柳生十兵衛二人旅 第4話
「お主の妻は何故、その様な事を?」
「長い旅路の果て、ルーシーが進化してその時を遡り中性子星を排除した場合、私達は、ルーシーから出て元の世界、中性子星が近付かなかった世界に戻る事になる。
タイムパラドックスと言うやつだな。
だが、その時ルーシーは救った世界から取り残されて真の一人、となるだろう。
この子はもう、「ルーシー」と言う一つの世界、なのだから・・
それを恐れての事さ。」
「では、もう元の世界には戻れない?」
「実は全く方法が無い訳ではない。
ルーシーの受精卵は実は4つあった。
1号、2号は前身の「プロジェクト・ルーシファー」現代の魔王計画で使用し、
3号は、異世界に送る実験で失敗して、時空の彼方に消え去った。
その、3号がどこかの世界に存在して、接触出来れば、戻ることが可能になる。
それには、時空を超えた時のログが残っている筈だ。
まあ、偶然に元の世界に戻る可能性、よりは高いという程度だがな。
だから、私達にとっては、この子の姉を探すのも今の目的の一つとなっているな。
何、私達にとっては時間はもうあまり意味を為さない。
のんびり探せばいいのさ。」
柳生新陰流奥義
それから更にひと月近くが過ぎ、満月の夜。
湖のほとりに、十兵衛とルーシーは立っていた。
ルーシーは今では十兵衛の型を全て使える様になっている。
「ルーシー、今日はお主に最後に新陰流の奥義を教えようと思う。」
十兵衛は手に持っているお椀に水を汲む。
「ルーシー、お椀に映る月が見えるか?」
「うん、見える。」
「では、湖に映る月が見えるか?」
「うん、見える。」
十兵衛は、椀の中の月を指で切って見せる。
「水に映るは無数の月の影。
実際の月は唯一つ。
唯一つの月を斬る。
それが、新陰流の極意、だ。」
ルーシー、しばらく首を傾げて聞いていたが、やがて、
「わかった~。」
どこからか愛刀、典助を取り出すと、
「柳生新陰流、奥義ルーシー剣、た~っ!」
一刀を振るう。
そして、満月を見る。
つられて、十兵衛も満月を見る。
と、満月の表面から煙が上がると、斜めに線が出来ていく。
「な、なんだこれは?」
「ルーシー開眼、奥義出来た~。」
「ち、ちが~うっ、いや間違っては・・いや、やっぱりこんなのは奥義じゃあな~いっ!」
十兵衛の叫びがこだまする・・・
出立
それから二日後に作業が完了した。
AIもアルファ、ベータ共に再起動して新たな命を生み出す作業に大忙しだ。
いつの間にか、湖のほとりにはたくさんの果樹が増えて、果物がなっている。
湖には魚影も見え、虫の声も聞こえるようになった。
只、今はこの近辺には肉食獣はいないが、やがては生息域は交じり淘汰が始まるだろうと、ハカセは言う。
十兵衛とルーシーは、マウンテンゴリラ達に別れを告げ、ここを離れる。
十兵衛達は再びキャンピングカーでの旅に出る。
もと来た道を戻る道中の景色は、一変していた。
緑が増え、海が広がり、川も大きくなっている。
樹々の種類も増え、鳥や獣の種類の多くを見かける。
「ハカセ。」
十兵衛が呟く。
「何だ?」
「お主達は、結局人類は造らなかったのか?」
「ああ。
これは、ユーゴ博士の遺言でもある。
彼はAIに人類は自然発生に任せる様に命令していたそうだ。
まあ、彼の言いたい事は解る。
十兵衛よ、ここに来るまでに都市の後は幾つも在った。
が、残留放射線が危険なレベルの所も多かったのでな、あえて近づかなかった。
馬鹿な事さ、滅びる直前まで殲滅戦争状態だったのだろう。
自業自得と言ってもいい。
