はだしのルーシー 第4話

       買い出し

 結局、アリアがルーシーと一緒に寝た。

 朝、マーサに目の周りの青あざを治療してもらい、教団前の馬車に向かう。

 レムスが、

「じゃあ買い出しの分担を、」

 アリアが遮る。

「ちょっと待って、レムス。

 今回はルーシーが増えるので、先にポジションの確認がしたいわ。

 あたしの考えは、今回は荷物が多くなるのでこのままではどうしても、アルの負担が大きくなる。

 ルーシーが連れているケロちゃんは、どんな動物にもなれるので、牛とかの荷物を運ぶ動物になってもらって、それをルーシーに護衛してもらうのはどう?

 これならいつもとあまりポジションが変わらずにアルの負担が少なくなる。」

 今度は、レムスがいい顔をしない。

「それではお前達が成長しない。

 何より今回は魔王が相手になる。

 攻め手が二人では心もとない。

 荷物はケロちゃんとやらでもいいだろう。

 只、ルーシーは前衛に持っていく方がいい。

 その方が後衛のお前達の成長になる。」

 今度は、珍しくマーサが猛反対する。

 「ルーシーを前衛にするなんてそれこそあり得ません。

 こんな小さい子を前衛にするだなんて・・

 レムスは何を考えているのですか。」

「あ~、ねえ、ルーシーはどうしたい?」

 アリアは一応分かっているがルーシーに聞いてみる。

「ルーシーは、武士だから前衛、それで切り込み隊長する~」

 想像より、更に物騒な答えが返ってきた。

「マーサ、諦めなよ、この子に何かあったとしてもあたしらに何かあったとしても、同じ事。

 皆が生きて帰ってくることが全てよ。」

「・・判ったわ。」

 しぶしぶマーサが頷く。

「そ~。それに、クロちゃんやキーちゃんやナナちゃん忘れたらかわいそー。」

 アリアを除く一同、

『えっまだ他にいるの!』

       荷物運び

 結局、まず買い物にする。

 女性三人が食料担当で市場で買い込む。

 買い忘れに気付き、ルーシーに買った物の番をしてもらい、その間にアリアとマーサで買いに行く。

 二人が戻るとルーシーの周りにあった荷物が無い。

「ルーシー荷物は?」

「持ってる。」

「ないじゃない」

 星空が広がると、買った荷物が浮かんでくる。

「・・・これ、どの位入るの?」

「うーん、この世界位?は、よゆ~。」

 さっぱりわからん。

「あっおうち持ってく?」

「それはやめて。」

「でも、これはすごいわね。」

「そうね、さっきの会話が馬鹿みたいに思えてくるわ。」

「ねえ、でもこれならいつもより色々持って行かない?

 フルーツとか、服とか・・」

「そうね。お菓子とかも行けそうね。」

 顔を見合わせて微笑む二人。

「二人共なんかこわい。」

「よし追加の買い出し行くわよ。」

 二人でルーシーの両側の手をつなぐ。

 まるで逃がさないぞと言わんばかりに・・

 レムスらが馬車で待っている。

「お前ら遅いぞ、って荷物は?」

 アリアが説明し、ルーシーが荷物を出す。

 目を丸くする二人。

「しかしまたえらく買い込んだな、お前らダンジョンで冬ごもりでもする気か?」

「あたしら熊か?」

「しかし、そういう事ならありがたい。

 今回は多めに荷物を持っていくか?」

『賛~成~』

 何かみんなテンションが高い。

 アルも今回は持つ荷物が少なくなりそうなのでちょっとだけ嬉しそうだ。

「そうだ、ルーシーも世界を旅してるんでしょ?普段から食料とか、持っているの?」

「ごはん好きだからいっぱい持ってる。」

「米?味噌と醤油は?」

「納豆は?うどんは?」

 レムスとアリアが突然食いつく。

「あ、あるよ・・・」

「やったー!米の飯」

「お願いルーシー様、今日の晩御飯にお願い!」

「なんか今日みんなへん。」

 その晩は皆アリアの家で泊まることになり、ルーシーに米を出してもらい、

 ご飯を楽しむ。

 ご機嫌なレムスにアリアがさりげなく、

「ねえ、ルーシー、今日はレムスとアルと一緒に寝たら?

