はだしのルーシー 第5話
ドラゴン
ドラゴンはダンジョン入り口近くにいるが、入口の魔族の部隊と連携している様には見えない。
牽制し合っている様にも見て取れる。
「どのみち、両方ともやり合わないと、な。
しかし、ドラゴンか・・」
レムスが厳しい顔をして呟くと、ルーシーが、
「ルーシー、ドラゴンきら~い。
あいつら、えらそ~。」
「まあまあ、ルーシー。
偉そうなドラゴンに、人間様の戦いを見せてやるさ。
悪いが、ルーシー、お前さんは今回見学な。
ダンジョンに入ったら好きに暴れさせてやるからな。」
「わかった~。」
この発言、後にレムスは大いに後悔する羽目になる。
ドラゴン戦
騎士団と、レムス達が打ち合わせをして中腹に向かう。
咆哮をあげドラゴンが飛び上がり、こちらに向かってくる。
「いきなりブレス、ってのは無しか・・やっぱり舐めてるな。」
騎士団が弓矢と魔法で攻撃する。
ドラゴンは意に介さず向かってくる。
突然、ドラゴンはあちこちに衝撃を受ける。
アリアが見えない結界を空中に次々出している
空中のドラゴンの動きが鈍くなり、高度が下がる。
いつの間にか背後にレムスがいる。
レムスは風魔法で、短時間だが空中で高機動の動きが出来る。
「やっぱ舐めすぎだよ。」
ドラゴンの翼の被膜を切り裂く。
バランスを崩し、落下したところを駆け寄ったアルにもう片方の翼の被膜も
斬られる。
ドラゴンはようやくブレスを吐こうと首を後方に傾ける。
「もう、遅いよ。」
息が吸えない。口の中にマーサの水魔法の詰まったアリアの結界がどんどん飛び込んでくる。
「地上でブレスなんて、そんな溜めの大きい動作、見逃すわけないだろ。
皆、とどめだ、」
騎士団が槍を飛ばす。
魔法で速度と威力をあげた無数の槍が飛ぶ。
威力は矢の比ではない。
無数の槍が体に刺さり悲鳴を上げる。
やがて、ドラゴンは息絶える。
「すご~い。肉祭りだ~」
「そんなもん後後、このまま、魔族を叩くぞ。」
そのまま騎士団が突撃し、魔族の部隊を蹴散らす。
大した怪我人も出ず、ダンジョンの入り口を制圧する。
「騎士隊長、俺たちはダンジョンに入るが1か月程は出てこないだろう。
その間ここを確保してくれと言いたいところだが、
それ程こだわらなくていいからな、魔族から後方を襲われる危険は、
どうやらそれ程なさそうだ。
村が危険と判断したら向かってくれて構わん。
まあ、明日から潜るとしようか、
ルーシーが肉祭りをご所望だ。」
「やったー!」
呼応して、騎士たちも勝どきをあげる。
その晩は果たして、肉祭りとなる。
肉祭り
おいしいお肉をお腹いっぱい食べて、ご機嫌なルーシー。
騎士たちも自分たちの力でドラゴンを倒し、士気も高い
そのうち歯を磨いたルーシーは並んで座るアリアとマーサの膝の上で寝てしまう。
「いよいよダンジョンね。
腕が鳴るわ。」
「でも私達、魔王に勝てるかしら、もしも発生した魔王がリッチだったら・・・」
「大丈夫よ、ルーシーのおかげで、あたし達の魔法もかなり底上げされているわ。」
「・・リッチよわすぎ~」
ルーシーが寝言を言う。
顔を見合わせ笑い、マーサがルーシーを抱き上げ三人でテントに向かう。
明日から当分の間テントでこの三人で寝ることとなる。
若干の不安が残るが・・
ダンジョンアタック
翌朝、二人はお互いの治療を行う。
アリアは随分と治癒魔法の腕が上がった。
負傷も増えたが・・
外に出ると、火の周りでレムスとアルが寝ている。
・・こいつら二日酔いでダンジョンに入るつもりか・・?
