弁士による挿話『サイエンティフィック・ミス~博士の偽造の惨状~』

 〈〈〈 二〇六九年 梅雨〈〈〈


 野尻夫妻宅に、謎の男が押し入る数ヶ月前のこと。 



 理論物理学者、秋津上繁茂アキツカミハンモ博士の大スキャンダルが発覚した。



 なんと……



 彼のほとんど全ての報告は、捏造ネツゾウだったと判明したのである。



 一つ、アキツカミ式望遠鏡は、発明されていなかった。


 二つ、地球から五六億七〇〇〇万光年彼方の銀河団"Archaïque"アーケイキなど、なかった。

 

 三つ、二七〇〇億太陽質量の超大質量ブラックホール"Tusita"トゥシタなど、見つかっていなかった。


 四つ、地球の終焉シュウエンなど、訪れなかった。


 五つ、水星ヘルメスのそばに、ワームホールなど、なかった。


 六つ、ワームホールを抜けた先が、超大質量ブラックホール"Tusita"トゥシタに繋がっているはずも、ない。


 七つ、遥か彼方の宇宙に地球型惑星エイザレスなんてものが存在するはずも、ない。


 八つ、地球が宇宙船になるはずも、ない。


 九つ、二八二億人を救う核融合エンジンなど作ることもできなければ、作る必要もない。


 全ては、デマゴギーだった。


 秋津上繁茂アキツカミハンモ博士は、ただの終末論者エンドタイマーだった。



 〈〈〈 第八話『2046:図画工作』へ〈〈〈

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る