これから先、人類が誕生するとしても更なる後の事となるだろう。
次こそは、自然と共存共栄が出来る様、祈るほかは無い。」
「・・・そうか。」
二人は、生命が満ち溢れつつある光景を楽しみながら旅を楽しむ。
そして、目的地である最初の地に着く。
ルーシーは、キャンピングカーを星空にしまい二人で手をつなぎ歩き出す。
しばらく歩くと、いつの間にか霧が立ち込めだす。
目の前に道が見え更に歩いていくと、見た事のある場所に出る。
あの日、ルーシーと出会った場所・・・
・・・音のない世界。
「とおちゃん、ここでお別れだね。」
ルーシーが寂しそうにつぶやく。
「十兵衛よ、世話になった。
そうだ、礼をする約束であったな。」
「もう良いよ、わしの「心」を託せたのだからな。」
「まあ、そう言わんと。
ヲタクの奴のコレクションの刀をやろう。
なんでも、「天下の銘刀の夢のコラボ」だそうだ。」
鞘に入った大ぶりの刀をルーシーから受け取る。
「ねえ、いつかとおちゃんと、またルーシー旅がしたい。
ダメか?」
「ああ、またいつか、な。」
「じゃあね、とおちゃん。」
ルーシーは霧の向こうに駆けていく。
ふと、音が戻り霧が薄くなる。
水音がして、十兵衛は川のほとりにいる事に気付く。
何となく見覚えがある。
ここは宇治の辺りだろうか。
そういえばと持った刀を抜いてみる。
平凡なと言うか、微妙な雰囲気の刀だが、十兵衛には悪くない大きさだ。
銘を確認してみる。
「・・・村正宗・・」
「・・何と勿体無い・・混ぜてるのかこれ?
・・まあ面白いかもな。」
十兵衛は微笑んで歩き出す。
己の心は託せる相手に託した。
後は笑って、死ぬまで生きるさ。
十兵衛は力強く、柳生の里を目指し歩き始めた。
エピローグ
1650年3月21日、京の山中で十兵衛は、数十名の剣士に襲撃を受けた。
「ふん、鍵屋の辻より少し多いくらいかの?
荒木又右エ門よりは手強いと見てくれたのかな?」
これまでかと、十兵衛が迎え撃とうとしたその時、
白いワンピースを着た腰まで伸びた銀髪の女性が立ちふさがる。
「柳生新陰流、奥義ルーシー剣、ボーナス3ばい、ポイント2ばいでー、た~!と~っ!」
「ボカン、チーン、ボカン、チーン」
「痛っ」
「ギャッ」
「はうっ」
どんどん立っている人間が減っていく。
やがて、ボコボコにされ、股間を押さえて倒れていく襲撃者達。
立っているのは、十兵衛とルーシーの面影を残す女性のみ。
「ルーシー、なのか?」
「とおちゃん、迎えに来た。
一緒に行こう?」
十兵衛はニコッと笑い、
「では、勝負と行こうか。
お前が勝てば、一緒に行こう。
おっと、その奥義は無しじゃぞ、わしの教えた技で来い。」
ルーシーは構え、そして動かない。
しばらく時が流れ、ハッと十兵衛は、
「・・・ルーシー、お主もしや・・・」
「・・・忘れた・・・」
「何い~!」
「ひゅ~、ふ~っ!」
「下手な口笛で誤魔化そうとするな!
お主本当に失われた記憶持って旅してるのか?色々抜け落ちてるんじゃあないのか?
お前~な~っ!」
十兵衛の声が京の山にこだまする・・・
・・そして柳生十兵衛は翌日遺体で見つかる。
その顔に笑みを浮かべて・・
十兵衛を襲った者達は皆口をつぐむであろう。
木刀を持つ女性一人に敵わなかったなど、口が裂けても言えないだろう。
真実を伝える者は誰もいない。
ふと風の音に紛れて声が聞こえる。
「やれやれ、また一から修行のやり直しだぞ。」
「わかった~。」
おわり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます