2話 初ダンジョン

 この宇宙人は遠回しに、マネージャーにならなければここで食い殺すと、脅しているのだろうか?

 そんな雰囲気は感じないが、不思議とそう思ってしまう。


 勿論、目の前にいるのが本当に小学生の女の子であれば、そんなことは思わないだろう。

 しかし、先程の姿を想像すると、不思議着と脅しているように感じてしまう。


「分かった! 分かったから!」

「何が?」

「マネージャーになるから、他の人を殺したり、私のことも食べたりしないで!」

「別にそんなことはしないよ! でも、いいの!?」

「いいよ。でも、私はダンジョン探索なんてしたことないんだ。しようと考えたこともないし、これからする予定もない」

「ええ!? あんなに楽しいのに!?」


 どこが楽しいのか不明だ。

 下手をすれば、死んでしまうのだ。


「だから、私はまるっきり戦闘を手伝えない。私ができるのは撮影だけだ。後はチャンネルの開設とか」


 チャンネルとは、動画サイトのチャンネルのことである。

 ダンジョンの映像は衝撃的なものも多いので、ダンジョン関連の動画を投稿するには、それ専用のサイトでチャンネルを開設する必要がある。


「それでもいい?」

「後は宣伝とかもしてくれる!?」

「頑張ってみるよ」


 断ったら、何をされるか分からないからだ。


「やったー!」


 彼女は、思い切りミナに抱き着いた。


「うわっ! って、あれ? 普通の感触だ」


 あそこまでグロテスクなのであれば、人間とは違った感触がしそうなものだが。


「その辺りも上手い具合に幻覚的なの入れてるからね! 視覚以外にも、君にとって私は人間の女の子そのものだよ!」

「そ、そう」


 脳に異常が出ないか、少し不安になった。


「そうだ。お腹空いてたって言ってたよね?」

「うん! 空いてる!」

「ちょっと待ってて」


 ミナは、ポテトチップスと紙パックに入ったイチゴミルクを持っていく。

 本当は自分用に買ったものなのだが、早い所宇宙人の空腹を満たさなくてはならないからだ。


「食べていいよ」

「うわっ! こういうの食べて見たかったんだ!」

「普段何食べてるの?」

「お肉!」

「な、なんの?」


 人間だったら、どうしようか。


「モンスター! 羽が燃えている鳥とか、なんか背中に羽根生やして頭にドーナツみたいなの乗せてる人間みたいなのとか! 紫色の煙を出す首が沢山ついてるドラゴンとか! 一杯食べてるよ!」

「へぇ」


 人間みたいなのというのが気になるが、おそらくそういうモンスターであり、人間ではないのだろう。

 ダンジョンに関しては、たまに動画を見るくらいで全然詳しくない。

 なので、どんなモンスターを食べているのか、今の説明だとよく分からない。


(人間食べてないなら、いいか)


 宇宙人がポテチの袋を開き、食べる。


「美味しい!」


 手に取ったポテチを、口に入れていく彼女。

 明らかに食べるスペースが早く、実際はどんな感じで食べているのだろうか?


「今のは、なんていう食べ物!?」

「ポテトチップスのサワークリームオニオン味」


 ポテチは様々な種類があるが、その中でも昔からこの味がお気に入りなのだ。


「おお! じゃあ、今度はこのピンクの飲んでもいいかな!?」

「どうぞ」


 紙パックの上部分を豪快に開けると、それを一気に体内に流し込んだ。


「甘くて美味しい! さっきのも美味しかったけど、こっちはもっと美味しい!」

「甘いのが好きなのか」

「そうかも! あ、そういえば私名前ないんだけどさ、今の飲み物から取ってもいいかな?」

「今のって、イチゴミルクのこと?」

「イチゴミルク! うん! いい名前だね!」

「長いけど、いいね」

「あ、確かに長いと呼びにくいね! じゃあ、【イル】!」

「随分と短縮したね」


 名前としては、こちらの方が自然だろう。

 イチゴでも良さそうだったが、本人が気に入っているので、イルと呼ぶことにした。


「かわいいね」


 美味しそうに食べている様子を見て、自然と口から出た。


「えへへ! かわいいでしょ! 私、女の子になりたかったんだ!」

「そうなんだ」


 嘘をついているようには見えない。


「私の種族、性別がないからさ! でも、地球に来てから、女の子って決めた!」

「おめでとう?」


 楽しそうなので、とりあえず言っておいた。


「ごちそうさまでした!」

「うわっ!」


 イルはポテチの袋と、紙パックを口に入れて飲み込んだ。


「これはあんまり美味しくないね!」

「だろうね」

「それにしても、味は美味しかったけど、まだお腹空いてるなぁ」



 あの後、ダンジョンへ行くこととなった。

 モンスターを食べると言うので、一緒について行くことにした。


 ダンジョンへ入って一発目でいきなり配信をする訳にもいかないので、その練習だ。


 ダンジョンへ入るには、階段を降りる必要がある。

 階段がある場所までは、一番近い所でも30分くらい歩かなくてはならないので、どうやってイルを連れて行くか迷っていたのだが……


『初めてやったけど、どう?』

「いいと思う。あんまり深く考えたくないけど」


 今、ミナは普通に道路を歩いている。

 1人でだ。


 イルがどこへ行ったのかというと……


『人間に寄生したことはあるけど、意識を残しての寄生は初めてだったから、成功して良かったよ!』


 なんと、体内に侵入し、ミナの体と一体化しているのだ。

 最初は物凄く抵抗があった。

 なんなら今も、抵抗はある。


「初ダンジョン……」


 ミナは階段を降りる。

 初のダンジョン、緊張感が凄い。


「ここがダンジョンか」


 光源がないのになぜか明るく、そしてかなり広い洞窟といった感じだ。


「よいしょ!」


 ミナの体内から、イルが出てくる。


「サングラスしていても、やば……」


 幻覚を見せていては、戦闘を上手く行えないということなので、本来のイルの姿が目の前に現れた。

 サングラスをしていても、本来であれば耐えられなかったろうが、美少女姿の彼女を想像してなんとか耐えていた。


「ひぇぇ!!」


 探索者がこちらへ向かって走って来た。

 イルは岩陰に隠れる。


「どうしたんですか?」

「まだ避難をしてない人がいたのか!? 規格外のボスがこっちに向かってる! いいな!? 死にたくないなら逃げろ!!」


 ミナに向かって叫ぶと、こちらへ振り向くこともせず、そのまま階段を登って行った。


「どうしたの?」


 イルが出て来た。

 彼女には悪いが、あまり直視しないようにしよう。


「なんか、規格外のボスモンスターがなんとかって」


 そういえば、他に探索者がいない。


「あれ? もしかしてこれ、結構マズいんじゃ……」


 逃げよう。

 そう思ったのだが……


「出た! ご馳走!」

「は?」


 イルの嬉しそうな叫びで、気が付く。

 視線の先に、10mはある巨大なドラゴンがドシンドシンと、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。

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