第二話『2049:過去を巡りて』
〈〈〈 二〇四九年〈〈〈
春と夏の過渡期。
向かって、左から順に……
彼らは今、妙なことに、顔は真顔で、口元は、妙にニヤついている。というのも……
今、中学校じゅうで、「
が、ごっこあそびに水をさすように、教室のドアがガラガラと開いた。
社会科教師の
「おい、お調子者トリオ、授業始めるから、ハンカシュイごっこは終わりだ」
と、手をパチパチ叩いて、仏像の呪いを解く。
三人はつまらなそうな顔をしながら、机の引き出しから、歴史の授業に必要な、
日本史の授業が始まる。
先週は、旧石器時代から奈良時代の範囲で問題が出題される定期テストが行われた。今日は、テストの返却と、答え合わせが行われる、というわけである。
教壇に立つ
まずは、
「うい、野尻。お前は本当にゾウが好きだなぁ」
「え、どういうこと、時藤先生」
「まぁ、見りゃわかるさ」
「ふーん……あ! "65"かぁ。まずまずってとこだなぁ」
次に、
「うい、
「あ、もしかして俺、満点取っちゃいました?」
「あぁ、そのまさかだ」
「おー! 百点満点! いぇーい!」
そして、
「うい、
「やだ先生、そんなセクハラ、校長先生にチクりますよ?」
「あーっとすまない! お願いだからそれはやめてほしい!」
「ま、冗談ですよっと……あ! "96"は中々いいじゃない。もしかして、
「じゃあ、答え合わせするぞー」
と言って、年季の入った黒板に、炭酸カルシウムの白いチョークを走らせ始めた。
***
「えー、ここは旧石器時代についてだな。〈一九四八年、長野県の
時藤が嫌味っぽく尋ねる。
「はい、『ナウマンゾウ』でーす!」
「おい野尻、元気がいいのはいいことだが、わざわざ立たなくてもいいって。自己紹介か?」
「あ、すみません。
「「アハハハハ!!」」
と笑うのは、
「あ、元三、そろそろ座ったほうがいいかも。みんな、ドン引きしてるから」
と、元三を座らせる。
「じゃあ次の問題は、
「ちょっと時藤先生、変な呼び方はやめてくださいよぉ!」
「「「「アハハハハ!!!!」」」」
と、今度はクラスの皆が笑ってくれた。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎広隆寺弥勒菩薩半跏思惟象⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「ガッハッハッハ! 野尻、やっぱりお前は、野尻の名前に
「何? 時藤先生、どういうこと?」
「元三、"ゾウ"の字をよく見てみろよ。
「あ"ーっ!」
と、叫んだ元三は、失意のあまり
「はい、ぴえん超えてパオン。正解は『
そう言って時藤は……
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎広隆寺弥勒菩薩半跏思惟象🐘パオン!⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
"象"の横に、ゾウの絵を書き足した。
「しかも最下位だったのかよ! まずまずとか言ってたのがバカみたいだー! くそー、弥勒菩薩の身長と寿命なら答えられたんだだけどなぁ」
元三が、起き上がって、教卓の上にひょこっと出てくる。
「何それ、ちなみにどれくらいなの?」
佳子が尋ねる。
「身長は八キロメートル、寿命は四〇〇〇年。すごくね? 資料集に書いてたよ?」
元三は、自慢げに答える。
「じゃあ、せっかくならそこを見てみようか、皆、資料集の十三ページを表示してくれ」
と、時藤が、生徒の私語をうまく活かしてやる。
クラスの皆が、一斉に、
生徒たち全員の資料集のパネル上。
妙な姿勢で円柱の台座に座る仏像の画像が、大きく映し出される。
画像の下に、説明書きがある。
〈
「へぇ、弥勒菩薩って、未来に降りてくるのね。タイムマシンにでも乗ってるわけ?」
「うーん、どうだろう。仏ってくらいだから、もっと得体の知れない超常的パワーを使いそう。でも、飛鳥時代の人が、タイムマシンって発想を持ってたとしたら、それはそれで興味深いなぁ。おーい、どうなんだ、
美樹仁は腕組みをし、斜め上を向いて、過去の大物政治家に、届くはずもない念を飛ばす。
「へぇ、タイムマシンねぇ……。にしてもこのポーズ、本当面白いよな。みんなでやろうぜ! な! な!」
まだ教壇に堂々と陣取っている元三が、提案する。
「おい野尻、教師から授業の主導権を奪うなって!」
「いいじゃん、時藤先生もやろうやろう!」
元三は、時藤を教卓の隣の担任教師用のデスクに無理やり着かせ、自身も席に戻る。
そういうわけで一年X組の生徒たちは、半ば強制参加で、
まず、お調子者トリオが
異様な光景。
こうして、三十体
「おいおい、みんなまだ、恥ずかしがってるんじゃないか? 口元には
元三が、皆に指図する。
「おい元三、そんなことよりも
美樹仁が、頬に伸ばしたままの右手の肘で、左隣の元三を小突く。
「ばーか、そんなにデカくねぇよ。なぁ、佳子?」
元三の、デリカシーを欠く発言に不意打ちをくらい……
「にょっ!? ……なんのことかしら?」
と、佳子はあくまで純粋な
〉〉〉第三話『2069:夜襲』へ 〉〉〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます