第十三話『2069:騎乗』

 〉〉〉二〇六九年 夏の終わり 〉〉〉


 

 古風な洋館。

 門扉もんぴ横の石垣に、"野尻"の表札がかかっているが、それらは、道路側に立つ立派な体躯たいくの茶色い毛並みの馬によって、見え隠れしている。

 ダイニングにある、大きなアンティーク風──様式──のテーブルでは、刑事の横田匡よこたたすくが、二人の人間──野尻佳子のじりかこ現御神あきつかみ──の前でくどくどと話す。

 

「では話を一度整理します。昨日、野尻佳子のじりかこさんの夫、元三げんぞうさんあてに、未来の元三さんから、何らかの機械で文章がタイプされた手紙が届いた。手紙を読んだ元三さんは、自分自身にひどく失望し、直後、自死をほのめかす内容の手書き文書、つまりは、遺書を残した。そして元三さんが秋津上さんのところに、この『時を超える現象』ともいうべき出来事について、相談をしに行った。これら一連の流れが事実であるのは……寝室のナイトテーブルの引き出しから見つかった、未来の元三さんから現在の元三さん宛の手紙、それとその内容を踏まえた遺書のようなもの、そして警察の方で確認させてもらった電話の記録から、明らかです。ここからは秋津上さんの証言、ということになりますが……元三さんは、秋津上さん宅に昨日午後五時過ぎに到着。数時間話すと、元三さんはこの先自身がどのような選択を取るべきかの答えを出せないまま、秋津上さん宅を出発。その時の会話の内容は主に、先にも述べた、未来の元三さんから届いた手紙について、そして、秋津上さんの研究している"タイムマシン"について。この会話の中で、元三さんは秋津上さんに、手紙には『先日の強盗未遂の犯人は未来の元三さんだ』と書かれていたことを伝え、また逆に、秋津上さんは元三さんに、『自分は確かに時間についての研究は続けているが、未来の自分がタイムマシンを完成させられるかどうかはわからないから、話の全てを信じたくても信じられない』と伝えた。佳子さんに関しては、昨日は夜遅くまで職場で仕事だったため、昨日元三さんと秋津上さんに何が起こったかは、さっき初めて知った。ここまでの内容に、間違いはありませんか?」


「あ……ええ」

「はい」

 返事は佳子、美樹仁の順。


「で、ここからは新しい情報です。たった今私の部下の寄越よこした報告によると……事件の翌朝、つまり今朝けさ、ここから東へ十五分ほどの山中さんちゅうで、野尻家の自家用車と同じ車種、同じ型式かたしきの車が、見るも無惨な姿で見つかった。これを、我々は昨日元三さんが乗った車であると断定することは、残念ながら……できない。理由はたくさんある。いや、たくさんあるという点よりも、それらの異常さという点が強調されるべきかもしれない。その車は……の量産型自動車。配線が徹底的に取り除かれている。ナンバープレートが外されている。ボディ全体はなぜかされていて、しかもは目のあらいものからこまかいものまで少なくとも数十段階のものが使われているので、傷の付き具合から持ち主を特定することも叶わない。内装のカスタムは一切なしの標準デフォルト状態。おまけに……草食動物のフンの様な、草の繊維混じりの汚物でまみれていて、車に染み付いていたあであろうにおいも、手がかりにできない。それら全てが、一夜のうちに行われたというのは、物理的には考えにくいですが……もし万一、一夜のうちに行われたのであれば、あまりに異常で用意周到よういしゅうとうな計画的犯行、と取れなくもない、といったところでしょうか」


「……」

 佳子は茫然自失ぼうぜんじしつとしており、横田刑事の話は、頭に入ってきてはいない様子。


「気味が悪いですね」 

 未来人ミキヒトは、一言、そう言った。




***




 〉〉〉二〇六九年 人肌ひとはだ恋しい冬 〉〉〉



 元三✴︎  

  失踪     ✴︎

    ✴︎  数ヶ月 

   より  ✴︎

 ✴︎       後

   

 

 夜。

 洋館。

 建物の規模の割には、明かりのいている部屋の数は、ひどく少ない。ここには今もなお……行方不明になった元三が見つかる見込みは無く事実上の寡婦かふとなった佳子が、住んでいる。


 足音。


 元三が、何の躊躇ためらいもなく敷地に足を踏み入れ、門扉もんぴの裏のレバーに手を伸ばし、、玄関扉を、鍵をきちんと使って、迷いなく、一番腕への負担が小さくなる力加減で、開ける。


 その何者かは、暗い玄関でパタリと立ち止まる。

 ギギギと蝶番ちょうつがいあえぎ。

 扉はバタンと閉まる。

 玄関の明かりがく。

 何者かの目の前に、佳子が突っ立っている。

 佳子は、おびえたり、動揺したり、叫んだり、後退あとずさりしたりなどしない。

 むしろ、冷たい玄関の三和土たたきの上に、裸足はだしのまま、一歩踏み出す。

 そのまま、元三の元に一直線。

 迷わず抱きつく。

 男の方もそれにこたえて腕を佳子の背に回して抱きしめ返す。


「元ちゃん、おかえり」

「佳子ちん、ただいま」


 佳子は、男を元三として受け入れている。

 男は……




 元三の顔の覆面マスクを改良している。

 表情を柔軟に動かせるようになっている。

 声は元三のそれに似せている。

 恐らく変声機ボイスチェンジャーを装備している。




 声もなく、手が、昆虫の胸部こいびとつなぎされる。

 

 どこかへ向かう。


 洗面所。


 互いに、いているものを膝下ひざしたまでズリ下げて、その他の服は着たまま、後背位どうぶつ方式で。


 洗面台の大きな鏡には、二人の肉欲き出しの姿が映る。


「こんなところで……いけないわ……」

「……………」


 生物として、自然な行為の、音。


 二人の足。

 計四本の、嵩張かさばった衣類で下部がふくれた足は、床下収納の正方形の扉の上。


 そして……


 全てのころもを、せかせかと捨て去る二人。


 肌と肌がこすり合わされ、寒気の中で、摩擦熱まさつねつを得る。


 テレビからの、高価値の時間ゴールデン帯の番組の音声がかすかに聞こえる。


 男の首のぎ目は、完全には隠されていない。


 佳子は、体の火照ほてりのせいか、体をむさぼられるのに熱中しているせいか、音にも継ぎ目にも、気づかない。


 音が止む。


 男は佳子を姫様方式おひめさまだっこで、持ち上げる。


 寝室へ。


 ベッド上。


 白いシーツ。


 『2』つの赤裸々せきらら


 下に男、上に佳子。


 『0あな』に指がし込まれる。


 トランプの絵札の上下対称69方式。


 股を吸い合う。 


「佳子ちん、俺、長い運転で腰を痛めてるから……乗って欲しいな」

「お馬さんがいいの?」

「ああ。俺は種牡馬しゅぼばだ。しぼり取って欲しい」


 『0あな』に、やや左曲がりのものが挿入そうにゅうされる。


 白い瓢箪ひょうたん上下動じょうげどう

 一回パン二回パン三回パン四回パァンと、またがる佳子のモチっとした恥丘ちきゅうが、男の股間の鬱蒼うっそうとしたしげみに、杭打くいうつ。


 きしむベッドの横、ナイトテーブル上には、元三が小学四年生の時に作った、ランプが、置かれている……



 〉〉〉 第十四話『カコの声』へ 〈〈〈

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