「い~よ。」

「おう。」

 なぜか、ぐっと拳を握るマーサ。

 アルは不思議そうな顔をする。

 ルーシーが歯を磨いて、三人が居間の隣の客室に入る。

 翌朝アルとレムスは寝ているのか、倒れているのか、判別できない状態で、

マーサに発見される。

 今日は2人に合掌・・

       武器と兵器

 翌朝はかなり長めの治療を行って、武器屋に行く。

 レムス達のパーティーはアリウスでも最強との呼び声が高い。

 魔法剣士のレムス、重騎士のアルが前衛。

 後衛が聖魔法のマーサに結界魔法のアリア。

 全員が多少なりとも回復魔法が使え、魔法による攻撃と物理攻撃も可能。

 アリアは結界で相手をタコ殴りに出来るし、マーサは弓も使える。

 バランスがいいのが強みだ。

 いつもより多めの武器をそろえて予備も今回は持っていける。

 ルーシーはただ、全く買おうともしなかった。

 食事に行ったときにレムスが訊ねる。

「なあ、ルーシー、お前は武器はいいのか?」

「いらな~い、兵器はいっぱい持ってる。」

「兵器って?」

「こんなの」

 星空が伸びるとルーシーの手に、小さな金属でできた塊がある。

「拳銃。」

「銃、だって?」

 レムスの顔色が変わる。

「それって南の国の・・」

「ああ、マーサもじじい共から聞いてたのか・」

「南の国が大昔あちこちの国で戦争している時に、禁忌の森で大量に見つけて、使ったって話だ。

 誰が造ったかも分からないらしい。

 平和になってからは禁忌の森に返して、封印してあるって話だ。

「これは~だいじょーぶ、ヲタクに~ちゃんがつくったの。

 ヲタクに~ちゃんはね、AIのハカセのひとりで、あと~パパハカセと~ママハカセと~エロジジイと~皆で4にんいるの。」

 アリア、

「おい、エロジジイ。」

「お前、一発でワシを当てよったな。

 まあいい、その銃はヲタクの奴の特製じゃ。

 殺傷力は無いが、当たるととんでもないぞ、くくくっ。」

「それ、ルーシーの世界の、おもちゃを改造したものみたいよ」

「それってハカセとやらに聞いたのか?」

「そう。」

 アリアが話をしている間にルーシーが呟く。

 少し不機嫌そうだ。

「あそこは悲しいが一杯つまったお墓なのに・・」

 アリアは、ルーシーに、

「そういえば、ギルドで使ったのは?」

「あれは対戦車ミサイル。

 キーちゃんに一番ちっちゃいのもらった。

「・・・・まあこれで一通りそろったな。」

「あと二日ゆっくりしてから集合な」

「了解」

     訓練

 二日程のんびり過ごす。

 持って行く荷物に制限が無くなった為か、アリアとマーサはやたら色々な物を理由を付けては持って行きたがる。

「ねえ、この食器なんかどう?」

「いいわね、このお皿は?・・・」

「なんか、えんそくみたい・・」

 ルーシー、既に諦めモード・・

 そして、三日目の朝三人一緒に起きる。

 訓練と称してこの間から、三人で一緒に寝ることにしたのだ。

 お互いの治療をして、朝食を取り、馬車に向かう。

 もう、出発まであと2日なので騎士団の準備も忙しそうだ。

 一緒に出掛ける部隊長がレムスに近づいてくる。

「なあ、馬車の中に荷物が無いけど大丈夫なのか?」

「ああ、なんか今回は色々あってな。心配はいらんよ。」

「じゃあ頼むよ。」

「・・目立ちすぎるから布団でも入れとくか?」

「ルーシー、ハンモックがいい~」

「やれやれ、魔王討伐だってのに、ピクニックみたいになってきた・・」

「訓練場に行くぞ!最終訓練だ。」

 ギルドに向かう。

 下の階にギルマスがいた。

 レムスが、にやにやしながら、

「ようギルマス、釈放されたのか?ようやくシャバに出られたか?」

「お前らのせいでえらい目にあった。

「今頃、訓練か?

