大魔王と異世界の少女 第3話
湖のほとり
途中、何度か魔物と遭遇し、その全てをを退治しながらルーシー達は進んでいく。
退治した魔物はルーシーの伸ばした星空に取り込まれている。
何度か休憩をはさみながら進み、湖のほとりにたどり着いた。
目の前にドラゴンがいる。
かなりの大きさだ。
「見慣れぬドラゴンだな。
それに乗っているのは人の子か?」
頭の中で声が聞こえる。
ドラゴンでも知能のあるドラゴンは、人の言葉も理解すると言われるが、このドラゴンも、そうなのであろう。
二人はケロちゃんから降り、ドラゴンと対峙する。
「もうお城に行って悪いことしないか?」
ルーシーが聞くと、ドラゴンはフッと鼻で笑う。
「たかが人の子の分際で何をほざくか。
我々は人間ごとき、気にも留めぬわ。
此度はたまたま引いたが、次は皆食ってやる。
そのドラゴン程度では我々にはかなわぬぞ。
我々?
シドが訝しがると突然日が陰り5匹のドラゴンが降り立つ。
計6匹。
シドがうろたえる。
ルーシーが、湖を指さし
「ねえ、あの中の一番おっきーのはなんで出てこないの?」
ドラゴンたちは、驚く素振りを見せて、ルーシーを見る。
「良く気付いたな。」
湖の表面が黒くなると、一際大きい真っ黒なドラゴンが出てきた。
「黒龍・・」
シドが呻く。
魔の国にもその名が伝わるドラゴン。
かつて、いくつもの都市を壊滅したドラゴン。
最近はその名を聞くことが無かったが。
「ここ最近の魔力に充てられて目覚めたが、腹が減ったな。
また幾つか街を焼き、腹を満たそうか。」
目の前に7匹のドラゴン・・
シドは怖くて足が震える。
「だから、ルーシーはドラゴンきらい~。
えらそ~。」
「お前達では、腹の足しにもならん、消し飛べ。」
黒龍がふいに尻尾を振る。
「しーちゃん危ない」
ルーシーが、シドを突き飛ばす。
空中で、ルーシーに尻尾が当たるとルーシーが吹き飛ばされた。
木に当たる。
当たった瞬間、時間が止まったかのようにルーシーが止まる。
何事もなかったかのように立つルーシー。
「いた~い、ほっぺ擦りむいた~」
見ると、少し赤くなっている。
シド、そしてドラゴン達まで唖然として見ていると、突然周囲の雰囲気が一変する。
渦を巻くような、怒り、殺気、憎悪、そして狂気・・
シドが立っていられなくなり、座り込む。
周囲に星空が広がる。
星空の中に巨大なウミガメの形、右眼の位置が紅く輝く。
空から舞い降りた銀の烏、体を動きまわる右眼が紅く輝く
トリケラトプスの右眼も紅く輝く。
ルーシーのそばの星空から銀のトカゲが浮き出し右眼が紅く光る。
同時に額にもう一つ燃えあがる眼が開く。
空間に二人の人影が実体化する。
戦闘服を着た二人の若い女性。
腰までかかる銀の髪、銀の瞳の右眼の中心と瞳の周囲が紅く輝く。
その面影はルーシーそっくりだ。
ルーシーがそのまま大人になったかのように・・
「ルーシーを傷つけた・・」
「死ね・・」
こわい・・こわい・・先程のドラゴンどころではない。
シドは心臓を掴みあげられる様な恐怖を感じた。
「みんな~、ドラゴンのお肉食べるからバラバラにしちゃあダメだよ~」
のんびりした口調で、割と物騒なことをルーシーが言う。
途端、ケロちゃんがレーザーロックからの、電磁レールガン。
クロちゃんが対空ミサイル。
日が影ったかと思うと全長70メートルほどの前ひれが星空から立ち上がり、一匹を叩き潰す。
天空から伸びた一本の光が1匹の頭部を貫く。
無数の金属球が浮き上がりそれを足場に駆けあがった二つの人影が、いつの間にか手に持っていた刀で、同時に二匹のドラゴンの首を斬り飛ばす。
あっという間に、生きているのは黒龍のみ。
「わ、我はこの世界の神だぞ、殺せば神罰が下るぞ」
「嘘つけ、僕達の事も、ルーシーの事も知らないくせに。
だから、これこそ神罰なのさ・・じゃあさよなら」
クロちゃんの口から、摂氏1億度の小さな火球が飛び、黒龍の頭部を破壊する。
「プラズマシューターめいちゅう~」
ルーシーが宣言して戦いは終わった。
二人の姉
「皆~ありがと~」
星空が引き、ユニットがナナちゃん「サラマンダー」を残し引く。
