はだしのルーシー 第6話

      魔王

 ダンジョンに入り、30階層を超える頃、途中にある魔族の死体も120体以上を数え、もう全滅しているのではないか?と思い始める。

 そして、32階層に着くと、大広間が見える。

 どうやら、ここが終点の様だ。

 魔王の間には20体ほどの魔族の死体が転がっている。

 魔王の椅子のそばに一体の死体がある。

 魔王の椅子に座っているのは、どうやら生まれたばかりの魔王ではなさそうだ。

「ハハハ、お前達は新たな魔王の誕生を祝いに来てくれたのか。

 ダンジョンに入る前に、ドラゴンの襲撃を受けた時はどうなるかと思ったが、予定通りに、魔王になることが出来た。

 あとは、お前達が大魔王と戦い、消耗したところで魔の国を乗っ取り、その後で、お前たちの国も征服してくれるわ。」

 全員、

『・・・せこっ!』

 レムスが、

「なんかやる気なくなってきた。」

 アリアが、

「こんな、せこそうな奴にやられる魔王って・・・」

 新たな魔王、

「好き放題言っても、私を倒せるのか?」

 立ち上がる。

 巨大なワーウルフだ。

 魔王の座を奪い取っただけの事はありそうだ。

 ルーシーが、

「なんか怖い・・

 そうだ、かわいくすればいいんだ~。

 ナノちゃ~ん。」

 足元から星空が広がり、銀の煙がワーウルフの周囲に漂う。

「プードルカット~。」

 バサバサッと毛が落ち、瞬く間にワーウルフはプードルカットにされる。

 マーサ、

「きゃあっ!」

 アリアが、

「・・グロいわ。」

 ルーシー、

「おもってたのと、何か違う~、気持ち悪~い。」

 アル、

「何か可哀想になってきた・・」

 レムスが、

「お前らホントにひどいね。

 まあ、その恰好じゃあとても大魔王とやらの威厳は無いぞ。」

 新魔王は、

「・・・ぎゃあっ。」

 猛スピードで逃げ出した。

 呆然と見送る一同。

 レムスは、

「・・・帰るか、あれならほっといても大丈夫だろう。

 後は、このダンジョンをどうするかだが・・・」

 ルーシーが、

「キーちゃん、バンカーバスター発射準備、・・発射~。」

 アリアは嫌な予感がして、

「あのう、ルーシーさん、それはどういう兵器?」

「うーんとね、高ーいお空から重ーい爆弾を落として、地面をぐずぐずにして、ぜーんぶ埋めちゃうの。」

「お前にしてはまあ、上出来な答えだ。」

「ハカセ」

「急げ、着弾を20分後に再設定した。

 それが、稼げる時間の限界じゃ。」

 はっ?20分後までに33階層上がれと?