 余裕だな?そのとんでもない子は置いといても、頼んだぞ。

 あそこに魔族の部隊や魔王がいると、実際アリウスは丸裸同然だ。

 いくら城塞都市と言っても防御には限界がある。」

「ああ、ちょっと暇な奴に声をかけさせてくれ。

 フォーメーションの確認をしたい。」

「好きにしてくれ、ギルドから訓練料を出してやると言っていい。」

「やけに気前がいいな?」

「実際お前たちが頼みの綱、だからな。」

「ああ、ここを戦場にする訳にはいかんしな・・」

 訓練場に行くと20人程の冒険者が集まる。

 ここでは、それなりの実力者達だ。

「悪いが本気で来てくれ。

 今回は相手が魔王なので、気も抜けない。

 いいか、俺とアル、ルーシーが、前衛で、アリアとマーサが後衛だ。」

「・・ごめんレムス。

 どうしても、あんた達三人、いえ、アル以外2名が好き勝手に暴走するイメージしか出てこない。」

「・・そうね。

 いざ対峙してみると、これは連携が難しいわ・・」

 レムスが、ニヤッと、

「そうだ、それを感じてくれればいい。」

「よし、訓練終わり。」

「えっ?」

「後は考えてくれたらいい。」

「じゃあ解散、皆受付で訓練料もらってくれ。」

「おい、いいのか?」

 古参の冒険者が訊ねる。

「ああ、今回は実力を上げる訓練じゃあないしな」

「気を引き締める為、か」

「ああ、俺達に何かあったらそちらも守りを頼む。」

       出発

 出発当日になる。

 大司教、聖女、騎士団長がいる。

「友よ頼んだぞ。」

 聖女が、ルーシーを見つけ、

「この子は?」

「最初に報告した、保護した子供です。

 一度、村に連れて行こうと思いまして。」

「そうですか。

 皆さん大変な依頼をして申し訳ありませんが、あなた達が頼みの綱なのです。

 どうかよろしくお願いします。

 この方達に、女神様のご加護があります様に。」

「出発だ!」

 騎士団の騎馬と馬車が出る。

 レムス達の馬車が、最後尾に出る。

 騎士が手綱を握っているので、中には全員乗っている。

「まあこの間でいうと村まで2日、ふもとまで丸1日よ。」

 アリアは2回目なので、皆に伝える。

「これ、皆にあげる。」

 ルーシーが皆にゴーグルとヘッドホンが合わさった様な物を渡す。

「つけてみて。」

 恐る恐る付けてみる。

「やあ、アリア以外は初めましてかの?

 ワシはハカセ。

 ルーシーの補助脳に搭載されているAIの一つじゃ。

 よろしくの。

 お前達に渡したのは、暗闇でも見えるし各種センサー内臓、ワシを含めお互い通信可能。

 万が一この子が閃光弾やミサイルを使うと、目や耳をやられる恐れがあるからの。

「すごいな。

 あんた達の世界はこんなものばかりなのか?

「ワシらの世界は、基本戦争の為の発展みたいなものじゃ。

 現に、最後の最後まで戦争は無くならなかった。

 その最終形態が目の前のルーシーじゃ。」

     ルーシーの能力

「アリア、それなあに?」

 アリアの持っている杖の先に薄紫のプレートのようなものが付いている。

「ああ、これはオリハルコンと言う金属でね、魔力の伝達や威力をあげてくれるの。

 物凄ーく値段が高くてね、あたしとマーサは聖女候補になった時に、大司教様に、お祝いとしていただいたの。

 あたしは杖につけているけど、マーサは弓を使うから、ペンダントにしているわ。」

「ふ~ん。」

 ハカセが、

「そういえば、少し前払いをするつもりだったのを忘れておった。

 ルーシー、いけるかの?」

「やってみるね。」

 ポケットからケロちゃんが飛び出して杖のオリハルコンを、ペロンと舐める。

「げっ」

 アリアが呻くと、ルーシーが、

「成分、元素、分子配列、原子構成、・・分析完了」

 ルーシーの右眼がいつもより紅く輝く。

 と、杖に着いているオリハルコンのプレートの薄紫が杖に広がっていく。

 杖の頭の部分が、ほぼ薄紫色になる。

「・・・ふう。」

 珍しく疲れた顔をしている、ルーシー。

 杖をよく見ると杖の頭部分が全てオリハルコンになっている。

 木の部分との境い目が分からない。

「これは、一体どうなっているんだ?」

 ハカセが、

「物質変換じゃよ、分析した感じ、合金に近かったのでな、思ったより苦労したぞ。

 原子を変換、分子配列を再現して回路のような構造も再現した。

 発生した熱エネルギーや放射線はゲートを通してルーシーに送った。

 どうじゃ、頭金代わりになったかの?

 アリアは、コクコクと頷く事しか出来ない。

 こんなもの、売ったとしたら幾らになるのか見当もつかない。

 もっとも、魔法使いにとっての価値はそれ以上なので売る気は無いが。

「これが、「ルーシー」の力だ。」

 世界「ルーシー」とリンクしている時、この子は時間、空間、重力、原子核、素粒       子運動まで、操作可能じゃ。

 実際は、その先まで行けるがな。

 この事は内緒で頼む。

 こんな事が出来ると分かれば・・分かるじゃろ。」

 一同頷く。

 ちなみに、マーサのペンダントはチェーンまで全て、オリハルコンに変わっている。

「いつもルーシーと一緒に寝てくれる、お詫びじゃ。」

     ふもとの村

 村に到着する。

 村の守備隊と情報交換が行われる。

 侵入する魔物との交戦が増えてきたが、今の守備隊で対応は充分可能なレベルの様だ。

 魔族の部隊は今の所、目撃情報はあるが、交戦は無い。

 只、昨日より山の方から聞いたことのない魔物の咆哮が聞こえるそうだ。

「アリア、おやまにドラゴンがいる。」

「本当に?」

「クロちゃん、見つけた。」

「みんなに映像おくるね」

 ゴーグルに山の中腹の映像が映る。

 ダンジョンの入り口と思われるところに十数人の魔族の部隊が見える。

 そして、その近くに、ドラゴンがいる。

 

               

 

 


     

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