はだしのルーシー 第2話
旅の仲間たち
「でもね、一人じゃないんだよ。」
「知ってる。ハカセ達の事でしょ。」
「ハカセもそ~だけど、ルーシーの旅の仲間、しょーかいするね。
みんな~集まれ~。」
ルーシーのワンピースのポケットから小さな銀色のカエルが飛び出す。
小さな右眼が紅く光っている。
「ひっ。」
「この子はケロちゃん。なんにでもなれるんだよ。」
上空から銀色の烏が降り立つ。
やはり、右眼が紅く光っている。
と、光る右眼と両足のほかにもう一本の足が体の上を移動している。
「ひっ。」
「この子はクロちゃん。
ちょっと怖いけど、いろいろ見つけてくれるの。」
ルーシーの足元から満天の星空が広がる。
突然星空が陰る、いや違う、何か巨大なものが足元を泳いでいるかの様だ。
「この子はキーちゃん。
おっきーの。」
いつの間にかルーシーの服に、銀の小さなトカゲがくっついている。
やはり、右眼が紅く光っている。
と額から燃えるような眼がもう一つ開く。
「ひっ。」
「この子は、ナナちゃん。
お友達を連れてきてくれるんだよ。」
ハカセ~、聞いてないよ~あたしの苦手なものばっかだよ~
何はともあれ、これからはルーシーが一緒だ。
気を取り直して出発することにする。
はだしのルーシー
出発しようとして、初めてルーシーが裸足なのに気が付く。
山道なので裸足ではまともに歩く事もできまい。
何かくるめるものは無いかとハンカチを取り出すも一つしかない。
「きゃっ!」
突然、突風が吹きハンカチが飛ばされる。
そして目の前の大木の、上の方の枝に引っかかる。
それを見たルーシーが走り出す。
「待ってルーシー、裸足じゃあ危ない。」
「へーき、影ルーシーにしてるからだいじょーぶ。」
トトトット駆け、木にぶつかる!と思った瞬間、木を垂直に走り上るルーシー。
そのまま今度は逆さに枝を立って歩いている。
不思議な事に髪も服も逆立たず、まるで普通に歩いているようだ。
そのまましゃがんでハンカチを拾い、今度は逆に垂直に走り下りてくる。
「はい。」
ハンカチを差し出して、にこおっと笑うルーシー。
さっぱり分からないが、取り敢えず裸足でも大丈夫なようだ。
気を取り直し、二人で手をつなぎ出発する。
アリアは知らない。
二人が出発した反対方向に、黒焦げになった魔族の死体が5体。
そばに怪しく紅く輝く右眼をした烏が立っていることを・・
強行軍
歩き出して20分後、
「ねえまだ~?」
「まだまだ。」
40分後、
「ねえまだ~?」
「まだまだ。」
1時間後、
「ねえまだ~?」
以下同文。
さすがに、子供の足では限界かと思い、そろそろ休憩をと思っていた時。
前方から馬車が走ってくる。
手綱を握っているのは教会騎士の様だ。
助かった、色んな意味で・・
「ご無事で?馬車が空で村に戻って来たので、何かあったのかと思い取り急ぎ来ました。
他の冒険者達は?それに、その子は?」
アリアは、他の冒険者達は全滅した事、ルーシーは説明が面倒なので、魔族に捕まっていたのを助けたことにした。
「よくご無事でした。」
「こんにちわ、あたしルーシー。」
にこおっと笑うルーシー。
「可哀想に、怖かったろうに、こんな小さな子を・・」
「それよりも急いで村に戻って!私はこの子を連れて一刻も早く教団本部に戻って、報告しないと。
あなた達も村の守りを固めて頂戴、上にいるのは魔族の部隊よ。」
「了解しました、アリア様。」
急いで村に戻り、村に来た時に乗ってきた馬を出してもらう。
ろくな休憩も取れず、ルーシーに悪いが一刻を争う事態だ。
ルーシーと自分を結び付けてアリウスを目指して馬を飛ばす。
数度、水場で馬に水を飲ませて翌朝早くにアリウスに着く。
そのまま街門を抜け教団本部にたどり着く。
聖女候補のアリアを知っている教団騎士も多く、すぐに近づいてくる。
ルーシーは、よく寝ている。
結んだ紐をほどき、騎士にルーシーを預かってほしい旨を伝える。
「私は大司教様に緊急の報告を。」
「司教様の部屋に皆集まっておいでです。」
「ありがとう、お願いいたします。」
アリアは急いで大司教の部屋に向かう。
報告
部屋には、大司教、聖女、騎士団長がいた。
「・・・ダンジョンの発生の有無は確認前に襲撃を受けた為、確認できませんでした。
襲撃したのは魔族軍、それもかなりの戦力でした。
