などと呼べるものでもない。
ただ、「指示語」と「不穏な現象」の間に、不気味な連動らしきものがある。
その認識が、僕の背筋を冷たく這い上がった。皮膚の内側から何かが這い上がるような、ぞっとする感触だった。
僕たちは、この「悪影響の予感」がどこで最も強く現れるのかを話し合った。
花村は、言葉少なに、僕のノートの端、学園の見取り図に描かれた旧校舎の場所を指差した。彼の指先が、微かに震えている。
「……あそこ……」
花村の表情は、明確な嫌悪感に歪んでいる。強い酸を舐めたかのように、顔がひどく引きつっていた。
「あの場所だけは……入っちゃいけない……すごく気持ち悪い音がする……言葉が耳の奥でひび割れる、そんな音がする……」
花村の口から漏れた言葉は、直接的で、重い不気味さを帯びていた。
彼の敏感な感覚が、旧校舎の「隔離された異常性」を告げていた。旧校舎が呼吸しているように。
彼が不登校気味である間に、無意識に避けていた場所。
旧校舎が、彼が学校に来るのを避けるようになった一因だと、僕には思えた。
僕の心臓が、鼓動を打ち始めた。その鼓動は、旧校舎の奥から聞こえてくる不気味な響きに、共鳴しているかのように感じられた。
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