大魔王と異世界の少女 第2話

     おばあちゃんと赤ちゃん

 ルーシーがおばあちゃんと昨日出会った所に行くと、人だかりが出来ていた。

 ルーシーは構わずにトコトコと近付く。

「あっこの子が昨日ミルクをくれた子だよ。」

 おばあちゃんがルーシーに気付く。

「赤ちゃん朝ごはんは?」

 赤ちゃんは哺乳瓶を両手で持ちミルクを飲んでいる。

「一体どうなっているんだい?このミルク全然減らないよ?

 温かいままで、冷めないし・・・」

「半年くらいはこのまま、減らな~い。」

「・・信じられないが本当ならありがたいねえ。

 もしよければ他の子にも飲ませてあげていいかい?」

「い~よ。」

 シドが近づいてきた。

「こんなところにいたのか、朝ごはんの炊き出しをするから取りにおいで。」

 王妃とシドが率先して皆にスープとパンを並ぶ人達に渡している。

 おばあちゃんが、

「ああして王妃様やシド様は皆に手ずから渡して下さる。

 本当にありがたいことさ。」

 ルーシーは二人分の食事をもらってきて、おばあちゃんと赤ちゃんと一緒にごはんを食べた。

 付近で、子供の声で、

「お肉食べたい。」

 声が聞こえる。

 赤ちゃんがミルクを飲み終わるころ、向こうの方で兵が走っていく。

「ドラゴンがこちらに向かってきたぞ!応戦準備、皆に奥に行くように伝えろ!」

「赤ちゃん、守る・・」

 ルーシーは表に向かって駆け出す。

「危ないよ!戻っておいで!」

 おばあちゃんが後ろから叫ぶも、ルーシーは止まらない。

 城の外に出る。

 視界にはドラゴンは見えない。

 アリウス達が空を飛ぶところだ。

 ルーシーはそのまま、外壁に向かい駆け出す。

「ルーシー?」

 アリウスが駆け出すルーシーに気付く。

「危ない!」

 外壁にそのままの勢いでぶつかると思ったが、なんとそのまま外壁を垂直に駆けていく。

「は?」

 呆然と見ているアリウスと兵達。

 あっという間に外壁の上に到着するルーシー。

 慌ててアリウス達も外壁に到着する。

     4体のユニット

 まだ、ドラゴンとワイバーンの群れはここまで距離がある。

「よし、もう少し引き付けてから迎撃するぞ。」

ルーシーは、

「ケロちゃん、」

 ワンピースのポケットから銀色のカエルが飛び出す。

 右眼が赤く輝く。

「クロちゃん」

 ルーシーの足元から星空が広がり、銀色の烏が立ち上がる。

 三本足の烏。

 やはり、右眼が赤く輝く。

 と、光る右眼と立っている両足以外のもう一本の足が体の上を移動する。

「キーちゃん」

 更に星空は外壁の外側に広がる。

 広がる星空が陰る。

 何かその中に巨大なモノがいるように見える。

「ケロちゃん戦闘態勢。」

 銀のカエルがぺしゃんと溶けたかと思うとボコボコッとマグマが噴き出すように、

 2~3メートルほどの銀色の小山になる。

 あちこちから色々な動物の頭部が浮き出てくる。

 馬、牛、羊、ヤギ、熊、犬、みんな右眼が紅く輝く。

 烏が一声泣いたかと思うと飛び上がる。

「レーザーロック」

 ルーシー、クロちゃん、ケロちゃんの右眼から無数の紅い線が伸びる。

「対空ミサイル発射。」

 前方の星空の中の黒い影の辺りから30センチほどの筒のようなものが大量に回転して跳ね上がると同時に、片側から火を噴き光の先に向かって真っすぐ飛んで行く。

 ワイバーンの翼の辺りと頭部で爆発が起こると、ワイバーンの群れは、次から次に落下してゆく。

 最後に残ったドラゴンは振り向くと逃げて行った。

「だいちゃん、あれ食べれる?」

 口をあんぐり開けてみているだけだったアリウス達。

「あ、ああワイバーンの肉はまあご馳走の類になるな・・・。」

