〈ガソリンの種類はイ“レギュラー”〉

宿に着いて合流した僕ら3人は、ママチャリ旅に向けての食糧や水分の調達やヘッドライトなどの諸々の用具の買い出しへと向かった。その道中、僕らが借りる予定のレンタルサイクルステーションがあったので、自転車の質を見定めようと立ち寄った。

僕は普段ハローサイクリングというアプリを使っていたが、高知では同アプリのレンタルを実施していなかったため、別のpippaというアプリを利用することにした。ただ、別にどちらも大差なく、普通の電動付きママチャリだろうと高を括っていた。

しかし、実際に見てみるとどこにも電動の機械が見当たらない。いやそんなはずはないだろう、とアプリの説明を見てみるが、確かに電動付きという文言は見当たらない。35度の暑さによる汗とはまた別の、嫌な汗が頬を伝う。しかも、タイヤもカゴも想像以上に小さく、予想以上に頼りない。

実は、ママチャリの案を考えた後に検討を重ねてロードバイクのレンタルも視野に入れていたのだが、ちょうど1年前ほどに貸し出しのサービスを終了していた。そのため、僕らにはママチャリという選択肢以外に残されていなかった。

一瞬、「諦め」の文字が頭に浮かんだが、ものは試しだと考え、レンタルして乗ってみた。すると、案外悪くないと思えた。その理由はタイヤの空気圧だった。

いつも東京で乗っていたママチャリは電動を使えばスイスイ進むものの、タイヤの空気圧が弱いため電動なしでは非常に漕ぎづらかった。

一方このチャリは空気圧が強く、地面に対するグリップ力を感じることができた。

これなら意外と行けるかもしれない。

「よし、諦めるか。」

「え?」

「チャリで行くのを諦めることを諦めよう。」

「え?」

友人は「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの顔をしていたが、軽く口角を上げている当たり、どうやら僕らは同族らしい。


その後僕らは、買い出しを終えてチャリを漕ぐための心のガソリンを入れるために鯛塩ラーメンで腹ごしらえをした。僕らのめでたい旅に乾杯。友人は無視して食べ始める塩対応。僕も後に続いて一口。少し塩が効き過ぎているような気がした。(冗談。めちゃ美味しかったです笑)


その後宿に戻った僕らは最上階の大浴場で疲れを癒し、スタート予定の10時まで仮眠を取ることにした。意外と買い出しなどで時間がかかってしまい、2時間以上遅れた20:30に布団に潜った。が、もちろん眠れるはずもない。気づけば21時を回っていた。

「あかん。全然寝れん。もう行くか。」

友人Kがベッドから飛び出す。

「うし。そうすっか。」

僕もそれに続く。

「はあ、お前ら元気すぎ。」

渋々と言った感じで友人Rも起き上がってくる。


時刻は21:30。半袖半ズボンで帽子を被り、その上にヘッドライト、そして背中には大きなリュックを背負った男3人組が宿の裏口がコソコソと出ていく。流石に受付の前を通って表から出るのは気が引けたのだ。

そしてレンタル場へ向かい、景気付けの栄養ドリンクで乾杯をする。準備は万端。よし。軽い足取りでペダルを踏む。夜の街に3つの儚い光がゆらゆらと灯った。


〜続〜

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