◈猫可愛がり【2024/11/07】

 それはまさに、猫可愛がりである。


『……うむ! ばばはアルフが元気そうで安心したぞ! 用が済んだらすぐに戻るからの、いい子で待っていておくれ!』

「あはは、分かってるよ~。流石に僕ももう二十歳だから、昔みたいに泣き喚くとかはしないからね?」


 アカツキは静かに、通信リンク越しに語り合う祖母スズカアルフレットを眺めながら、その結論を導き出した。


「……あーあ、早くばば様に会いたいなぁ」


 通信が切れた直後、アルフレットは真っ黒になってしまった画面を見つめながらぽつりと呟く。先程「泣き喚くとかはしない」と言っていた彼だったが、その縹色の瞳には確かな寂しさと悲しさが宿っている。


「この場で泣き喚かれても、アカツキには対処しかねますが」

「あはは! 分かってるよ~。……泣き喚いたりはしないってば……、ね」


 そう零したアルフレットの声が、瞳が、静かに揺れる。

 未だに、彼の兄も、その婚約者――つまり、彼の義姉も消息を絶ったまま。いつでも鈴を転がす様な声が響き渡っていたこの部屋はがらんとしていて、堪え切れないと言う様に突っ伏したアルフレットの啜り泣く声が響いている。


(……これは恐らく、スズカ様に感化された影響と判断)


 そんな、生まれた時から成長を見守っていた青年が、幼い頃のように泣いているのを見過ごせなくて。アカツキは、ブロンドの髪の上にそっと手を乗せた。


「スズカ様でしたら、こうするでしょうから」


 これは、アカツキなりの猫可愛がりだ。

 こんなに広い部屋に一人はきっと、寂しいから。今だけは甘やかしてもいいだろうと、アカツキはひっそり結論付けたのである。

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