◈恋しい【2024/11/02】
今でも時折、姉の声が恋しくなる事がある。
それはふとした拍子。うっかり皿を割ってしまった時。ガードに失敗して弾き飛ばされた時。武器の調整に失敗して最初からやり直しになった時。
そうやって、上手くいかない事があって落ち込んだ時、決まって姉は「だらしが無いですわよ」と笑って俺の額を弾いてくれた。俯く俺の顔を、そんな行動一つで文字通り上げさせてくれた。
でも、そんな姉は、もう居なくて。
うっかり皿を割ってしまっても、ガードに失敗して弾き飛ばされても、武器の調整に失敗して最初からやり直しになっても。落ち込んで俯く俺の顔を上げさせてくれる姉は居ない。声を聞く事は、もう叶わない。
けれど――。
「何辛気臭い顔してるんだい、ベクト。そんな事ではきっとレティに笑われてしまうよ? さ、早く顔を上げていつものアホ面を見せたまえよ」
今は、姉の声とは比べ物にならない程失礼な言葉が飛んでくるから、どんなに落ち込んでいても顔を上げざるを得なくなる。
「っ、うっせバーカ! 誰がアホ面だ!」
失礼な事をほざく口が付いた、人形みたいな顔を真正面から見据えて、文句を言ってやらなきゃ気が済まなくなる。
全く、どいつもこいつもやり方が乱暴だ。だが、どうやら俺はどうしようも無く単純らしい。そんな簡単な事で、くだらない事で、すぐに気持ちは晴れやかに、真っ直ぐ前を向いてしまうのであった。
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