「じゃあ今日は皆、ばんごはん美味しいお肉食べれるか?」

「ああ、肉祭りだな。」

「やった~」

「ケロちゃん、キーちゃんとってきて~

 クロちゃんは、あしたのばんごはん、じゃあなくてドラゴン追いかけて~。」

 周りにはいたはずの魔物の群れはいない。

 おそらくは逃げたのだろう。

 只、一時的なのだろうが・・

 ルーシーが外壁の外側に垂直に駆け降りる。

「おい!危ないぞ」

 我に返った兵達が翼を広げて下に降りる。

 アリウスもそれに続く。

 下でルーシーの足元から星空が帯状に真っすぐ群れのいた方向に延びる。

 と、ベルトコンベアーのようにワイバーンの死体が順番に星空の上を動いてくる

 どれも片側の翼と頭部が無い。

 正確無比の命中精度だ・・

 「正直信じられん・・」

 ピッと頭の中で電子音がする。

「これが、ルーシーの力さ。

 僕らが造った時空を超える遺伝子「ルーシー」は僕らが以前開発したとある兵器をその体に選んだ。

 ナノマシン製の照準用レーザー34本と各種センサー搭載の右眼。

 各種ドローンを統括するAI搭載の補助脳。

 ナノマシンを武器としても操作できる。

 遺伝子「ルーシー」が対になり23組を一単位として、人間の遺伝子情報を構成する、人ではない何か。

「ルーシー」は、この子の名前であり、遺伝子の名前であり、そのゲートの先に繋がるこの子の持つ、「世界」の名前なのさ。

 それを補助する4体の「ユニット」

 各種陸上ドローン統括、駆逐戦車ユニット「ケルビム」

 各種航空ドローン統括、多目的戦闘機ユニット「ヤタガラス」

 各種海上、海中ドローン統括、武器庫兼旗艦ユニット「亀王」

 各種宇宙用ドローン統括、攻撃、情報衛星リンクユニット、あと援軍担当「サラマンダー」

 全て、「ルーシー」のナノマシン製さ。

 この子は僕達が造った、君達の言うところの、

「不死の軍団を率いる不死身の魔王」なのさ。

 だが君に警告する。

 この子を戦いに利用するな。

 過去はどうであれこの子は戦いを嫌う。

 今回はこの子はさほど傷つかなかったからいいが、戦いにこれ以上巻き込まれるようなら、強制的にジャンプさせるよ。

 それに、これは君たちの為でもある。

 この子が怒りや憎しみに駆られて本来の力を振るえば、この子はやらかすよ。

「分かった。肝に銘じよう。」

「お肉~お肉~」

「おーい、開門だー」

 兵たちの顔も笑顔が見える。

 久しぶりだ。

 アリウスも笑顔になっていた。

     邪神の姫君

 門を開けワイバーンの群れを兵士や市民にも手伝ってもらい運び込む

 皆の顔も明るく、笑顔が戻っている。

「あの子が一人でこの群れを退治したそうだ。

 まるで邪神様の様だ。」

「さしずめ、邪神様の遣わした姫様かの」

 この国には邪神の信仰が残っていた為このような噂話が出てきたのだろう。

 邪神様の遣わしした可愛らしい姫君

 星空を操るお姫様

 アリウスにもその噂話が伝わるが、好意的なものなのが分かるので、肯定も否定もせず、放っておくことにした。

 むしろ、王妃やシドは面白がっていたが・・

 果たしてその晩は肉祭りとなる。

 兵士、避難民みんなで火を囲んで肉を焼き、わいわい食べる。

 備蓄の酒もふるまわれ、皆の顔に笑顔が戻る。

 ルーシーは避難民の子供にお肉をもらい、おばあちゃんと一緒に

 にこにこして、お肉を食べている。

 アリウスはそれを眺めながら考える。

 これでワイバーンは大方、大丈夫だ。

 残るはドラゴンのみ、東の砦も気にかかるし何よりダンジョンの魔王だ。

 そしてアリウスは知る由もなかった。

