◈愛でる【2024/11/10】【未出キャラ有】

 花を愛でる趣味なんてあったのか、というのが正直な感想であった。


「あら、ウィルってば失礼な弟ねぇ。私は赤い薔薇も白い薔薇も好きよ?」


 それはハートの女王の話であって、別にアリスおまえの話では無いだろう。そんな呆れも声にならない。何より、姉が持っている花は薔薇などでは無く、青を基調とした花束だ。何も関係が無い。


「あぁ、これ? これはさっきイズに貰ったのよ〜。『アリちゃんにあげたなってん!』って。ふふ、本当に可愛い人よねぇ」


 困惑したままじっと花束を眺めていれば、視線に気が付いた姉は笑声と共に花束を見せびらかしてくる。彼女が呼んだ愛称は、将来義兄になる人のものだった。


「あ、ウィルにも一本あげるわ。……ほら、これとか似合うわよ〜」


 言葉にならない曖昧な返事を返せば、姉はいい事を思い付いたと言わんばかりに、花束から一本花を抜き取った。沢山の花弁を持つ青い花が、眼前へと突き出される。断っても良かったのだが、恐らく断っても姉は押し付けてくるのだろう。それをしっかりと存じているが故に、諦めの礼と共にそれを受け取る。


「それじゃあ私、ルネの所に行ってくるわね。おやすみなさい」


 そう言って姉は花束を抱えたまま、上機嫌で歩いていく。全く、花束それを持ったまま患者の部屋まで行くつもりなのだろうか。何とも自由な姉だ。


「……あれ、ウィルがお花持ってるなんて珍しいね! それは……オスター、かな? 確かねぇ、花言葉は――……」


『青いオスター――信じているけど心配です』

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