生き残ったのは私一人です。
申し訳ありません。」
「いやお前だけでも良く生きて戻ってくれた。
お前の身にもしもの事があれば、私は後でレムスに何をされるか分からんからな。
しかし、他の冒険者達には申し訳が立たぬ。
あとでギルドにも謝りにいかねばならぬ。
で、これからの事だが、騎士団長はどう考える。」
「魔族軍、それも一定の戦力だとすれば、陽動作戦、もしくはダンジョンの魔力利用、魔王の利用、などが考えられます。
いずれにせよ部隊を派遣するべきかと」
「そうだな、ダンジョンが出来ているかまだ不明の現在、送る騎士団の他に、
冒険者も送る必要もあるか・・
すまないがアリア、マーサは2日後、3日後にレムスとアルが戻ってくる予定だ。
10日後騎士団を出発させる。
それまでに、ダンジョンに入る準備をして、共に行ってくれ。
ギルドにはこれから使いを出す。
今日はもう帰ってゆっくり休んでくれ。」
「分かりました、失礼します。」
アリアは思い返し、
「大司教様、魔の国の件は進展はあったのですか?」
「それは、私が答えましょう。」
聖女が答える。
「噂はどうやら本当の様です。日に日に魔の国からの魔力が高まっています。
魔の国からも避難する人が出始めました。
さあ、取り敢えずはゆっくりとおやすみなさい。」
大司教様や聖女様に気を遣わせる位だから、自分はよっぽどひどい顔をしているのだろう。
退室をして門番の小屋に向かう。
門番の騎士がアリアに声をかける。
「すんだかい?あの子は大丈夫だ。
ちょくちょく様子を見てるが、よく寝ているよ。」
「ありがとう、兄ちゃん。」
彼も孤児院の出身だ。
少し年上で小さい頃は面倒を見てもらった。
「お前の子か?」
「ばかっ違うわよ、村で保護したの。」
「じゃあ孤児院に?」
「ううん、落ち着くまで、あたしが家で面倒を見るつもり。」
「そうか。
その子が落ち着いたら俺んちに連れてきな、うまいもん腹一杯食わせてやるからさ。」
「ありがとう兄ちゃん。」
あたしはこの街が好きだ。
みんな優しい。
だからこそこの街は戦場に絶対にしたくない。
寝ているルーシーを背負って教団を後にする。
アリアの家
道中、食料を買って家に向かう。
冒険者を始め、2年前アリアは街の外れに、念願の家を買った。
東の国の生活にあこがれて改装を施す。
実際、戻るのは1年ぶりとなる。
結界魔法を施しているので防犯は完璧だ。
アリアの結界を破れる者はそうはいないし、
万が一破られても、アリアは瞬時に解る。
家に近付いた所で、ルーシーが目覚める。
「ルーシー、あれがあたしの家よ。
今日からあなたもここで暮らすの。」
「わかった~。」
ルーシーがアリアの背中から降りると、家めがけて走り出す。
「ちょっと待って、今結界を・・えっ?」
ルーシーはアリアに探知させず、また結界など無い様にするりと通り過ぎる。
感覚上結界が無くなってはいない。
これは一体・・
「アリアー早く~。」
アリアは気づき、初めての来客に必ずいう言葉、
「私の家は土足厳禁です」
言いかけて、ルーシーが裸足だった事に気付く。
「ルーシー、家に入る前に足を洗ってね。」
「ルーシー、お外はルーシー踏んでるから地面触ってないよ~」
「???」
そのまま、ルーシーはドアを開ける。
結界があるので、鍵はかかっていない。
ルーシーが家に入った途端、
「トットットット」
そういえば初めて足音が聞こえた。
ルーシーがふいに立ち止まる。
背中を越しに足をあげ、自分の足の裏を見る。
「アリア、ばっちい。」
あ~すみませんね~、一年振りなもんで。
「お掃除するね~、ケロちゃんお掃除して~。」
ルーシーのポケットからケロちゃんが飛び出す。
ケロちゃんの形が崩れ、スライムのようになると、姿が消える。
何かが足の裏を通り過ぎるような感触、次の瞬間ぱちんと逆に戻る感触がして、
ケロちゃんが現れる。
「ゲップ。」
少し大きくなりお腹がパンパンになっている。
アリアは足の親指の先で、床をキュッキュッとこすってみる。
きれいになっている。
アリア、思わず、
「ケロちゃん、うちの子にならない?」
ルーシー、
「だめ~っ。」
お風呂
帰ってすぐ、アリアは浴室に向かい風呂にお湯を張る。
改装して最も力を入れて改装した部分だ。
この国は風呂に入る文化は無い。
タンク内を火魔法でお湯にして湯を入れる。
ルーシーは、早速探検を始めている。
部屋を物色するルーシーをなだめ、エッチな下着を見つけ喜ぶルーシーを怒鳴り、風呂に連れて行く。
服を脱ぎながら、そういえばルーシーの服を考えなかったのはうかつだった。
「ねえルーシー、下着って・・・」
ルーシーがワンピースを脱ぐ。
「・・・おふんどし・・・」
「とおちゃんにもらった。
武士は、越中の白に限るっていってた。」
「ハーカーセーッ?」
「なんじゃ、やかましい。
とおちゃんは以前一緒に旅をした武士の事じゃ。
以来、ルーシーはそれを愛用しておる。
ルーシーが気に入るなら、好きなものをはかせればよかろう。
まさか、最初に呼び出されて聞かれるのが、ふんどしの事とは思いもよらなんだわ。」
明日は、絶対服屋に行こう。
不本意ながらふんどしを洗って乾かし、上はアリアの小さめの服を着せ、ご飯にする。
思えばこれがルーシーと出会って最初の食事になる。
少し悪いことをした。
そのせいか、ルーシーは、よく食べた。
食後、ルーシーは、どこからか歯ブラシと水の入ったコップを出して、歯を磨いている。
まあ、これはいい事だからと、気にしない事にする。
ブラックホール
ふと気が付くとルーシーがいない。
外を見ると、ルーシーはハンモックに腰かけている。
アリアも外に出て、ルーシーの隣に並んで座る。
「ルーシーがある方向を指さす。
右眼からも一本の紅い光の線が伸びている。
「あっちに、違う世界だけどルーシーのいた星があったんだよ。」
「今は?」
「無い、ブラックホールがある。」
「見えるの?」
「ううん、分かるの。」
ハカセの声がする。
「ワシらの世界では、太陽に中性子性が衝突した。
その最後は見ていないが、もしもブラックホールが出来たなら発生時の輻射熱で人類などあっという間に焼かれただろう。
もっとも、太陽の光を失った時点で助かる未来は無い。・・」
二人でしばらく星空を見て、二人は同じベッドで眠りについた。
その晩、アリアはルーシーの寝相の洗礼を受ける。
チョップ3回、キック2回、地味にこたえる身体の下に潜り込む攻撃2回、
少しおとなしくなったと思うと、ルーシーがいない。
くーくー寝息はどこからか聞こえる。
ふと気が付くと、真上の天井にルーシーが張り付いている。
突如上からルーシーが降ってくる。
プラス、フライングボディープレス一回。
アリア、ご愁傷様です。
翌日アリアは昼前に目が覚めた。
ルーシーがいない。
外を見ると、ハンモックで遊んでいる。
あたしもそうだが、ルーシーもお気に入りの場所になったようだ。
遅めの朝食をして、まずギルドに向かう。
手をつないで入る。
古参の冒険者が近づいてくる。
「よお、久しぶりだな、いきなり大変な目にあったそうだな。」
「あたしはいいけど、ジェスたちが・・」
「気に病むな、俺達は冒険者だ。
何時かは自分もっていう覚悟はできてるさ。
自分より若い奴が先に逝くよりは、まだ納得できるさ。」
アリアは、売店でジュースを買い食堂の机に置きルーシーに待っているよう伝えて
ギルドマスター、ギルマスの部屋に行く。
「よお、お疲れさん。
昨日大司教がここにきて、ジェス達の事を謝りに来た。
それで、お前達に正式に依頼したいそうだ。
レムスが戻ったら一度みんなで一緒に来てくれ。」
下に降りると、ルーシーがジュースを飲み、足をプラプラさせて周りを見ている。
「お待たせ、行こっか。」
こくんと頷くルーシー。
手をつなぎ、ギルドを出る。
何はともあれまず服屋だ・・
服屋
服屋に入る。
店員が近づいてくる。
「この子の下着を見に来たんだけど。」
「アリア、新しい越中か?」
「誰が買うかそんなもん。」
「武士は越中なの。」
「あんた武士じゃないでしょ。」
「ルーシー武士なの!柳生新陰流、免許皆伝なの。」
「あっあのー」
店員さんがおずおずと割って入る。
「ありますよ、越中。」
何だと?
「東の国のお客さんもいるので、男の子用になりますが。」
「それ、ほしい~。」
「いやよ!」
「じゃあ何にもはかな~い!」
「・・・・・」
結局アリアが折れた・・・・
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