509年2月「義憤の果てに」

リオーツクでの大敗後、私は予備役に入れられた。思い当たる節はいくらでもある。

能力不足、独断先行、命令違反、そして致命的な敗北を招いた責任。


極めつけは虜囚の辱めを受けたことだ。

表向きは激戦から生還した勇士ともてはやされても、実態はそうだ。

あることないことが噂され、軍に私の居場所は無くなった。


それでも、こんな無能な将校でも、まだ必要としてくれるところがあった。

私は、そこで残り僅かな命を使い切ることにした。

この命に、少しでも価値を持たせるために。

私は、この国の歴史を変えよう。


「駄目です。正門の第一中隊、応答ありません。投降したようです」

「裏門の第二中隊はどうだ。なに、こちらに発砲してきただと」

「予備の第四中隊を出せ、足りないなら捕虜を脅して盾にしろ!」


息巻いて参加したクーデターは、杜撰極まりないものだった。

こんなはずではなかった。誰もがそう思う中、私はひとりだけ冷静だった。

失敗の原因はいくつもあるが、何よりも世論が駄目だ。ルテニアからの撤兵論は、もうどうしようもなかった。クーデターで政権の頭をすげ替えても、世論は変わらない。軍政で直接統治をしようにも、こんな連中では内紛ですぐに崩壊する。

結局は、無駄な努力だった。


「連邦警察本部、通信が途絶しました」

「正門前に戦車です。第四中隊が対戦車ミサイルの補給を求めています」


どうにもならない、潮時だ。逃げるとしたら国外、アレクのいるルテニアか。

徒労に終わった祭の後始末に思案を巡らせていると、何人かの男に取り囲まれた。

誰もが血走った目をして、呼吸が荒い。


「おい中尉、お前が携帯で誰かと連絡を取り合っているのを見たと言っている」

「……何のことですか」


理由などどうでもいいのだろう。こいつらは、私に言い寄ってきていた連中だ。

袖にされたことを恨んでいるのか。理由などいらない。口実があればいいのだろう。

そこへ突如の銃声。状況に絶望した指揮官の大佐が、自決したのだ。


動揺する室内の雑踏に紛れ、私は司令本部を後にした。

後は適当な部隊に投降するだけ。国防省の敷地内は、どこも鎮圧部隊だらけだ。


「……撃つな、特務の水嶌中尉だ。潜伏任務終了につき保護を、」


小銃のストックで、私は頭蓋の側面を思い切り殴られた。

遠くなる意識の向こうで、侮蔑的な笑い声が聞こえる。


ああ、そうか。

裏切り者の末路は。

結局、こうなるのか。

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