叩き起こして、マーサが魔法で酒を抜く。
やがて、ルーシーも起き出し、皆で朝食を取っていると、
騎士隊長がやってきて、驚きの情報を伝える。
悪い知らせではなく、他の国のダンジョンで発生した魔王が全て討伐されたとの知らせだった。
共通しているのはふらりとやってきた見知らぬ人物。
央国の東ダンジョンは、隻眼の武士
東の国のダンジョンは、漆黒の鎧を着けて銀の霧を纏った騎士。
北のダンジョンは東の国に昔いたとされる、僧兵の姿のいでたちの大男。
そして、南のダンジョンは頭に二本の大きな角が生え、翼を持ち黒い体毛の
魔族の大男。
更に、東の国との国境付近に新しいダンジョンが発生したことが確認されて、
央国から調査隊が出されたが、入口から魔王の首を咥えた銀色の大きなフェンリルが現れ、姿を消したそうだ。
フェンリルはともかくとして、4人とも名乗らずに立ち去ったそうだ。
「これは、一体どういう事なんだ?」
レムスが、呟く。
もくもくと朝食を食べていたルーシーが、
「ナナちゃんが、ルーシーのお友達を連れて来たんだよ。
でも先を越されて、ちょっとくやし~」
アリアが、
「ルーシーのお友達って?」
「う~んとね、とおちゃんとじっちゃんとジャンヌおねえちゃん、ベンちゃんとだいちゃんと、ふぇんままだよ。」
さっぱり分からん、一人多いし・・
「まあいい。
と言うことは、後はここを片付けたら、魔の国だけってことだ。
よーし、気合入った、いくぞ!」
「いくぞ~!」
ルーシーも気合を入れる。
アリアは、いや~な予感がし始めていた。
そうして、5人はダンジョンに入る。
トラップ
入り口でレムスが、
「いいか、ルーシー。
お前さんは、初めてだから説明するが、この手のダンジョンは、最初の内は魔物は少ないが、トラップだらけだ。
注意して進むように・・」
「わかった~。」
ルーシーが最後まで聞かず、とととっと走り出す。
「あっ馬鹿っ!」
アリアが叫んだ瞬間、ルーシーの足元が崩れて、ルーシーが吸い込まれるように穴の中に落ちて消える。
「きゃあー!」
マーサが叫んで、へなへなと膝から崩れる様にへたり込む。
と、穴の向こう側の底からルーシーが垂直に、トコトコ歩いて出てくる。
向こう側に普通に立ち、振り向くと、
「びっくり~、でも面白~い!」
先に進もうとする、ルーシー。
今度は横から無数の矢が飛び、ビーンと刺さる。
と、矢の先がルーシーに触れるか触れないかの所で停止している様だ。
矢尻が、振動している。
ポトリと落ちる矢を気にする様子もなく、またトコトコ歩き出すルーシー。
4人はあんぐりと口を開け啞然として見ていたが、
ふいに、マーサがシクシク泣き出す。
「私、絶対に生きて帰れないんだわ、心臓が持たないー!ショック死しそうよ。」
アル、
「俺も・・」
「ま、まあ、無事みたいだし・・
皆、ハカセにもらったゴーグルつけろ。
ルーシーの後を付いていくぞ。」
「やれやれ。」
アリアは呟く。
いやな予感が当たった。
本当に、切り込み隊長かあいつ。
アリアは穴の縁を歩きながら底を覗く。
数人の魔族が下から生えた槍に貫かれて、死んでいる。
どうやら魔族の部隊は先に進んでいるらしい。
どういう事だろう。
一体何のために?
レムスが、アリアの様子を見て、
「お前の感じている疑問は、俺にもわかる。
俺が思うに、この部隊は大魔王の命令で動いている訳ではないのかもな。
むしろ、このダンジョンの奥にある何かを使って、大魔王に反旗を翻すつもり、とかな?」
確かに、そう考える方が辻褄が合う。
アリウスを攻めるには少なすぎる敵の人数、とか
まあ、先を急ごうとレムスに諭されアリアは先に進む。
ルーシー大暴れ
ハカセ曰く、このゴーグルには、各種センサーを内蔵しており、ディスプレイに、トラップを察知して表示する機能があるらしい。
それが、全く反応が無い。
理由は一つしか無い。
「あの子、わざわざ丁寧にトラップを探して、わざと全部に引っかかって、遊んでいるわね。」
「ああ、このダンジョンもトラップの作り甲斐があったと、泣いて喜んでいるんじゃあないか?」
・・やれやれ
結局、第一階層は、ルーシー一人で、全てのトラップを作動させて終了した。
少し食事を取り、落ち着いたマーサがルーシーに、
「あなたはまだ、小さいんだから、危ないことはやめなさい。」
「わかった~。」
絶対こいつ、解ってない・・・
三人が心の中で突っ込むが、マーサはそれで安心したのか、元気を取り戻す。
小休止をとりながら、レムスが3人に、
「どう思う?」
「トラップにやられている魔族の死体を見るに、ダンジョンに入るには軽装備すぎるように思う。」
アルが言う。
「ああ、俺もそう感じる。」
マーサが、