残る二人がルーシーに駆け寄る。
「ほら傷を見せて、もー顔に傷なんて・・」
「油断しすぎよ。もっと気を付けなさい。」
「アイおねえちゃん、ヴァイおねえちゃんありがと~」
「いいのよ、私達はあなたの為だけに存在するのだから。
プロジェクトルーシファー・・アイン、ツヴァイ、2体の実験機、もう一体のプロトルーシーと合わせた、4分割された受精卵・・
私達4姉妹の末妹、あなた、唯一人の「ルーシー」の為に、私達はここにいるのだから。
「ジャンヌおねえちゃんとじっちゃんは来てるの?」
「ああ、ジャンヌちゃんとジル・ド・レェは他のダンジョンを押さえに行っているよ。
あと、アメリアさんがF35-Bで残りのワイバーンを蹴散らしに行ってる。
相変わらずに、この大空はわたくしのモノよ~ってね。」
「おねえちゃん、だいちゃん助けてあげて。
リッチはルーシーがやっつけるの。」
「やめておきなさい。それをしたら、一番傷つくのは多分あなた・・。」
「いや~っ!、だから、ルーシーがやっつけるの~。」
「もー、分かったわ。
砦の周りの魔物を排除したらいいのね?」
こくんとルーシーが頷く。
シドが我に返り、
「ルーシー、この人達は君のお姉さんなのか?」
「こんにちわ、シド君。
この子は私達4姉妹の末妹、人類の墓標計画「プロジェクト・ルーシー」の完成体。
私達二人はその前身の「プロジェクト・ルーシファー」の二人。
あと一人、「プロジェクト・ルーシー」の実験機と合わせ3人の姉がいるの。
私達二人はもう行くけど、ルーシーと仲良くしてあげてね。」
フッと二人が消える。
いつの間にかナナちゃんの姿も見えない。
「じゃあ、お肉回収~。」
再び星空が広がるとドラゴンの死体が星空の中に沈んでいく。
「じゃあ、お城に戻ろ~。」
轟音が鳴り、鉄の塊が飛んできた。
垂直着陸した、F35-Bのコクピットハッチが開く。
「ルーシーちゃん乗っていく?これ単座だから、翼の上か、コクピットの上だけど。
ゆっくり行くから大丈夫。」
「アメリアおばちゃん、の~せ~て~。」
ルーシーから星空が伸びると、いつの間にかシドと二人で翼の上にいる。
「じゃあ行くよー、ひゃっほーっ、いざ大空へー」
「ひーっ。」
シドが反射的に悲鳴を上げる。
風や息苦しさは感じない。
ルーシーの力だろうか?
帰城
すぐに城に着き城門前の広場に着陸する。
当然ながら大騒ぎになり、兵士達が近づいてくるが、翼の上のルーシーとシドが、手を振ると緊張が解けきれずもおずおずと寄ってくる。
「シド様、ルーシー様、お帰りなさい。
しかし、これは一体・・・?」
「どいて~お肉だすよ~」
星空が広がり、ドラゴンが浮かんでくる。
「さすが、ルーシー様・・・へっ?」
次々と浮かんでくるドラゴン・・そして、最後に浮かんで来る一際大きな黒いドラゴン。
「こ、黒龍・・、あ、あなた達は何と戦ってきたのか、ごっご存じなのですか?」
「えらそ~なドラゴン。」
兵士全員、啞然とする。
「まあ、とにかくそういうことだ。
皆、とにかく今日も祭りだ。
ルーシーの希望だしな。
アメリアさんもありがとうございました。」
いつの間にか機体から降り、パイロットスーツを着たアメリアさんが、ルーシーの横に立っていた。
「いいってことさね。」
新たな生命
城からも皆が出てきて、大騒ぎになる。
「こ、黒龍・・。」
「最後に被害が出たのは何時だったか・・」
「これ全部、ルーシー様が・・」
取り敢えずルーシーの客間に、アメリアが案内され、ルーシーはおばあちゃんと赤ちゃんの元に向かう。
シドは、セレンの元に向かい報告する。
「・・・・ということです。
母上、今回ドラゴンや黒龍に向かった時よりも、怒ったルーシーのお姉さん達の方が何倍も怖かった・・。
私は姉がいなくて良かったかも・・。
でも妹に向ける目はとても優しかった・・。」
セレンはくすっと笑うと、
「では、将来あなたもそうなりますよ。」
セレンは自分のお腹に目をやり手を当てる。
「まだ、弟なのか妹なのか分かりませんがね。」
みるみる嬉しそうな顔をする、シド・・
「せっかくだから、ルーシーに名付け親になってもらいましょうか。」
肉祭り
