はだしのルーシー 第7話

三人でルーシーを挟む形でハンモックに腰かけていたが、ふと

「ハカセ、そう言えば、あんたを何でエロジジイってルーシーが呼ぶのよ。

 まさか・・

 マーサがぴくんと反応し、目が細くなる。

「あのね、前にルーシーの前でね、ママハカセのお尻をエロジジ~が、「エッチ、スケッチ、ワンタッチ~」って触ろうとしてね、ママハカセに、「こんのエロジジイがー!」って言われながら、グーパンチされてたの。」

「あ~あれは見事な右クロスじゃった。

 あごの骨にひびが入ったからの~って、確かお前はその時・・」

「培養漕の中で見てた。」

「それでワシずっとエロジジイなのか・・」

「エロジジ~。」

 アリアが、ボソッと呟く。

 こういう時のマーサは、容赦がない。

「エロジジイね。」

 アリアも頷く。

「すみません。」

 珍しく、ハカセもしおらしい。

 只、今の会話で、アリアが出会ってからずっと持ってきた違和感の正体がはっきりした。

 その晩、ルーシーが歯を磨き休む時、

「先に行ってて」

 二人を先に行かせ、ハカセを呼ぶ。

「ねえ、あたし初めて話をしてからずっとあなた達に対して違和感があったの。

 初めて話をした時から自分の事をAIと、そして、ルーシーの中に居ると強調しているけど、最初にあたしにダウンロードされた知識と照らし合わせても、整合性が取れないの、まず補助する目的なら、各「ユニット」内にそれが無ければいけないのにかつそれぞれで判断が出来、ルーシーの意思も逸脱できる存在。

「あなた達は何?」

 あなた達は私の想像通りなら4人の博士そのもの、意識?が4つのユニットの中に

いるんじゃないの?

「その上で、あなた達は誰?」

 人間臭い感情を持ち、そのくせ知識や記憶が何か他人事なのは何故?

 まず殴られた記憶なら、痛かったとかの思い出が先に来るんじゃない?

 ちなみに、なーんか上っ面だけのエロジジイなのよ。

 冒険者として揉まれていると、本気のエロジジイとあなたは、どこか違うの。

        真実

「・・・・やれやれ、鋭いのう。

 キレッキレの突っ込みをするので、聡い奴とは思ってはいたが、

 ルーシーが絡まないと、ここまで聡いとは思わなんだ。

 気づいたのはお前が二人目だが、ここまで読み切られたのは、お前が初めてだ。

 いかにもワシらはルーシーを造った4人の博士では無い。

 かつては4人の、いや正確には5人の博士の意識がこの子と各ユニットに存在していた。

 この子をたった一人で世界を渡り歩く過酷な旅に送り出すのがあまりに不憫でな、人を辞めて共に行く事にしたんじゃよ。

 この子は今その記憶は無いが、この子は元居た世界を救い博士たちは元の世界に戻った、正確には違う時間軸に戻ったというべきか。

 一人を除いて、な

 もっとも、もう一人いるが旅の途中の戦闘で失われた。

 ワシらがその意識を溶け込ませている、「時空を超える石の欠片」、ごと時空の彼方に消えたのじゃよ。

 今のワシ達は戻った彼らの記憶や性格を引き継いで各ユニットの中で、ハカセとして共に旅をしている。

 もっとも、ワシらも元々彼らの内に潜み、最初からずっと共に旅をしていたのじゃがな。

 そうでなければ博士達もユニット内に留まれなかったのでな。

 ルーシーの補助脳内、及びユニット内の各AIは凍結されている。

 大破し、欠片を失い、人格を失ったナナ以外はな、

「じゃあ、ママハカセって一体・・それに、AIって・・」

 突然、頭の中に電子音が響く。

「記憶消去プログラム開始、朝にリブートします。」

 電子音声が聞こえる。

「すまんのう。」

「開始、必要時間・・~」

 電子音声が突然歪む。

「ごめんなさい、まだルーシーに知られたくないの。」

 澄んだ女性の声を聴きながら、アリアは意識を失った。

「やれやれ、エロジジイを務めるワシが再現に一番無理があるとは思っていたが、こうもボロが出るとはな」

 澄んだ女性の声がクスッと笑い、

「大丈夫、あなたはちゃんとエロジジイしてるわよ。」

     束の間の平穏

 翌朝、アリアは目覚める。

 頭が重い。

 と思うと、ルーシーが頭の上に乗っていた。

 取り敢えずは横に動かして起き上がる。

 机の上からケロちゃんがじっとこちらを見ている。

「おはようケロちゃん。」

 マーサは既に起きている。

 何か、服を繕っている様だ。

「おはよう、マーサ」

「・・・ああおはよう、アリア」

「繕い物?」

「うん、少し詰めてルーシーにってね。

 まだ、しばらくいるなら、冬服なんかもいるかなと思って。」

「これから夏なのに?

