〈空の蒼さ、川の碧さ、そして、海の青さ。〉

9月5日。7:00。

眠い目を擦りながら、食欲のままにバイキングの料理を取りまくる。そして取り終わった後に、胃袋にまだ昨日の夕食が少し残っていることに気がついた。が、卵かけご飯がべらぼうに美味しく、ペロッと平らげてしまった。(あえてここで言及するほどに、卵も醤油も美味しかった。)


8:00。

腹ごしらえをした僕らは、今日もまた朝早くに宿を発った。その理由は柏島に向かうためだった。以前、インスタでその景色を見て胸を打たれて友人にも見せたところ、ぜひ行きたいとのことだった。ただしかし1つ問題があった。柏島があるのは高知の端も端。四国の最南西部に位置していた。高知駅からは車で約3時間という非常に遠い場所にあった。

今日はKの運転で進んでいく。昨日は山道で運転しづらい道が多かったが、今日は比較的車が通りやすい道だった上、海沿いというロケーションにも恵まれていた。が、やはり3時間という長時間ドライブは相当つらいことは想像に難くない。しかも初めての場所である。僕は昨日のRの運転と現在進行形のKの運転に感謝し、“あること”を決意した。(このことはまた後ほど話そう。)


そして約1時間後、問題が発生した。といっても大したものではない。僕の大学の成績発表の 時間が訪れただけである。今回は就活の弊害もあり、1つは落単が確定していたが、他はギリギリの怪しいラインだった。果たしてどうか。これの結果いかんでは、この後の柏島が地獄になってしまう。

さあ、いざ。

結論から言えば、落単はなかった。いくつか手応えとは裏腹に低い評価のものもあったが、その逆も同様にあったためそこは黙認することにした。ともかく、落単確定科目以外は無事に単位が貰えたことに感謝し、鼻歌を歌い出した。窓の外には夏空の青を反射したような海が一面に広がっていた。淡く磯の香りが漂った気がした。


柏島に行く道中、展望台があることを知り立ち寄ったが、非常に車での通行が困難だった上、蜂を始めとした虫がそこら中にうじゃうじゃ湧いていた。そのため僕らは、いや主に僕だけが叫びながら展望台まで駆け上がっていった。木々でつくられた緑のトンネルを抜けると夏の日差しが降り注ぐ柏島の絶景がそこにあった。


その後は竜ヶ浜キャンプ場でシュノーケリングの道具一式をレンタルし、白浜海岸に向かった。入り口が分かりづらく数回道を行き来した末に、ガードレールに隙間が空いていてそこから入れることが分かった。

階段を下るとそこには天国かと思うほど透き通った景色が広がっていた。下から次第に見上げていくと、海がグラデーション状に青さを増していくのに加え、その透明度がどこまでも続いているのである。そしてそのまま視線を上げると、空も淡い白さを含んだグラデーションになっていた。また、人が少なく静かな笑い声だけが響いていた点も、おそらく透明度を高めるのに一役買っていたと思う。

僕らはすぐさまライフジャケットやシュノーケルを装着し、夏の青さに飛び込んだ。


その後、1時間半ほど夏の青さを堪能した僕らは、新たな場所を目指すことを決め、レンタル道具を返却して柏島に別れを告げた。夏の爽やかな風が僕らの頬を軽やかに撫でる。風さえも透明度が高い気がした。


16:00。柏島から約1時間半後、僕らは新たな目的地に着いた。四万十川に架かる佐田沈下橋である。当初は距離があったため諦めていたが、柏島まで来たなら立ち寄れると判断したのだ。そしてこの場所に立ち寄ったことは大正解だった。

四万十川は日本最後の清流とも呼ばれるほど綺麗な川で、仁淀川とはまた違った魅力があった。特にその壮大さと清涼さを兼ね備えた様は唯一無二であり、手で掬った透明な水には僕の心が反射した気がした。そして淡い西陽が川に反射した光の道は、天国に続いている気さえした。

少し川の涼しさに浸った後、僕らは車に戻った。もう飽きたから帰ろうというのではない。もう一つの本命である沈下橋を、車で渡ろうと考えたのである。

この沈下橋は手すりが無いことで有名であるが、これは洪水時に流木や土砂が欄干に引っかかって水の流れが悪くなることを防ぐ目的だという。

そして遂に、車が橋の端に差し掛かった。ゆっくりとゆっくりと狭い道幅を進んでいく。最初はうっすらと聞こえていた川のせせらぎも、いつしか僕らの叫び声に掻き消されていた。

眼下の沈下橋はどっしりと構え、橋脚の間をさらりさらりと清流が揺れている。何をそんなに慌てる必要があるのか。そう言わんばかりの頑強さを感じるのは、この四万十川の洪水に耐えてきた故だろうか。きっとこの先、濁流に呑まれることもあるだろうが、自分の軸を深く堅く構えて生き抜いてゆこう。そう強く思った。

西陽はさらに傾いて優雅な光を放っていた。


〜続〜

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