507年9月「守るべき者」

九月のリオーツクは、もう晩秋と言ってもいいぐらいだ。

それぐらい、この地では夏が短い。草木は既に色を失いつつある。

短い夏の間に育ったライ麦畑の畦道を、完全武装の歩兵小隊は二列縦隊で進む。


時折、収穫作業中の農民たちとすれ違うが、ルテニア語で挨拶しても反応は無い。

その様子に、うんざりしたように青嶋軍曹が囁く。


「無愛想な連中ですね」

「仕方ありません、それぐらい白衛軍の評判が悪いんです」

「自分らは国連軍です、連中と一緒にされるのは不本意ですよ」


私はかぶりを振った。

いくら国連軍の標章をつけたところで、彼らにとって私達は外国の占領軍だろう。

それぐらい、彼らを支配する全ルテニア臨時政府に対する不満は強い。

民主的な選挙で選ばれたことになっている政府も、腐敗していては軍事独裁以下だ。


「前方五〇〇、集落から火の手が上がっています!」


先行偵察に出していた斥候班から、緊迫した報告が入る。

速やかに小隊は警戒態勢の笠型隊形に移行し、迅速に集落の安全化を図るが。待ち受けていたのは、想像を絶する凶行だった。火をつけていたのは、友軍たる白衛軍だ。


「何をしている!」

「何って、そりゃあ不穏分子の粛清だよ。赤衛軍だってやってることさ」


白衛軍の小隊長は、悪びれもせずにウォトカの瓶に口をつけながら応じた。

何のことはない、雑草の刈り入れでもするかのように、彼らは集落を焼いている。

あちこちで悲鳴が、子供たちの泣き声が、そして乾いた銃声が響く。


「今すぐにやめろ、今すぐだ」


私は小銃の銃口を向ける。が、相手は小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべるだけ。

その傍らにいる従兵も、家屋の戸棚を漁り、戦利品の物色に夢中だ。


「ほらどうした、撃ってみろよ。まあ、国連軍には無理だろうがな」

「……警告はした」


続けて銃声が三発。銃弾は白衛軍将校の眉間を撃ち抜き、赤い華を咲かせた。

突然の事態に、誰もが呆気にとられている。その間に、私は続けざまに従兵を撃つ。


「彼らは友軍ではない、ただのテロリストだ。ひとりとして逃がすな!」


やっと双方が事態を理解し、激しい銃撃戦となる。

悪には断固として鉄槌を下さねばならない。それが、私のすべきことだ。

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