〈ペースダウン〉

その後はある程度平坦が続いていたが、問題が生じたのは少し進んだ35km地点であった。時刻は0:40。


ちなみに僕が夜に出発する計画を立てた理由は主に2つあった。まず1つ目は、気温である。近年の夏は非常に暑く、9月に入ってもその暑さが衰えないことを鑑みた結果、夜行しかないと考えたのだ。そして2つ目は、車通りである。日中だと車の邪魔にもなるし、こちらとしてもスムーズに自転車を漕げないため、行きは夜行が適切だと結論づけた。

その結果、先ほどまでは暗闇に気力が吸い取られる気がして失敗に思われたが、星の輝きを得た後は恩恵の方が大きく、特に後者が利いていた。車通りが非常に少なく、スムーズな加速で距離を稼ぐことができた。


しかし35km地点で僕らは足を止めることになった。

その理由は体の疲労であった。気温を考慮して夜を選択したものの、それでもなお異常な暑さは大きな壁となって立ちはだかった。

また、この35kmという距離は、僕が神奈川で試走した際の往復の合計距離34kmに類似していた。そしてあの時、自転車を降りた瞬間に足の筋肉が痛みを自覚し始めたのだった。

あれ以来特に訓練をしていなかった僕は今回も同様の距離で足が小さな悲鳴を上げ始めたのだった。さらにそこに、暑さで止まらない汗も重なる。

そしてこの異変は僕だけではなく他の2人も同様だった。というのも、先行する2人が、今までであれば自転車で駆け上がっていた斜度の坂で、ギアを落としてゆっくりと登らざるを得なかったのである。

そのため、僕らはここで小休憩を取ることにした。各自、ストレッチをしたり携行食や水分で栄養を摂ったりと、まだまだ先の長い目的地に向けての体の調整を行った。


10分ほどの休憩の後、僕らは再度気合を入れ直して出発した。

が、その気概も虚しく、僕らは大きな苦戦を強いられることとなった。何より、体が、主に足が限界を迎えていたのだ。

そのため、僕らは斜度が少しキツイ程度の上り坂でも自転車を降りて引くこととなった。結果、ペースがガクンと落ちるとともに、体力の消耗も激しかった。さらに、ずっと同じ体勢を取っていた弊害で、手のひらや手首にも異常を感じ始めていた。まさに満身創痍とはこのことであった。

しかし距離は42kmを通過し、目標まで半分を超えていたため、僕らは無心でただひたすらに足を動かした。平坦や下りでは自転車に乗って、上りでは降りて押す。

それを繰り返すこと約1時間半。ついに50kmに到達した。この時、平均時速は1時間落ちていたことが、その苦行を物語っていた。もはや旅行ではなく修行の一種であった。

汗の量は増す一方で、タオルは水に浸したような濡れ具合であった。そして途中までは適宜汗を拭う方式で使用していたが、もはや今は首に巻いている。通気性は悪くなるがそれを差し引いても、出てくる汗が尋常ではないのだ。しかし少し標高は上がり、進む道沿いに大きな川が流れてくれていたのは不幸中の幸いだった。おそらく気温は、27度ぐらいだったのが23度ぐらいまで低下していた。

そしてここで20分ほど休憩を取った後、僕らは再び進み始めた。この先に更なる苦難が待ち受けていることを微かに感じ取りつつも、引き返すという選択肢を取れないほどに、僕らは青かったのだ。


〜続〜

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