第六話『2052:ニケの手巾』
〈〈〈 二〇五二年〈〈〈
中三の夏。
放課後。
「元三、これ、詰んだわね」
佳子が、冷静に、目玉を左右に振って
「はぁ!? ま、まだわからないし!? こっちには一ターン目から大事にとってある伏せカードがあるんだ。ほら、
元三が、ソワソワしながら、
「いや、それはハッタリだね。ここは攻めるべきだ! いけ! 勝利の女神ニケで、
美樹仁は元三に向かって、大振りの指差し、漫画のキャラクターばりの決めポーズで、そう叫んだ。
「くっ……うわぁぁああ!!! 俺の負けだぁ! やっぱり美樹仁はカードゲームも強いなぁ」
元三は、手札をわざとらしくばら
「あはは、それほどでもないよ」
美樹仁は貴族のような
「この間の理科のテストも
「カードゲームはともかく、理科のテストとなったら……なんたって、世界的な理論物理学者、
「そんな強い後ろ盾は、ずるいよなー。遺伝子っていうのは、残酷だよ!」
「それに……勝利の女神"ニケ"、もついてたことだしね、ほらこれ」
美樹仁は、勝負の決め手となったカード、『勝利の女神ニケ』を、元三の目の前へと持っていき、自慢げに見せつける。キラキラとしたホイル加工になっているレアカードは、その紙部分のみが、湿気を吸ったせいで
「くーっ! 絶版になった三年前の初期イラスト!
元三は、そう言って、しょぼくれながら、広げられたカードたちを、一枚一枚、床上の
「ねぇ、神々の戦の直後に失礼しちゃうけど、実は…………私から発表があります!」
佳子が、立ち上がって、
「「おっ、なにー?」」
元三と美樹仁は、飼い主に駆け寄る犬のように、佳子の足元に
「今度、最後の大会があるじゃない? そこで、せっかくだから、
佳子の、エモーショナルな提案。
「いいじゃん!」
大賛成の美樹仁。
「メーカーは?」
早速話を進めたがる、元三。
「そりゃ、
当然だ、と言わんばかりに、美樹仁。
「あ、
「だって、勝利の女神、"
「あれ、ニケって読むのか! 知らなかった! 俺の履いてる
「おっけい、なら、
佳子は、美樹仁の持つ、
***
夏の終わり。
全国中学生サッカー県大会。決勝戦。強豪二校、
「よし、
「はい、先生!」
佳子と数人の女子マネージャーたちが駆けた先には、大きな
「なるほど、ハンカチ、いつ渡されるのかと思ってたけど、このタイミングか」
「おっ、ついに女神様のお出ましか」
元三と美樹仁がそう言いながら、
「はい、元三、美樹仁」
佳子の声。
そして、ぺちぃっ、と、何かが叩きつけられるような音。
「「冷たぁっ!」」
元三と美樹仁は、二人して叫ぶ。
「はい、今ので勝利の
佳子は、
元三と美樹仁の手には、いつの間にかキンキンに冷えた"
「ありがとよ。じゃ、勝利の女神の名に
拳握る元三。
「ああ、
と言って、
「おい、"
元三の足元、ハンカチからの水滴で濡れた、
「はは、ごめんごめん。佳子、ありがとな! バチバチに決めてくるわっ!」
美樹仁がそう言うと、元三と顔を見合わせ、二人揃って、汗か水だかわからないもので濡れた、
***
その汗の
焦り。
延長線開始早々、超越中は
一対二。
あと、二分、あるか、ないか。
だが、ついに、"その時"がやってきた。
フィールド上、センターラインを挟んで
それが、ついに……
——逆行する。
センターサークルのど真ん中、チームメイトの一人からパスを受ける
「ヘイ! ミキヒトッ!」
陣形の
元三だ。
敵陣の
「いると思ったよ」
ミキヒトはボソッと
「ナイスッ!」
元三の
ゴールの方へ、吸い込まれていく元三…
タッ、タッ、タッ、と翔け、翼が生えたように、軽快なドリブル。
「お"ぉい元
ミキヒトは、やけに緊張感のない声で、そう声を投げる。
そう、ミキヒトは。
勝利を確信したのだ。
「まかせろぉおお"お"!!!」
そう叫びながら猛進する元三は、もう、誰にも止められない。
——そして
ピィと、同点の笛。
その勢いのままに……
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