〈闇と光〉
暫しの沈黙の後、僕が呟く。
「はぁ、マジで何してんだろうな。」
「・・・」
再び沈黙が少し続いた後、友人Rが小さく呟いた。
「それな。キツすぎる。」
友人Rは中学のサッカー部時代に体力が売りであり、それは今でも健在である。以前、1ヶ月ほど前に江ノ島に遊びに行った際に、僕は夏の暑さでバテていた一方、友人Rは元気が有り余っていた。
そしてまた、友人Rにはもう一つ特徴があり、それは非常に規則正しい生活をしていることだ。普段であれば非常に良いことであるが、今においてはそれが却ってデメリットとなっている。つまり、いつもこの時間帯はベッドに入っているため、眠気が半端ではないのだ。現に振り返ってみると、彼は顔の半分を覆うくらいの大あくびをしていた。
「ちなみに、斜度がキツイところまであとどんぐらい?」
友人Kが尋ねる。
「あと20kmぐらいかな。そこから次第に斜度キツくなってくる。」
「マジか…。」
この友人Kも、僕と比べれば非常に体力がある方だ。しかも部活に関しては高校では僕が弓道、Rがフェンシングに移行にしたのに対し、Kはサッカーを続け、大学でもサッカー部に所属している。
またそれに加え、生活時間帯も夜型である。
要約するとこんな感じだ。
体力:K≒R>>>>>僕
夜型:K>僕>R
上述した内容によると、Kは元気だと思うだろう。がしかし、彼はここまでずっと沈黙気味だったため、何か別の理由でキツイのだろうかと推測した。
この後、どうすべきか。
悩んだ末、僕は簡易的な多数決で決めることにした。
「ねぇ、R。正直キツイ?」
「うん。ただ体力的にキツイっていうより、眠気がヤバい。」
「なるほどね。『引き返す』に一票か。ちなみに俺は逆の理由でキツイ。ただ、この先にある絶景を見たい気持ちもある。ってことで『中立』に1票で。Kはどう?」
「え、行くしかなくね?」
「え、行ける?」
「いや、それ以外ないっしょ。」
どうやらKはキツくて黙っていたわけではなく、体力を温存していたらしい。そして、『進む』にここまで大きな1票が入ってしまえばひっくり返すことはできまい。僕はRの了承を得るために尋ねる。
「R、行けそう?」
「うん、行こう!俺も綺麗な景色見たいし、何より今しかこんなバカできんからな。」
どうやらKの一言に元気をもらったらしい。
それは僕も同様だった。
僕ら一行は、先の見えない巨大な闇に向かって、ペダルを踏み込んだ。あまりの重さに、一瞬ふらついて倒れそうになるも、横から伸びる2つの光に支えられながら漕ぎ始めた。
その後、事前の調査通り、人家が一気に少なくなり、灯りの数も少なくなった。心の疲労度がどんと増した気がした。
なんとか元気を取り戻そうと、僕は歌を口ずさむ。Rもそれにノってきた。
「上を向いて、歩こう〜♪」
「あ、星めっちゃ綺麗!」
歌の歌詞通り上を向いたKが叫ぶ。それに呼応してRと僕も空を見上げる。そして、あまりの綺麗さに息を呑む。
澄んだ夜の空に、無数の星がキラキラと、眩いくらいの光を美しく纏って佇んでいた。それはとても遠いのに、すぐそこにあるように感じられ、掴める気さえして手を伸ばす。当然届くはずもないが、どこか届きそうで、そして届いて欲しいと望まずにはいられない、そんな儚さと愛しさが共存している気がした。
閑散とした道を星に見惚れながら走っていると、音楽が聞こえた。優里のベテルギウスだった。Kがスマホで音楽のプレイリストを流し始めた。夜遅い時間だったが、周りに家がない山道だったので、僕らは流れてくる音楽に合わせて口ずさみながら漕いでいった。
闇の中でも確固たる光を放って煌めく星が、どうやら元気をお裾分けしてくれたらしい。僕らは大事に噛み締めながら、闇を掻き分けて滑らかに進んでいく。
〜続〜
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