「もしかしたらこの魔族達は事前にここにダンジョンが出来ることを知っていて、魔王が発生する前に、最深部に行くつもりだった。・・?」
アリア、
「確かにそれなら、納得できるわね。
そして、予定が狂った。
例えばドラゴンの襲撃とか。」
レムスが、
「そういう事か、ドラゴンは、大魔王と邪神の側に付いた、ってことか。
更に面倒な事になったな。」
ルーシーが、
「ねえ、まだ~? はやく続きしよ~よ」
レムスが苦笑交じりに、
「分かった、分かった。
あと少し、トラップメインの階層が続くと思う。
それまでは、お前さんが好きに遊んで来い。
だが、その先は魔物メインの階層になる。
そうしたら俺達3人で前衛だ、いいな?」
「わかった~。」
全員、ハカセも含め、
『やれやれ。』
ルーシーの秘密兵器
結局、初日で2階層まで終えて、初日を終える。
日の光は最早届く訳もない為、通常は冒険者の長年の経験に頼るのだが、
ゴーグルに、時計表示があるので変な気持ちになる。
「なんかこう、時計に急かされているような気分になるわね。」
アリアが呟くとハカセが、
「お前も、ワシらのような、現代人の気分になるか。
面白いものよな。
それが、限りある寿命を持つ者に在る、本来の時間の概念なのだろうな。」
「あんた達は、もう今は違うって言いたそうね。」
「…そうじゃ、な」
何故か、ハカセはそれで話を打ち切る。
第2階層の最後はトラップは見られなかった。
レムスが、
「ここからは、魔物メインの階層になる。
今日はここで休んで、明日からは予定通りに俺とアル、ルーシーが前衛、後衛は、アリア、マーサで行く。
んじゃアリア、頼む。
アリアが、周囲に結界を張る。
結界のおかげで、周囲の危険が無い為全員同時に休む。
テントは男性、女性の二つだが・・
食事をして、ルーシーが歯を磨いて休み、翌朝いつものルーティーンのお互いの、治療をして出発する。
「ケロちゃん、スミロドン。」
銀色の大きな肉食獣になる。
20センチほどの大きな犬歯・・
「ルーシーの世界に昔いた、サーベルタイガー。」
ルーシーの手には木刀と、小ぶりの拳銃。
「あっちょっと待って。」
アリアとマーサに、
「はい、これあげる、」
二人に拳銃を渡す。
ルーシーの拳銃より少し大きい。
「引き金引いたらお水が出る、水でっぽーだよ。」
はい?
「ははっ、おもちゃかよ。」
レムスが、アリアからとって、自分の開けた口に向けて引き金を引く。
銃口から、チュッと赤い水が出た途端、
「ぎゃあっ!」
マーサの顔色が変わる。
「毒?大変、解毒を」
「ううん、カプサイシンソース」
何?
「ルーシーは辛くて食べられないけど~激辛好きな人の調味料。」
「ワシらの世界では、熊を撃退するのに使ったりもするな。」
「うぎゃ~!辛~!」
ルーシーは笑っている。
「ルーシーが持っている方は、玉にパウダーが仕込んである。
圧搾空気で球を飛ばし、ある程度の誘導機能付き。
ルーシーは右眼で、レーザーロックできるのでな。
顔の前で、パチンと弾ける仕組みじゃ。
こっちは、ルーシー専用じゃ。」
レムスが、まだ転げまわっている。
アリアが、
「マーサ、水魔法でレムスの口に水でもぶち込んでやりな。」
マーサ。
「アリア、怖いわ。」
ダンジョン道中
それから2週間程経ち、階層も20階層を過ぎる。
最近、レムスとアルは、全くと言っていい程、自分たちの出番がない。
ルーシーが、魔物を見つけると銃を撃つ。
もがいている魔物を、ケロちゃんが仕留めるか、それまでに、アリアかマーサが止めを刺す。
レムス、
「なーんか暇だな~」
アルが頷く。
アリアが、
「あんた達、たるんでるよ。」
少し小休止していると、間にルーシーをはさんで、アリアとマーサが、
火の前で珍しく三人で寝てしまう。
真ん中のルーシーが、動き出す。
と、横の二人は寝ながらルーシーの手や足の攻撃?を受け流し、受け止めて
捌いている。
レムス、
「あいつら、最近お互いの治療をしていないと思ったら・・」
アル、
「二人の背後に、闘神の幻が見える・・」
「前衛の俺達より強いんじゃないか?・・」
その晩、レムスが、
「よし、ルーシー、今日は俺達と一緒に寝ようぜ。」
アリアとマーサが顔を見合わせ、また変なことを考えているなと思いながらも黙って見ている。
「いいよ~」
翌朝、アリアが二人を起こしに行き、テントを覗き込んでマーサに助けを求める。
アル、曰く
「魔王軍に囲まれて、ボコボコにされる夢を見た。」
レムス、曰く
「魔王と1対1で殴り合って、ボコボコにされる夢を見た。」
ボコボコの顔で証言する二人・・
ルーシーはまだ、幸せそうに眠っている・・
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