上げる・上がる

◈聳やかす【2024/11/13】

 盟友が肩を聳やかしている時は、大抵ロイス殿の真似をしている時だ。


「――ですから! 次の任務では僕が指揮を取ろうと思うんですよぉ!」


 カイルはそう言うと、伊達眼鏡の奥の瞳を煌めかせた。大方彼の脳裏に浮かんでいるのは、この間初めて任務を共にしたロイス殿の姿だろう。ナイト随一の衛生兵である彼は、その視野の広さから戦闘指揮官を任されているのだ。


「は? 馬鹿なの? カイルなんかに指揮取らせたら一瞬で壊滅するに決まってんじゃん」


 そんなカイルの提案を即座に一蹴するのは、綺麗な空色に難色を混じえたジェノ君であった。何とも刺々しい言い方ではあるが、彼の言い分も最もである。何を隠そう、盟友達の戦術学の成績はどっこいどっこい。下から数えた方が早いまである。


「チッチッチッ! 何を言ってるんですジェノ君! 今の僕達はこれまでの僕達とは違うんですよ! 何せ、今の僕達にはユーマ君がついてますからねぇ!」


 いつもであれば、ここでカイルがジェノ君の言葉に噛み付き、言い争いが始まって私が仲裁する事になるのだが、今日限りはその通りにならなかった。


「エッ! 俺ェ!? 俺この前、後衛のウィルに『もう前に出るな……』って嘆かれたばっかだよォ!?」


 自信満々に胸を張ったカイルが掌で指し示したのは、蚊帳の外だと思って二人のやり取りを静かに見ていたユーマ君であった。彼は諸目を丸めると、遠回しに戦力外通告を受けたばかりだと告げる。


「はいこの話終わり、解散」


「なんですってぇ!? ユーマ君ザコなんですか!?」


「オーン言い方ァ! あんまりだよォ!」


 ユーマ君が期待の超新星であるという事を前提にした盟友の目論見は、脆く儚くあっさりと崩れる。ジェノ君は、少しでも期待した自分が馬鹿だったと言いたげに手を打った。盟友の失礼な物言いに、ユーマ君は思わず机を叩いて抗議する。


 全く、何とも騒がしくて楽しい友人達なのだろう。果たして一体誰が、こんな状況に出会して笑わずには居られるのだろうか。


 私は友人達がやいのやいのと言い争い始めるのを聞きながら、込み上げる笑いを堪える事無く溢れさせるのであった。

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