二夜連続の肉祭りとなる、魔王城。
再び、ミルクを飲む赤ちゃんの横で、おばあちゃんとお肉を頬張る笑顔のルーシー。
「昨日の肉よりまたこれはうまいなー。」
「聞いたところによると、これでもほんの一部みたいだ。
当分、肉は困らないみたいだ。
保存用の燻製や、ハムなど作るのに大量の人手がいるそうな。」
「じゃあ、仕事にも困らなさそうだね。」
「邪神のお姫様、様様だねえ。」
「これ、黒龍の肉で、お姫様が討伐したって話さ。」
「シド様のお妃さまにどうなんだ?」
いろいろな噂が飛び交う。
シドが、ルーシーを呼び、セレンの所に連れて行く。
「ルーシー、本当にありがとうございました。」
「ルーシー、聞いてくれ。
僕もうすぐ兄になるんだ。」
「それで、お願いがあるの。
お腹の、この子の名付け親になってくれないかしら?」
ルーシーはセレンのお腹をじっと見る。
「多分、XXだから女の子。
・・・メイちゃんがいい。」
「分かるの?じゃあ、あなたの名前ももらって、ルーシーメイにしてもいいかしら」
「い~よ。」
「フフッ、ありがとう。
それで、あなたはどうするの?
シドの話ではリッチの元に向かうそうだけど。」
「明日ね、アメリアおばちゃんと、魔物やっつけながら砦に行く。」
「そう、気を付けてね。
本当はこんなことを言ってはいけないのだけど、アリウスをよろしくお願いします。」
「じゃあ僕も行く。」
シドが言うも、
「今回はいけません。
あなたは次代の王として、生まれるこの子の兄として、ここを守るのです。」
「・・・わかりました、母上。」
王妃セレンは、予知が出来るという噂がある。
あるいはこの時、何か感じるものがあったのかもしれない。
二度と生きては戻れないアリウスの運命に・・
砦
その一方、アリウス達は砦に着く。
皆、疲れた顔をしているが、被害もそれほどなく、士気も高い。
現存の兵力に余裕がある為、しいて言えば、食料が若干心許ないくらいか。
砦の周囲が開けた草原で森との距離がある為、魔物の発見が容易で、王城に比べ、対処がしやすいのが大きい。
アリウスが到着くして早々に、魔物の襲撃があったが、矢を撃ち消耗させた後で、飛行兵で打って出て、退散させる。
城から伝令の兵が着き、驚く内容が伝えられる。
ルーシーとシドが6匹のドラゴンと、黒龍を討伐したと。
続いて王妃のご懐妊の報も伝えられ、一気に砦の方もお祭りムードになり、
アリウスも苦笑して諫める。
「まだ、リッチが控えているのだぞ。
しかし、ルーシーめ、やってくれたな。
私の血まで滾ってくるぞ、ありがとう。
新たな我が子にも名を付けてくれて・・・」
セレンからの手紙をアリウスは受けていた。
だが、同時に気になる報告も受けていた。
王国中央から出ていた兵が、行方を絶った。
その数2万。
アリウスはリッチがダンジョンを出てくるのはまだ先と踏んでいた。
それまでに、ダンジョンの周りを、兵で固めたうえで中に火を放ち、少しずつ出てくる、不死の軍団を撃っていく作戦を立てていた。
もし、既に不死の軍団が外に出ていたら・・更にリッチまで外に出ていたら、
取り返しのつかない事態になる・・。
一刻も早くダンジョンに向かわねば・・
想定外に魔物の少ない今こそだ。
アリウスは今晩祝いをして、明日ダンジョンに向かう決心をする。
アリウスは知る由もなかった。
森の中に、ルーシーの顔を持つ2匹の鬼が剣を振るい、無数の金属球を飛ばし、その身を返り血で染めながら、魔物の群れを駆逐していることを・・
紅い右眼を怪しく輝かせながら・・
そして、ふと微笑んで二人が同時に呟く。
同時刻、央国の東ダンジョンで発生した魔王を槍で貫く、漆黒の鎧をまとう屈強な騎士。
と、その周りを纏う様に漂う銀の煙がルーシーの面影を持つ女騎士の姿を形取る。
顔の見えない漆黒の兜の右眼部分と、女性の形をとる銀の霧の右眼が紅く輝く。
そして、微笑んで呟く。
『ルーシーに幸多からんことを。』
そして、事態は急変する・・
アリウスの考える最悪の方向に向かって・・
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