 連絡の取れない央国より2万の軍が央国首都を出発したことを。

 ダンジョンの周囲の瘴気が濃くなり、入口から何かがうごめきだしたことを・・

 そして魔の森の東側の魔物が、瘴気を恐れ西、砦の方に向かい出したことを・・

 それらに呼応するように他の国のダンジョンも、瘴気が活発になり始めたことを・・

 世界が緩やかに壊れ始めたかのように・・

     ドラゴン

 翌朝、魔王城で軍議が開かれる。

「残るはドラゴンを全力で叩く。

 ドラゴンを叩き空からの攻撃の脅威が無くなれば、ここは守備隊でも防衛は十分可能となる。

 そして地上の魔物を蹴散らしながら、砦に向け親衛隊とわしで進軍する。」

「問題は、ドラゴンがどこにいるか、ですな?」

「ああ。調査に飛べる者を集め、まず北に向かわせろ。」

 机の下からルーシーがぴょこんと顔を出す。

「な、ルーシー、今軍議中だぞ。

 下に行っていなさい。」

「だいちゃん、ドラゴン南だよ。

 湖のそばにいる。」

「分かるのか?」

「昨日からクロちゃんが後ついてる。

 映像送るね。」

 突然アリウスの右眼に映像が映る。

 湖のほとりで羽を休めるドラゴン。

 昨日のミサイルが当たり、飛膜の一部が傷ついているようだ。

「ルーシーありがたい、礼を言う。」

 アリウスは部隊を送る準備をすると、兵が

「アリウス様、緊急事態です。

 砦が東側の森から来た魔物から攻撃を受けているようです。

 「なんと・・」

 アリウスは選択をせまられる。

「だいちゃん、ルーシーがドラゴンの所に行く~。

 だいちゃん達は砦に飛んでいくの。

 それで~ルーシーが赤ちゃんたち守る。」

「良いのか?」

 こくんとルーシーが頷く。

 ピッと電子音がする。

「まあ、いいんじゃない?

 ドラゴン程度ならどうとでもなるでしょ。

 戦いと言うより食料を狩りに行く感覚みたいだし。」

「すまん、恩に着る。」

「近衛兵、直ぐにわしと砦に向かうぞ!」

 アリウス達は部屋を出て行った。

「じゃあばんごはん取りに行ってくるね。

 お肉~お肉~。」

 これからドラゴンと一人で戦おうとするのに、全く緊張感なく部屋を出るルーシー。

       出立

 部屋を出たところで、シドに呼び止められる。

「ルーシー。

 今父上に聞いたぞ!一人では無理だ。

 僕も行く。」

「え~、守るのめんどう。」

「足手まといにはならない、頼む!父上や皆の力になりたいんだ。」

「じゃあ、い~よ。」

 二人で城門に向かう。

「あ~け~て~!」

「アリウス様より知らせを受けてはいますが、シド様の事は聞いていません。」

 門番の兵士が、開門をためらう。

「頼む、僕の意思だ。

 僕はこの子の戦いを見届けたい。」

「しかし・・」 

「私からもお願いします。」

「王妃様。」

「母上。」

 いつの間にか、セレンが城門に来ていた。

「‥判りました。」

 城門が開く。

「じゃあお肉とってくるね~!」

「城門は直ぐ閉めてくれ。」

 二人は飛び出した。

 そして、閉まった城門の前で、

「なあ、ルーシー。

 前から思っていたんだがいつも裸足で痛くないのかい?」

「へーき、いつもルーシーの上に乗っているから痛くないよ。」

 足元から星空が広がる。

「いつも~影がルーシーだから~、影とくっついてたら~、ルーシーむてきだよ。」

「??・・そ、そうか・・」

 さっぱりシドは意味が解らない。

「ケロちゃん、トリケラトプスになってー。」

 ルーシーのポケットから飛び出した銀のカエルが、その形が崩れると同時にボコボコと噴き出すかのように質量が増加、それにつれ銀色の見た事のない四足歩行のドラゴンになる。

