第四話『2049:机上論』
〈〈〈 二〇四九年〈〈〈
放課後。
クラブ活動は、顧問の不在につきお休み。暇を持て余した仲良し三人組は、
扉が部屋側に、勢いの割には音も無く滑らかに、開く。
「そうだ、さっき学校でしてた話になるけどさ……」
元三が切り出す。
「なに、まーたタイムマシンの話か?」
美樹仁が、控えめに食いつく。
一方で佳子は、ふーん、という顔をしてから、ぼーっと部屋の隅を見つめ始めてしまう。
「『また』とか言うなよ、物理学者の息子がよぉ」
「まぁね。で、タイムマシンがどうしたって?」
「いや、あるあるの質問だけど、未来か過去ならどっち派、的な話がしたいってこと」
「なるほど、未来と過去ね。元三はどうなんだ?」
「そりゃあ過去だよ」
「あ、俺も同意見」
元三と美樹仁は、即時アイコンタクトの後、友情の拳を突き合わせる。
「なーんだ、美樹仁も過去派か」
「そりゃあね。で、その理由は?」
「過去に行って、恐竜の卵を持って帰って、現代に本物の恐竜博物館を作るんだよ! ワクワクするだろ?」
「なんだそんな理由かよ、子供っぽいなぁ。それに、命を別の時代に移動させたら、タイムパラドックスが起こりかねない。
「インガリツぅ? 俺のわからない言葉を使わないでほしいなぁ。そういう美樹仁はどうなんだ? どうして過去?」
「
「ナウマンゾウだって!? それならこの俺の股の間に……っておい! それこそ歴史のテストのナウマンゾウに引っ張られてるじゃないか!」
「アハハハハ! 元三の答案みたいにな!」
「あんまバカにすんなって。結構あれ、
「いやいや、俺にはそんな大層なこと……あ、ちなみに佳子は? 未来派? 過去派?」
佳子が、ようやく会話に引き入れられる。
「うーん……未来、かなぁ? うん、絶対未来!」
佳子が、妙に確信を持ってそう答えると、
「「どうして!?」」
と、元三と美樹仁は声を
「だって、未来人がどんな生活をしているんだろうって、興味湧かない?」
佳子の言葉で、元三と美樹仁は、同時に腕組みをし、それぞれ別方向の斜め上を見上げ、未来の地球を思い描いてみる。
「「…………」」
二人の思案の時間は、なかなかに長い。
「えっと……で、どう? 二人の想像した未来人の生活はどんな感じ?」
佳子が、困惑気味に、二人を
「未来人
と、元三。
「あ、俺も」
美樹仁も、同じ。
「なによ、あんたたち、気持ち悪いくらいに仲がいいわね。ちなみに自分自身の将来って、どんなのを想像したの?」
と、佳子が質問を微調整すると……
「漠然と、地元離れたくないなーって」
「あー、なんだか元三らしいわね」
元三は、特別驚かれることもない。
「俺は物理学者になりたいかなーって」
「あんたもよ」
美樹仁も、佳子の想像の
「あ、そういえば! そもそも未来か過去かって質問をすること自体がおかしいかも!」
美樹仁は一人ソファから、バッと、立ち上がってそう叫んだ。
「「へ?」」
元三と佳子は揃って、間抜け
「過去派の俺が言うのもなんだけど! 現在から過去に行くのは難しそうだって! この間お父さんが言ってたんだ!」
美樹仁は、興奮気味である。
「(裏声で)ねぇ、聞きなすった?
「ええ、しかとこの耳で。あの先生がおっしゃるならきっとそうなんでしょうねぇ。では、この議論はおしまいかしら?」
佳子は元三
「いやいやいや! ぜひとも天才博士の息子の解説を聞きたいね、
と、すぐに正気に戻った元三に
「えー、まだ理系っぽい話続けるの? アレルギー反応出ちゃいそう」
佳子の声は、今の美樹仁には届かず……
「オーケー、そんなに聞きたいなら詳しく話して差し上げよう! 過去は無理。でも、
美樹仁は両手を広げ、部屋の天井を
「何言ってるがさっぱりだな。相対的に未来に行くっていうのはつまり、何がどうなって未来に行ったことになるんだ?」
なんとか食らいつこうとする元三。
「ふーん……」
「オーケー、元三ボーイ、質問ありがとう! 例えば、つい先日、お父さんが、アキツカミ式望遠鏡で撮影した超大質量ブラックホール
「あー! なんとなく理解したぞ! それに、それ聞いて思い出した、ちょうどあの映画みたいだな、『インターステラー』!」
「あぁ、三〇年と少し、昔のSF映画だね。超名作」
「あれなー、俺にはわけわからないんだけど、なぜか何回も見たくなるんだよな! なぜか気づけば涙が出てるんだ、あれ見てると!」
宇宙談義が盛り上がりを見せる。
が、すかさず佳子が、
「あ! SF? じゃあつまりそれは、
と、議論を終わらせるための粗探しを試みる。
「おいおい、サイエンス・
と、美樹仁の主張の後ろ盾は、あまりにも強大である。
「へぇー、それなら、まぁ、すごそうねー」
「あれ、でも待てよ? 一方が相対的未来に行ったことになるなら、もう一方は相対的過去の存在に接触するとも言えるのか……過去の存在と接触するということは、過去を経験すると言えなくもない……。ちょっとややこしくなってきたぞ?」
「あれ、美樹仁、私の声、聞こえてる?」
「いやでもそんな理屈が
美樹仁の声は、ほとんど独り言である。
現に元三と佳子は、
「おいおい、美樹仁にわからなかったら、俺たちにはわからないぞ?」
「ほんとそうねー」
と、もう、美樹仁についていけない。
「あーっ! あれを忘れてた! 新作カードゲームの"
と、美樹仁の急旋回。興味の対象が飛び移る。
「もー、忙しいわね。次は一体何なのよ?」
振り回されることに
「コマーシャル見なかった? こんなやつ、『(重低音で)神々を操り、戦え!』」
美樹仁が、どこからともなく、大きめの
「あ! ここに〈紙製〉のマーク! 珍しいな、最近は
元三が食いついて、箱をひったくる。
「そうだ! 紙の神だ!」
美樹仁は立ったまま、右手の指先を
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