大魔王と異世界の少女 第4話
異常
ルーシーがアメリアとF35-Bで城を出発して、二日が経つ。
城からジグザグに移動しながら魔物を討伐していく。
燃料や、弾薬はゲートを通して補給できる為、機体の耐久性の限りの行動が可能だ。
万が一壊れても他の機体に乗ればいい。そのまま回収して修理するだけだ。
アメリアのコレクションは、多岐にわたる。
複葉機からブラックバード、過去の敵から鹵獲した機動兵器や、宇宙船まで、飛ぶ物に異常な執着を持っている。
今はこの方位モニターシステムにはまっているらしい。
「砦が見えてきたよ。
…なんだい、あれ?」
砦の東側の森。
東の端から段々と黒くなっている。
速度自体はゆっくりと。
「砦に着陸して~。」
「あいよー。」
砦の中央の広場に着陸するF35-B。
兵士が血相を変えて近づく中、近衛兵がルーシーに気づき周りを制止する。
「この方がルーシー様だ。」
「だいちゃんは?」
「アリウス様は朝から姿が見えません。
置手紙があり、我々近衛にここの指揮を任せ、ダンジョンに向かったと思われます。」
「アメリアおばちゃんここで待ってて。
ドラゴンかワイバーンが来たらやっつけて~」
ルーシーは東に走り出す。外壁を真っすぐ垂直に走り抜け、駆け降りてゆく。
兵たちは唖然と見送り、はっとして、
「アリウス様の指示だ、防御を固めろ、不死の軍団が来たら、外壁から火矢を放つ準備をしろ。」
森の中
果たして森の中を進む不死の軍勢。
魔物を襲い、魔物が不死の軍勢に加わる。どんどん数が増えていく。
ルーシーから星空が伸びると、不死の軍勢の動きが止まる。
そのまま森の外に移動していく。
そのまま星空はどんどん広がり、ダンジョンの周囲数百キロまで広がると急にしぼみ始め、ダンジョンの周囲十数キロに縮む。
押し込まれた不死の軍勢が蠢いている。
ものすごい数だ。
端にたたずむルーシー。
足元には瀕死のアリウスが横たわっている。
一兵も通さないつもりで戦っていたのだろう。
身体のあちこちを食いちぎられている。
「だいちゃん、生きてるか?」
「ルーシーが聞く。」
「・・・ルーシーか、すまぬ。
最後の頼みだ。
魔の国を、皆を、守ってくれ。」
ピッと音が鳴る。
「やれやれ、勝手な話だね。
結局はルーシー頼みかい?」
「ううん、ルーシーやる。」
「プログラム・ルーシファー起動。
ユニット「亀王」ドローン射出、「ヤタガラス」、航空ドローン統括。
陸上ドローンは、「ケルビム」統括。
「サラマンダー」、攻撃衛星、対地上用レーザー掃射用意。
「亀王」バンカーバスター発射準備。」
いつの間にか、ルーシーのそばに二人の人影。
悲しそうにルーシーを見ている。
ハカセの声がする。
「やれやれ、アリウス、僕は君を恨むよ。
この子が一番望まない姿を取るんだから。
完成された、最終兵器「ルーシファー」。
神々をも滅ぼすモノ。
ルーシファー。
こうなってしまっては、もう殲滅戦だ。
早く終わらせて、次の旅に出よう。
リッチ
それは最早戦いにもならない戦い。
無数のドローンによる、機銃やミサイルで動きを止められたと思うと、
衛星軌道上からの、レーザー掃射で焼かれ薙ぎ払われる不死の軍勢。
瞬く間に立つ者も見えなくなり、最後に、バンカーバスターでの地響きの後、
ダンジョンも無くなる。
それでも最後に立っているリッチ。
「我はリッチ。
この程度では、我は滅ぼせぬ。」
いつの間にか、その前にルーシーが立っている。
「まだ、悪いことする?」
リッチは笑う。
「我は不死身よ、世界に死と呪いを振りまくのみ。」
「じゃあ~勝負ね、我慢比べ。