 ルーシーの足元から星空が伸び、いつの間にか二人が、トリケラトプスの上にいる。

「えっ?」

 シドがたじろぐと、

「座って~」

 背に座る二人。

「しゅっぱ~つ!」

 トリケラトプスが動き出す。

 どしんどしんと進みながらも割と早い。

「しーちゃん、これあげる。」

 ルーシーがシドに、ヘッドホンと、ゴーグルが組み合わされた様な物を差し出す。

 つけてみると、

「やあ、小さな騎士さんこんにちは。どちらかと言えば足手纏いなんだが、まあよろしくね。

 僕はハカセ。

 君の身に何かあればルーシーが悲しむから、なるべくじっとしててね。

 このゴーグルは常時録画できるし、敵の接近や距離が表示される。

 万が一二人が離れても位置が分かる。

 照準器もついているので何かあれば、こちらでも攻撃できるからね。

 何かあれば「ハカセ」と呼んでくれたらいいよ。」

「君は誰?どこにいるの?」

「ルーシーの中に居るよ。」

「じゃあ聞くけど、ルーシーって皆が言うように邪神のお姫様なの?」

「うーん、少し違うかなあ。

 ちょっと我慢してね。」

 突然、シドの頭の中に情報がダウンロードされる。

 頭がくらくらする。

 「僕らの太陽に中性子星が衝突する運命が避けられなくなった時、僕ら4人の博士は、ルーシーを造った。

 もう滅びるしかない人類や星の生物の遺伝子情報、科学技術、全てのデータを

その遺伝子「ルーシー」に繋がる異世界にダウンロードしてね。

 そして、それから君達にとっては信じられない程長い間、この子は旅をしているのさ。

 この子は、世界を移る度に今の五歳ほどの年齢にリセットされる。

 世界を超えるというのは、それなりにエネルギーを使うので、質量も制限されるからね。

 もっとも、閉じた遺伝子の「ルーシー」は遺伝子のピーク、18~20歳位からは歳は取らないけどね。

 ゲートからはエネルギーは無限に供給されるし。

 ああ、さっきの邪神云々の事だけど、ルーシーは邪神じゃあないよね、なんせ僕らが造ったんだから。

 でも邪神ってそもそもなんなのさ。

 邪神って名乗ったら邪神?」

「それは・・・」

「ね?君の質問は的外れだよ。

 まあ、異世界「ルーシー」とリンクしている状態のこの子の「力」はそこらの邪神にも引けは取らないけどね。

 時間、空間、重力、原子核、素粒子運動までコントロール可能。

 何より世界すら・・・まあいいか」

 会話が突然、途切れる。

「魔物がいるよ。」

 狼のような魔物が、群れで近づく。

 ルーシーの右眼が輝き、赤い線が伸びる。

「レーザーロック、武器選択、20ミリモーターガン掃射、ファイア。」

 トリケラトプスの両肩の位置から銃身が伸び、火を噴く。

 瞬く間に駆逐される魔物達。

 あんぐりと口を開けシドは見る。

 本当にこの子は邪神より強いんじゃあないだろうか・・

「僕らの世界は、最後の時まで殺し合いの戦争が終わることが無かった。

 戦争の為の科学技術なら、この世界とは比べ物にならないよ。

 現にこの子は、元は僕らの、いや元の世界の最高傑作と言ってもいい。

 しかも、尚進化し続けている。」

「でも、この子は戦争が嫌いなのさ。

 自分が、戦争の為に生まれたからこそね。

 そして今、戦争の為に生きていない自分が嬉しいのさ。

 それは、僕達「ハカセ」の望みでもある。

 まあ、それでも自分の身を守らないといけないからね。

 これまでも何度も戦いに巻き込まれたし、危険な状態にもなったしね。

 だから、この子は強いのさ。」

 





     

  

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