Spirits of Bluebirds -日月之蝕-

虹の鳥

502年11月「月下の告白」

なんて美しいのだろうか。

そんな月並みな感想しか、出てこなかった。

それぐらい、彼女は綺麗だった。

月明かりと街灯が窓から注ぎ、彼女の頬を伝う雫を照らし出す。

とても、幻想的な光景だった。


文化祭前夜の教室には、二人しかいない。

その事実と、彼女の青い瞳が流す涙が心を揺さぶる。


「青嶋さん……?」


こちらに気付いた彼女は、泣きからした、掠れた声を発する。

普段の凛とした声色ではなく、か弱い女性のそれだった。


「ごめんなさい、ちょっと私……疲れてて。最近ずっと準備が大変だったから」


嘘だ。鈍い自分にだって分かる。

それぐらいで泣くような彼女ではない。

でも、その理由を断言できるほど敏くもなく、『もしかして』への自信も無い。

何も言えないでいると、彼女は制服の袖口で涙を拭ってから、こちらへと歩み寄る。

彼女が顔を寄せた。ふわりと、良い香りが鼻腔をくすぐり鼓動が高鳴る。


「……怪我、してますね。大丈夫ですか」


彼女の表情に不安の色が滲む。

伸ばされた彼女の手が、自分の頬に触れた。

びくりと反射的に飛び退いた。痛みからではない。


「だ、大丈夫です。ちょっとぶつかっただけですから」

「手当てしないと、だって、血が」


言われて、口の中が血の味だということに気付く。

茶谷の奴め、思い切りぶん殴りやがって。思い出したら腹が立ってきた。

いや、だからこそ、ここに来れたとも言えるが、それとこれとは話が別だ。


「ちゃんと傷口を見せてください」

「……水嶌さん」


傷口を確かめようとする彼女を見据え、意を決する。

見上げる彼女に、自分は……


結局、何も言えなかった。

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