*擡げる【2024/11/28】【未出キャラ有】

 鎌首をもたげた毒蛇がわらっている。


 ただ、恐ろしいと思った。そう思った途端、身体は硬直して動かなくなる。真っ黒な衣が、髪が、眼差しが楽しげに揺れる。漆黒そのものがこちらを穿って、影を縫い止められたかの様に動けなくなる。

 呼吸の一つも、瞬きの一つも、叫びの一つも許されない。ましてや、逃げる事など絶対に許されない。死の運命だけが、そこにある。死、そのものが、ただその場に座している。


「――キヒ」


 狂笑が落とされた。弓形に歪められた眼が、酷く恐ろしい。夜空に浮かぶ三日月と同じ形。されど、纏う雰囲気は全く別物。目の前に浮かぶのは、生きとし生けるもの全てを刈り尽くす、冷徹な三日月の刃。


「ちったァ俺様を楽しませてみなァ! キヒャヒャヒャヒャアッ!」


 狂笑がどよもされた。滅びが訪れるまで、あと僅か。

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