第七話『2069:未来人からの少数報告』
〉〉〉二〇六九年 〉〉〉
蒸し暑さは続く。
警察による捜査から数週間が経ったが、虹色の未来的な刃物を
ある朝。
青い空、白い雲、雲で
「じゃ、いってくるわ」
「ああ、気をつけて」
今日は、佳子だけが仕事で、元三は丸一日、休みである。
「あ!
「ああ、まだだったか。というか、そもそも新聞、きてたか? いつものオンボロチャリンコのキィキィって音はしなかったが……」
「いや、
「おいおい、カーテン開いてたのか? 新入りに見られてたらどうするんだよ」
「いやぁねぇ! 元三が朝から
「ごめんって」
「うふふ。でも気にしなくていいのよ? 私もアレだったから」
「なんだよそうだったのか! なら早く言えよ」
「そんなのつまらないじゃない」
「まぁ、そうだな。って、急ぐんじゃないのか?」
「本当! 遅刻しちゃう! いってきまーす!」
元三は、一人職場に向かう佳子を、
佳子が遠のいて見えなくなると、
新聞はない。
代わりに、一通の便りがある。
小ぶりで
それは、今どきの
わざわざ〈紙〉を使っている割には、
何かしらの機械を用いて作られたのだろうか、
手書きではなく、タイプされていて、
無機質なありふれた字体のみで、
埋め尽くされている。
元三の二つの目玉が、コロコロ転がるように、文字を追う。
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過去に生きる俺へ。
まず始めに自己紹介を。俺は、二〇七九年の野尻元三だ。この手紙が届く頃俺は……例の事件もひと段落していることだろう。つまりは、俺の家に押し入った侵入者の話だ。単刀直入に言えば、あれは、俺だ、
——俺は、タイムマシンを発明したことで、時を自由に行き来する存在になった。つまり、既存の人間よりも高次の存在となったのだ。具に言えば、この地球というアインシュタイン的四次元時空を超越し、より高次元の住人となったのだ。だから俺はもはや……躊躇わずに言えば、現在、過去、未来を俯瞰する、神のような存在なのだ。
一言一句違わず、とはいかないかもしれないが、とにかく、そんなことを言っていたよ。
ちなみに俺は、全てを実行する前に、佳子の人生を変える旅に出る前に、現在、つまり二〇七九年において、この手紙を書いている。そして、過去に着いてすぐ、事件から数週間後の日付指定便で、この手紙が届くように手配していることだろう。お前がこの手紙を読み終わる頃には、とっくに、俺と佳子が結衣奈の障害のおかげで苦しい生活を余儀なくされる未来は、健やかなる結衣奈ではない他の子供と幸せに過ごす未来に変わっているはずだから、過去の改変が未来に反映される前に、前もって手紙を書くしかない、というわけだ。
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未来の野尻元三を名乗る人物からの、手紙。
数箇所、
〈〈〈弁士による挿話『サイエンティフィック・ミス~博士の偽造の惨状~』へ〈〈〈
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