〈尊き色〉

その後、しばらく休んで日の出を見たことで心も体も回復した僕らは、再び自転車に跨って帰路についた。

往路では闇を纏って鎮座していた工場も、寝静まっていた町並みも、朝の光を吸収して新たな一面を見せてくれた。僕らは最後の高知を噛み締めつつ走っていく。

どれぐらい経っただろうか。朝食と大浴場の時間に間に合わせるために、僕らは必死で足を回した。ペダルを回せば回すだけ、空にかかった薄藍色の幕が開けていく感覚だった。

漕ぎ始めてから約1時間。行きよりも30分ほど巻いて僕らは宿に着いた。すぐに大浴場で汗を流し、朝食へ向かった。今思えば、4泊分の宿を取っていたにも関わらず、実際泊まったのは2泊分だけであった。実に狂った旅程だった。

朝食会場では極度の疲労ゆえ、3人とも咀嚼以外の用途で口を使用することはほとんどなかった。思い出を噛み締めながら眠気と格闘しつつ朝食を貪る時間が静かに過ぎていった。

そして部屋に戻った僕らは、パッキングが終わると同時に、チェックアウトの時間ギリギリまで布団に潜り込んだ。もう、煌めく夏の青さは懲り懲りだった。ただただ、優しい布団の白さに包まれていたかった。


9:50。

脳に殴りかかったアラームの音で目を覚ます。僕らは墓から這い出てきたゾンビのように重い足取りで帰る準備をして宿を出た。


その後、KとRはお土産を買いたいからと空港まで共に空港までバスで向かってくれた。

そして空港に着いた後、僕らは土産屋を散策した。主なラインナップとして、高知の特産品である鰹や柚子を用いた食べ物が多かった。ただ僕が惹かれたのは、仁淀川と渋い字体で記された日本酒だった。友人に、なかなか高知に来ることはないからと薦められたが、結局購入しなかった。もちろん何を飲むかも大事だが、私はそれと同様にどこで、そして誰と飲むかも重要だと考えたからだった。


そしてその後、高知駅へと帰るバスが来るまで、空港の長椅子に腰掛けながら話をした。この時既に僕の意識は限界を迎えていたため何の話をしたかは覚えていないが、ほんわかとした柔らかさが漂っていたのを朧げに覚えている。

そして無常に時間は過ぎてゆき、KとRに別れを告げた僕は、約2時間後の飛行機に乗らなければならないという難問を抱えたまま空港に独り、鎮座することとなった。のも束の間、このまま座っていては詰むことを察し、僕は空港の中を、横移動する屍のように頭を垂れながら彷徨った。


それから2時間後、僕は無事に飛行機の座席にいた。窓際の席だった。外には高知を燦々と照らす太陽が佇んでいた。

轟音を立てながら飛行機が飛び立つ。白い雲を抜けた空はどこまでもどこまでも澄んでいた。本来は色なんてないはずの空気のその奥に、仮初の青があった。


僕はこの5日間で様々な『あお』に触れた。

壮大に無限に拡がる空の蒼。

命が芽吹く山々の鮮やかな翠(あお)。

ゆらゆらと煌めく止め処ない川の碧。

寄せては返す、掬っては解けゆく海の青。

どこか淀みつつも純粋な夏の青。

そして、その中を駆け征く滲んだ僕らの青。

どの青も似ているようで、でもどこか違った色をしている青だった。それらは独自の確固たる色で、僕の心を染め上げた。どんな濁流に流されようとも、決して褪せることないように深く濃く。

僕らは、私たちは、きっと多種多様な色で染まっている。そしてこれからも染まっていく。そして自分だけの色を、一生を懸けて紡いでいくのだろう。


僕は飛行機の窓から覗く宙(そら)の青の中を泳ぎながら、和やかな眠りについた。


〜完〜


ここまで読んでいただきありがとうございました!🙇‍♂️

また面白そうな体験をしたり、書くことで形にしたい想いなどがあれば、また投稿したいと思いますのでその時はまたよろしくお願いします🙇‍♂️

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【最高知】 〜蒼と碧と青〜 空川陽樹 @haruki_sorakawa

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