 まあマーサは器用だからね。

 さー今日はどこにいこっか。」

「先ずギルドに行かないと。

 ちゃんと報告しておかないと報酬出ないわよ?」

「教団にギルマスいたからいいんじゃないの?」

「受付のカレンに言わなきゃだめよ、ギルマスはあてにならないわ。」

「おはよ~、ごは~ん。」

 ルーシーが起きてきた。

 皆で朝食を食べ、ギルドに向かう。

「おはよ~。」

 真っ先にルーシーが飛び込む。

 正式に依頼完了の報告をして、そのまま街に向かう。

 昼食をお店で食べ、外に出たところで教会騎士に呼び止められた。

「昨日の今日で申し訳ありませんが、聖女様がお二人に話があるそうです。」

 アリアとマーサ、顔を見合わせ、

「なんだろうね?」

 国境で何かあったのだろうか?

 3人で教団本部に行き、孤児院にルーシーを預ける。

 心なしか、神父様と、シスターの顔が微妙に曇る。

 すみません

 二人は聖女様の所に向かう。

「ああ、二人とも疲れているだろうに、すみませんね。」

「何かあったんでしょうか?」

「いえ、もし私の身に何かあった時の為に、これを渡しておこうと思いまして。」

「これは?」

 二人に渡されたのは、二冊の本だった。 

「教団で、過去にあった神託を、歴代の聖女が書き留めたものです。

 いずれあなた達が書き留める事になるでしょう。」

「?でも私達はまだ、候補者でどちらかが一人なのでは?」

「ああ、私は二人とも一緒に聖女になってもらうつもりです。

 あなた達なら二人で、お互いに助け合いながら聖女の務めを果たすことが出来ると思います。

 まあ先の事ではありますが。

 次に神託がある時はあなた達も参加していただきます。

 話は以上です。

 お休みにすいませんでした。」

「う~ん、二人同時に聖女か~、実感わかないな~」

「まあね。

 でも私達ならうまくできるんじゃあない?」

 二人で話しながら、孤児院に向かう。

 今度は、広げた星空の上で、トランポリンのように飛び跳ねて遊ぶ子供達。

 横で青ざめている、神父様とシスター。

 二人、慌てて駆け寄りマーサがペコペコ謝っている間に、ルーシーを抱え、

 神父様が口を開くより早く、二人で走って逃げる。

 見事なコンビネーション。

 ごめんなさ~い。

        レムスとルーシー

 ある日アリアの家のベンチで暇そうなレムスがルーシーに声をかける。

 「お前さん、真剣を持ってるって言ってたよな。

 どんなのを持っているんだ。」

「う~んとね、こんなのとか、」

 星空が伸び、元に戻るといつの間にか剣を持っている。

 結構長い。

 抜いてみると、軽いがかなりの物に見える。

「多分それが持ってる中で一番強~い刀。

「これがか?まあいい刀だと思うが・・」

 ルーシーの右眼から光が伸び、刀身に当たる。

 次の瞬間刀身が光ってぶれる。

「今、プラズマソード、大体何でも切れる。

 後ね、高周波ソードとかビームサーベルとか切り替えできる。

 プラズマシューターとかレールガンとかもついてる。

「・・・何でも剣ってか?

 あんまり刀身関係ないなそれ・・

 ああ、いや俺が聞きたかったのは、東の国では魔剣とか妖刀とかの類の話をよく聞いたから、もしかしたらお前も持ってるんじゃあないかと思ってな。」

「よ~と~、あるよ、はい。」

 またどこからか刀を出してレムスに渡す。

 抜くと紅い刀身。

 どこか鮮やかなようで、毒々しい赤い色だ。

「ほお、ブラッディ・ソードってやつか?」

 レムスが刀を振りながら、ルーシーのの方を見ると、いつの間にか、ごついガスマスクを装着している。

 あっと思ったが、時すでに遅し。

「ぎゃああ~っ」

 レムスが転げまわる。

「ヲタクに~ちゃん作、ルーシー専用兵器

 妖刀・カプサイシン。

「カプサイシン・シリーズ」の一つだよ。

 マスクをかぶっているので、くぐもった声でルーシーが言う

 最早それどころではないレムスだった。

      アルとルーシー

 ある日アルとルーシーが連れ立って出かけて行った。

 アリアが、

「珍しい組み合わせね。」

 マーサが、

「ああ、孤児院に行ったのよ。

 アルの趣味の、ほら。」

「ああ、成程ね。」

 アリアが、納得する。

 アルは、孤児院にいる時から、土いじりが好きで、花壇や畑の世話が好きだった。

 今も、孤児院に行っては様子を見ている。

「アルお兄ちゃんこんにちわ。」

「あ、ルーシーも来た。」

「お兄ちゃんこっちの花壇のお花元気が無いの。」

「今日は何のお野菜植えるの?」

 子供達が寄ってくる。

 皆で野菜の種をまき、水をやる。

「ねえアル、あれは?」

 ルーシーが畑から少し離れたところにある苗木を指さす。

「ああ、果物狩りがいつか出来る様にと、何本か植えてみたが、まだまだ先の話だ」

 アルが答えた。

 その後子供達と一通り作業が終わった頃、ルーシーがそばにいないことに気付く。

 ふと苗木のあった方を見てギョッとする。

 そこにあったはずの苗木は、全て立派な果樹となり。

 今、まさに立派な大小さまざまな果実が実っている。

 ・・実のなる時期は無茶苦茶だが・・

「時間進めた。」

 その日は急遽果物狩りとなり、アルは梯子を作ったり、

 神父様やシスターも含めて、大忙しとなった。

 ルーシーや子供達は皆嬉しそうに笑顔で果物狩りを楽しんで、楽しい一日となった。

      マーサとルーシー

 ある日、マーサとルーシーが一緒にベンチに座っている。

 ルーシーが

「マーサお姉ちゃんずっとこのおうちに住むの?」

 マーサは、

「う~ん、実をいうと宿舎に帰って来いとは言われているのよね。

 でも実をいうと、あそこ割と・・出るのよね。」

「幽霊か?」

「違うわよ・・Gが・・」

「ルーシーが捕まえよ~か?」

「私はともかく、他の子が可哀想だからお願いしようかしら。」

「わかった~。」

 宿舎に二人で行き、他の女の子達に事情を説明し、宿舎にいた5人の子達と

ほうきを持って中庭に集まる。

 手筈はこうだ。

 まず、ルーシーが星空を伸ばし、Gを捕まえて、ここまで持ってきたところを、

ほうきでたたいて処分する。

「いくよ~」

 ルーシーから星空が伸びる。

 ハカセが、

「ん?これは、意外と・・」

「捕まえた~。」

 星空がどんどん狭くなり、中庭の三分の一位のスペースになる。

「じゃあ、はなすよ~。」

 マーサは、ふといつもの星空ではなく、黒い空間なのに気づく。

 嫌な予感がする。

「ねえ、ちなみに何匹いたの?」

ルーシーは、

「6万3千8百5十6匹だよ。」

「ルーシーさん、チョットお待ちに・・・うぎゃあっ!」

 大騒ぎになった。

 マーサは、当分の間、宿舎に怖くて近づけなくなった。

     ルーシー初めての単独依頼

 ギルドの受付嬢のカレンはその日、暇を持て余していた。

 珍しく、依頼もなく、暇な冒険者もいない。

 央国中央から、物資が集まりだしたので、護衛の仕事が忙しくなってきたためだ。

 央国中央からアリウスまでは、それ程険しい道ではないが、たまに盗賊や魔物が出る為、それなりに護衛の仕事も多い。

 と、カウンターの下から、ぬっと依頼書が登ってくる。

 のぞき込むと、ルーシーが下から手を伸ばしていた。

「あら、どうしたの?ルーシー。」

「いらい、うける~。」

 依頼書を見ると、このギルドから出した厨房の手伝いの依頼だった。

「他の皆は?」

「みんな、くんれんたまにしないと、太るっていってた。」

「ああ、アリアとマーサは言いそうね。」

 カレンはくすっと笑い、ルーシーを厨房に連れて行く。

 厨房の皆はびっくりしたが、取り敢えず芋の皮むきを頼んでみる。

 すると、大きめになったケロちゃんの口にどんどん芋を詰め込み、籠一杯分になると、今度は、きれいに皮が剥けた状態で、ボロボロ出てくる。

 瞬く間に、籠3杯分の芋を剝き終える。

 厨房長は、謝礼を渡そうとすると、

「いらな~い、ひまだから、依頼受けただけ~。」

 と言うので、厨房長は少し考えて、たまに手伝ってくれたら、ジュースを飲み放題にすると伝える。

 ルーシーは喜び、ちょくちょく厨房に遊びに来て手伝ってから、ジュースを飲みに来るようになった。

    短い夏

 しばらくは、平穏な時が流れる。

 暇を持て余し、しょっちゅうレムスやアルも遊びに来るので、結局二人も、居間までは入ることが出来る様に結界を張り直し、庭でバーベキューを楽しんだりする。

 アリウスの南東部に大きな川があり、比較的魔物も少なく、川遊びができる場所があり、釣りなども楽しむことが出来る。

 そこで5日ほど過ごし、バカンスを楽しむ。

 ルーシーはレムスが、魚を釣った瞬間に水面を走って魚を見に行き、周りに驚かれる。

 ギルドで、街の中での依頼を受けてちょっとした騒ぎも起こした。

 孤児院も、ルーシーのお気に入りの場所の一つとなり、遊びに行くようになる。

 いつも、最後は3人で逃げ出すことになるが・・

 こうして1か月ほどの短い夏が瞬く間にに過ぎていく。

 アリアとマーサは、この短い夏を生涯忘れる事は無いだろう。

 そして、ゆっくりと事態は動き出した。

 

 




     


 

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