 次の瞬間、ルーシーの足元に星空が広がったかと思うと、突然アリア達は意識を失う。

 気が付くと、ダンジョンの入り口でレムスと、騎士団で大騒ぎになっている。

「急げ、後10分だ、動けるものから出発だー。」

「総員退避急げー」

 何とか、ダンジョンの入り口から数キロの距離を稼いだ所で、山の中腹で爆発が起こり、大地が揺れる。

 爆風が起こり,アリアが結界を張るも、何人か落馬をして怪我人が出る。

が、取り敢えずは大した怪我ではなさそうだ。

「ルーシーっ!あんたもう少し考えてよ!」

「わかった~。」

 その場の一同、

『絶対、分かってないっ!』

    ルーシー

 帰りの馬車の中、全員ゴーグルをつけて、ハカセの話を聞いていた。

 ルーシーだけが、くーくー寝ている。

「ワシらの住んでいた星の太陽に、中性子星が衝突した。

 その二年程前、もう事態を回避出来ないと判明した時、4人の博士が、「プロジェクト・ルーシー」を立ち上げた。

 博士の一人が、偶然手に入れた「時空を超える石」を使ってな。

 そして試行錯誤を繰り返し、遺伝子「ルーシー」を造り上げた。

「ルーシー」は一本の閉じた円環の遺伝子で、その中心にゲートと呼ぶ亜空間を持つ。

 ゲートの先には、無限の情報、物質、エネルギーを構築、蓄積できる異世界、「ルーシー」に繋がっている。

 つまり、遺伝子「ルーシー」はその一つ一つが異世界に繋がり無限の情報とエネルギーを引き出すことの出来るナノマシンとしての機能を持つ1単位と言える。

 その「ルーシー」が対になり23個を1単位として人としての

 遺伝子を構成している人ではない何か、

 それが、このルーシーじゃ

 そして、この子の遺伝子情報は、4人の博士が、その直前に造り上げた兵器の情報なのじゃ。

 右眼はナノマシン製の、各種センサー、34本の同時照準可能のレーザー発振器装備。

 各種ドローンを統括、各種人工衛星ともリンク可能な4系統のAI装備の補助脳。

 そして、これらを補助する為の4機の「ユニット」

 各種陸上ドローン統括ユニット多目的駆逐戦車「ケルビム」

 各種飛行ドローン統括ユニット多目的戦闘機「ヤタガラス」

 各種海中、海上ドローン統括、武器庫兼旗艦「亀王」

 各種宇宙戦用ドローン及び各人工衛星統括リンクユニット、後現在はプラス援軍担当、「サラマンダー」

 全てルーシーのナノマシン製にアップデートされている。

「プロジェクト・ルーシファー」・・現代の魔王計画

 しかも、今もその進化をし続けている。

 つまり、この子の遺伝子情報はお前達の言葉を使えば、不死の軍団を操る不死身の魔王と言った所かの。

 しかし、今のこの子は違う。

 自分の生まれを知っているこそ、戦争を嫌い、今の戦うことのない自分を何より嬉しく思う優しい女の子じゃ。

 だから、もし戦争になれば例えこの子が反対しても強制的にこの世界を離れる。

 結果的にこの子が傷つくのが解るのでな。

 今のルーシーは、既に消え果てた星の、かつてそこにいた、人類、生物、歴史、科学技術、全てのデータをその身体に繋がる異世界ごと持ち世界を旅する。

「プロジェクト・ルーシー」人類の墓標計画・・

 ワシら人類の存在した証、モニュメントなのだ。」

 あまりの話に、皆ため息をつく。

「せめて、残りの期間争い事なく、この子が楽しく過ごせるとありがたい。

 ワシらは次の旅までのエネルギーが貯まればこの世界を離れる、1年程度だ。

 ルーシーは、一つの世界にあまり長く留まれない。

 良くも悪くもルーシーの存在は、その世界を侵食する。

 ルーシーは普段は侵食を最小限に抑える為、お前たちの言う星空、ゲートを2次元でしか展開しないが、それでもある程度の危険は伴う。」

 レムスは、

「あんた達は今までどの位の間世界を旅しているんだ?」

「ワシらの主観の時間、と言う意味か?

 AIのワシらがもう記録するのが意味がないと感じる位と言えばいいかの。

 この子は世界を移動する度にどれだけ成長していたとしても、今の5歳児にリセットされる。

 まあ、閉じた遺伝子ルーシーは遺伝子のピーク、20歳位からは歳を取らんがな。

 移動時は、あれでもかなりのエネルギーを消費するのでな。

 それ以上の質量を運べないのじゃ。

 かといって赤ん坊の状態では危険が伴う。

 この子は今までの旅でいつも受け入れてもらった訳ではない。

 人の全くいない世界も多いし、着いた途端攻撃を受けることもあった。

 いつかこの子が旅の終わりを望む時の為、この子が忌み嫌う「プログラム・ルーシファー」を削除できず、今なお進化させる必要があるのもな。

 いや、これは科学者のエゴだ、今のは聞かなかった事にしてくれ」

「まあ、戦争に関しては、するしないはあちらさん任せだしな。

 戦争なんぞしたく無いのはこちらも同じさ。

 ルーシーを含めて、子供達を争いに巻き込みたくないのはこちらも同じさ。」

 皆、心から頷く。

 「まあ、話は分かった。

 流石に今回は疲れたよ。

 しばらくはゆっくりと休みたいね。」

 更に心から頷く。

 突然、ルーシーが、

「ごはん大好き」

 寝言を言う。

 笑う一同。

 こうしてダンジョン攻略依頼は完了した。

      依頼完了

 二日後にアリウスに着いたパーティーは、そのまま大司教の元に向かう。

 大司教、聖女、騎士団長、ギルマスがそろう中、更に見知らぬ顔が二人。

 レムスが大司教に報告する。

「依頼完了だ。ダンジョン攻略の完了。

 魔王はまあ、いわゆる現大魔王の反対勢力?に倒された。

 そのボスには逃げられたが、まあ毛が生え揃うまでは当分人前には出てこれないだろうさ、クククッ。

 ダンジョンはもう土の中に埋まっちまった。

 報告するのはこんなところかな、我が友よ。」

「依頼達成感謝する、我が友。」

 大司教も答える。

「でそっちはどうなっている?進展は?そっちの見ない顔は誰なんだ?」

「矢継ぎ早だな。

 先ず紹介しよう。

 彼らは央国中央から来た、先遣隊の隊長とギルド本部の副官だ。」

「先遣隊?宣戦布告でもあったのか?」

「いや、ただ事実を言うならば大魔王軍と呼ぶべきか、は着々と戦の準備を進めている。

 どうやら魔の森の魔物達も従えてな。」

「おいおい、本来あいつらの発生を抑えるのが大魔王の役目だろう。

 それに、奴らが大魔王に従うのは変じゃないか?」

「恐らくは、邪神の力ではないか?

