〈仁淀ブルー〉
無事に13:00のツアー開始に間に合い、ライフジャケットを着けて軽く説明を受けた後、僕らは川に向かった。SUPは初めてで上手くできるかは少し不安だったが、それ以上に日本一の清流に何度も選ばれている仁淀川で体験できることに大きな期待感があった。そして実際に目にすると、それは軽々と想像を超えてきた。YouTubeやインスタの映像で見るのも悪くなかったが、実際に見ると輝きが5割増しに見えた。キラキラと午後の陽を反射して澄んだエメラルドグリーン色が揺蕩うそれは、護り続けたいと思わせる儚さと息を呑ませる荘厳さが共存していた。
僕らはインストラクターさんの下、軽く準備体操をしてから入水した。9月といっても最高気温が35℃を超える猛暑日で、しかも太陽も高く昇っていたので流石に川の水が冷たいといってもちょうどいいくらいだろうと思って油断していた。勢いよく川に入り、足首、そして膝下まで水に浸かってその冷たさに気づいた。
「「「つめたっ」」」
僕と同時に入った友人2人も同様のリアクションを取っていた。
その後は次第に、水の冷たさにもSUPの扱いにも慣れていった。午後のアウトドアセンターでは、SUPとカヤックの2パターンのツアーがあるが、僕らは水に飛び込みたいという理由でSUPにした。そして案の定、高難度の技に何度も挑戦してはバランスを崩して川に飛び込んでいた。笑い声が、川に揺蕩う波紋とそして碧色の川に反射する煌めきと共鳴しているようにさえ思えた。
そのツアーの後、僕らは本日の3つ目の目的地である「にこ淵」に向かった。ここに着いた瞬間、僕らは息を呑んだ。慎ましくも厳かさを保った滝が、花浅葱(はなあさぎ)色をした滝壺に命の鼓動を響かせながら入っていく様は神秘的という他なかった。しかもこの滝壺に来るまでに階段を降りたのだが、一気に涼しさを感じられた。深呼吸をすると、澄んだ空気が体中に、そして心中に行き渡る。
「おいおい、今日、幸せすぎやしやせんか」
「ほんとに。四国カルストでドライブ、仁淀川でSUP、んで、にこ淵でマイナスイオン」
「しかもこの後居酒屋やで」
「最高すぎる笑」
僕らは“にまにま”しながら帰路に着いた。もはやニコニコという言葉の語感ほど表情筋を保てていないぐらいフニャフニャしていた。そのぐらい多幸感が溢れていた。
その後僕らはレンタカーを返し、(というか本当に険しい山道だったのに事故がなく帰ってこれたので友人の運転技術には脱帽である。本当にありがとう。ところで話を戻すと、)その後に居酒屋に行って、その日は軽めの飲みで抑えてホテルに戻り、アイスで乾杯をして締めた。
その日の写真を見返しながら友人と笑い合っているうちに、いつしか瞳は静かに降りていた。
その日、僕は夢を見た。透明な青の中を駆けてゆく夢を。あれは空だったのか、川だったのか。今となっては思い出せないが、きっとどちらにせよ、僕は大自然と一つになっていた。きっとそうだ。風を羽織っては空に潜り、波を纏っては川に飛び立つ。僕は追い求めていた青さがそこにある気がした——。
〜続〜
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