503年8月「最後の夏」
声を枯らして応援した。
寝食を忘れて積み重ねたデータも全部使った。
この日のために、みんな、死に物狂いで練習した。
でも、それは結局、届かなかった。
野球の神様は、無情だ。
スコアボードに並ぶゼロ。
一番右下に、『1x』の文字が刻まれて。
そして、私達の夏は終わりを告げた。
私は膝から崩れ落ちた。
人目も憚らずに泣いた。
止め処なく涙が溢れる。
嗚咽が止まらなかった。
三年間が終わったんだ。
「……水嶌、さん」
彼の声がする。
涙を堪え、口を真一文字に結ぶ顔が目に浮かぶ。
見上げることなんてできない。
私は声を上げて泣いた。
「すみません、努力が足りませんでした」
そんなことはない、そんな言葉すら嗚咽で出てこない。
彼が誰よりも練習してきたのは、私が一番知っている。
雨の日も風の日も雪の日も、ずっとずっと投げ続けていたのに。
どうして神様は、彼に何も与えてくれないんだろうか。
「約束を守れなくて、本当に……すみませんでした」
彼の手が、私の髪を遠慮がちに触れる。
差し出されたハンカチタオルが、溢れる涙を拭う。
私はそれを受け取って、酷い顔を覆い隠す。
ハンカチは、塩の味がした。
私は、彼の胸に縋り付いて泣く。
グラウンドのほうからは、勝者を讃える表彰式のファンファーレが木霊する。
連邦大会への参加権は、栄光とともに勝者のみに与えられるのだ。
敗れ去った者には、あまりにも過酷なベンチだった。
私はずっと、泣き続けていた。
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