ルーシーが負ければ、なにもいわな~い。
ルーシー達の周りだけ、時間早めるね、まず軽~く一億年から、よ~いスタート。」
「えっ、ちょっ、まっ」
フッと消えるリッチ、跡形も残らない。
「根性無い奴。千年も持たなかったんじゃなかろうか。」
ハカセの声が響く。
最後の刻
アリウスは背を向けているルーシーの姿が変化するのを見る。
背を向けているその背が伸び、銀の髪が、腰まで伸びている。
ワンピースも大きくなっている。
振り向き近づくと、アリウスを抱き起す。
「だいちゃん、まだ生きてるか?」
舌足らずな声でなく、はっきりした澄んだ声。
「ルーシー、ありがとう。
お前は、正しいことした。
皆をこの国を、守ってくれたのだ。
だからもう泣くな。」
二十歳の若い美しい女性、右眼の瞳の中心と縁が紅く輝くのはそのまま、涙がぽろぽろとこぼれている。
「でもね、あれはルーシーなの、皆に怖がられて、追い払われるの。」
「なあ、ルーシー。
初めてわしと会ったとき怖かっただろう?」
こくんと頷くルーシー。
「あちこちの国を魔王討伐に行き、わしも随分怖がられたものよ。
でもな、話してみれば意外と分かり合えるし、何とかなるものよ。
ああ、旅はいいなあ。
もっと旅をしてみたかったぞ。」
ルーシーの顔がぱあっとほころぶ。
「じゃあ~だいちゃん、一緒に来てもっともっと旅しよ~よ。
飽きるまででい~よ、ねっ?」
驚くアリウス。
やがて満面の笑みで返事をする。
二人の周りから星空が伸びる。
大魔王アリウスの最後の言葉を伝える為に・・
最後の言葉
突然、魔王城に星空が広がる。
「しーちゃん、ごめんね。」
「赤ちゃん、おばあちゃんバイバイ。」
「ルーシーメイちゃん、いつか会おうね」
「皆、さらばだ。」
「シドよ、良き王になるのだぞ。」
「セレンよどうか後を頼む。」
「わが娘よ、顔を見ることなく逝く父を許してくれい。」
星空が消える。
「父上!」
シドは急いでダンジョンへと向かう。
国境付近で、央国の騎士団と出会う。
アリウスの亡骸を持って、
シドが棺を開ける。
満身創痍の姿だが、満面の笑みを浮かべている。
情報交換が行われ、もはやダンジョンの脅威は去った事。
アリウスを讃え、ぜひ国葬に王も参加したい事を伝えられる。
素早く、ある程度の打ち合わせをして、シドは父の亡骸を持って、城への帰路に就く。
頭上の満天の星空を見ながら、シドはぼんやり考える。
これからは忙しくなる。
国葬、戴冠式、他の兵達の葬儀もしなければならない。
只、シドは帰ったら最初にしたいことが出来た。
あの石碑に文字を入れようと思う。
礼を込めてシド自身の手で。
エピローグ
魔の国、魔王城の入り口の広場の小さな丘の芝の中にある古い石碑。
何時からあったか、誰も知らない。
かすれて読めない文字の下に、大魔王シドが自分で入れた言葉。
「その少女は星空と共に現れた」
もし、かすれた上の文字を読むことが出来る者がいたのならば、不思議な気持ちになるだろう。
言語は違うが、刻まれた言葉の意味は全く同じなのだから・・・
石碑は佇む。
その次に同じ意味の言葉を刻む者を待つために・・・
終わり、そして次の冒険に
ルーシーは、次の移動を始めようとしていた。
ハカセが、
「なあ、ルーシー。
そもそも、なんでプログラム・ルーシファー起動させたんだ?
今のお前なら使わなくともあんなの朝飯前だろうに。」
ルーシー、小首を傾げていたが、はっとして、両手で頭を抱え
「あ~~」
ふいに声が途切れるまで叫んでいた。
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