501年5月「あの日の約束」
車椅子の背で、必死で迷子の青い小鳥を守ろうとするその姿は。
普段、あれほど強がる彼女もまた、ただの弱い人間のひとりだと教えてくれた。
その姿を見ていなければ、きっと声をかけることは無かっただろう。
「あれは……」
肘の違和感で診察を受けた州軍病院の帰り道。リハビリルームに彼女はいた。
ただ、リハビリに励んでいるという様子ではない。
車椅子に座ったまま、理学療法士の励ましにも耳を貸さず、ただ俯いている。
挙げ句、彼女は杖を投げ捨て、そこから車椅子を力任せに漕いで出て行った。
スタッフが追おうとすると、彼女は来るなと叫んで消えていく。
いつものことなのだろうか、誰もその後をそれ以上は追おうとはしない。
その光景に、俺は怒りを感じ、その後を追った。
「水嶌さん、何をしてるんですか⁈」
彼女に追いついたのは、階段の前で少し広くなっているホールだった。
車椅子にうずくまる彼女の背に、俺は強めの言葉をぶつける。
反応が無い。苛立ち、肩を掴んでその顔を覗き込んだ。
「……健常者に、私の何がわかるって言うんですか‼」
泣きじゃくる彼女の顔は、真っ赤だった。
怯むな。ここで引き下がるなら、追いかけてきた意味なんて何も無い。
「ええ、わかりませんよ。ふてくされて努力を放棄する根性無しの人間なんて!」
彼女が口を開こうとするのを、俺は言葉で制する。
「どうして諦めるんですか、朋美さんから聞きましたよ心理的な問題だって。それなら、諦めずに、何度倒れたって立ち向かうしかないじゃないですか!」
余計なことを、と彼女が独りごちるのを無視して俺は続ける。
「自分だって弱いです。練習に結果はついてこない。勝てないけど、だからって諦める理由にはなりません。努力が報われないのは、努力が足りていないだけです!」
「それは恵まれた人間の言い分です、私のことなんか、」
「わかろうとする努力はできます、一緒に歩き続ける努力はできます!」
彼女は口をつぐむ。何度か口を開き、そして閉じてを繰り返す。
俺も、勢いで言ってしまったことを後悔して、歯を食いしばることしかできない。
「……じゃあ約束です。私は歩けるようになります。青嶋さんは、勝ってください」
それから一ヶ月後。
彼女は再び自分の足で歩き出した。
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