 友の報告では、ドラゴンが反乱勢力に攻撃をしていたのだろう?」

「後の説明は、我々が。

 事態を重く見た王は、我ら先遣隊に調査を命じられ、我々は先程ここに到着した所なのです。

 そしてアリウスの先、魔の森の入り口との中間地点に陣地を造り、進軍を迎え撃つ準備をするためです。

 本体は準備出来次第、中央から出発いたします。

 その数は、騎兵、歩兵合わせて5万。

 私は、アリウスからも騎士団に派遣要請と、物資支援の要請に来ました。」

「ギルド本部にも依頼があり、私も斥候、魔物調査でこちらのギルドに協力要請をお願いに来ました。」

 ギルマスが、後に続く。

「本来は、こちらの戦力のみで対応しろと言われても仕方がないと思っていたが、

 央国中央が戦力を出してくれて、それを支援してくれと言うなら、ありがたいし、断れん。」

 聖女が、

「ただ、魔の国にかかる雲は日に日に厚く、禍々しい状態になっています。

 魔物も狂暴になりますし、何よりここまで魔力が増大してくると、

 魔族までも狂暴化する恐れがあります。

 最悪、魔の森内で魔王の発生する恐れもあります。

 もし、央国中央の軍でも押さえる事が出来なければ、次はここアリウスが戦場となります。

 それだけは何としても避けねばなりません。

 まだ、時間があります。

 あなた達はゆっくり休み、万が一の備えに力を貸してください。」

 レムス達は退席した。

「ま、取り敢えずは一旦解散だ。

 帰ってゆっくり休もうぜ。」

    孤児院

 マーサが、

「教会のお勤めはしばらくお休みをもらっているから、宿舎に顔を出して報告してくるので、しばらくアリアの家に泊ってもいい?」

 アリアにとって、むしろありがたい。

 教団本部に着いてすぐ、ルーシーを孤児院に預けてきたので、迎えに行く。

 孤児院で、他の子供達と遊ぶルーシーを見てアリアは先日のハカセの言葉を思い出す。

 ハカセの話を疑う訳ではないが、ルーシーはほぼ5歳児のまま、成長することなく、過ごしている事になる。

 ほとんど他の子供とこうして遊ぶ事もなく・・

 辛くは無いのだろうか?

 感傷にふけっている間にふと見ると、いつの間にかルーシーの周囲に星空が広がり、子供達がスケートのようにその上を滑って遊んでいる。

 神父様とシスターが、青い顔をして近づいてくるのが見える。

 慌ててアリアも駆け寄る。

 結局アリアは、神父様に謝り、小言が自分に及びかけた為、ルーシーの手を取り、逃げる羽目になった。

 孤児院を出ると、マーサが待っていた。

「ルーシーお願い、荷物を運ぶのを手伝って。」

 足元を見ると大きな荷物がある。

 多分着替えとかだろう。

「い~よ。」

 星空が伸び、荷物をしまい元に戻る。

 マーサも随分、ルーシーの扱いがうまくなってきた。

 三人で手をつなぎ、そのまま市場に買い物に行く。

 当分の間の食料などの買い物をして、家に帰る。

 また、家の前でルーシーが駆け出す。

 「はやく~。」

 ルーシーが二人を急かす。

 家に帰るとアリアが、

「ケロちゃん、いつものお願い。」

 ケロちゃんがやれやれ、と言う様にのっそり出て掃除をする。

 相変わらず、便利、便利。

 最近何かとルーシーに頼りだしたなあ。

     ハカセ

 久し振りの我が家で食事をして、三人で庭に出る。

 ルーシーが、

「マーサお姉ちゃん、はい。」

 マーサに白い小さなものを渡す。

「何それ?」

「馬車にいる時に、ハカセに頼んだの。

 街中でも目立たない様な小さな通信機のような物を作れないかって。」 

 マーサは耳に着けてみる。

「聞こえるかの?」

 ハカセの声がアリアにも聞こえる。

「大丈夫みたい。ちゃんと聞こえる。」

「なんでそんな物欲しかったの?」

「馬車でルーシーの事を聞いた時、せめて一緒に居る間はルーシーに楽しく過ごして欲しいと思ったの。

 だから、色々ルーシーの事をハカセに聞きたかったの。

 好きな物、苦手な事とかね。

 ある意味あの子は私達と似ているの。

 つい、私達とあの子を重ねてしまうのかしら?」

「まあ、私もそう思う。

 只、振り回されてる感はあるけどね。」

 ハカセ、

「なんか色々すまんのう。」

     

 


 

 

 

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