15話 登録者上昇

 ガオのストーカー事件から約一週間が経過した。

 本来であれば心に深い傷を負っていそうなものだが、ミナもガオも特にそんなことはない。

 イルのおかげもあるだろう。


 そして、イルのチャンネルなのだが、平日の時点でチャンネル登録者が2000人を超えた。

 本日土曜日には、登録者が更に1000人増え、ガオと並ぶことになった。


 とは言っても完全に並んだ訳ではない。

 ガオはガオで更に登録者を増やし、現在では登録者3500人のチャンネルへと成長を遂げていたからだ。


「一気にここまで伸びるなんて、イルちゃん凄いっす!」

「えへへ!」


 現在はガオの部屋に、イルと共にお邪魔している。

 3人で机を囲い、その机に置かれているノートパソコンで、各自のチャンネルを確認して回っている所だ。


「これもガオさんのおかげだね」

「何言ってるんすか! イルちゃんと、そのマネージャであるミナさんの実力っすよ!」


 イルはともかく、ミナに関してはほぼ何もしていないのだが、ここは素直に誉め言葉を受け取っておくことにした。


「切り抜き動画だ」


 パソコンでダンチューブを見回っていると、イルの初配信の切り抜き動画が出回っていた。

 戦闘シーンはないものの、S級モンスターのヒュドラを倒したかもしれないといった動画の内容で、かなりの再生数だ。


「これのおかげもあるのかな」

「切り抜き動画は、時間のない方でも配信を楽しめるっすからね」


 切り抜き動画とは、配信の見所のみを切り取って投稿した動画のことである。

 この動画のように、放送した本人以外の人があげているものも多い。


「考察動画もあるね」

「本当っす! 何々? 女の子は本当にヒュドラを倒したのかを考察……って、倒したに決まってるっすよ! この前のフェニックスもイルちゃんが倒したんすよ!」


 と、ちょっと不機嫌そうな表情をするガオ。


「ガオさん、この前も言ったけど、くれぐれもイルの正体は……」

「バラさないようにっすよね? 分かってるっすよ!」


 自信満々の表情で、彼女は宣言した。

 少々不安である。


「でも、ちょっと勿体ないっすよね」

「何が?」

「イルちゃんの強さがあれば、ダンチューバー界トップも夢じゃないってことっす!」

「強敵との、戦闘シーンが映せないから厳しいけどね」


 イルの真の姿は刺激が強過ぎる上に、バレたら面倒なことになる。

 いや、面倒では済まないか。


「そういえば、ダンチューブ界のトップって登録者100万人なんだね」


 決して少なくはない、それ所か、かなり大きい数字だ。

 しかし、ユーチューブ界のトップと比べると、少ない。


「ユーチューブよりも小規模っすからね。あくまでも比較した場合っすけど」


 ダンチューブは、ダンジョン関連の動画や配信限定のサイトだ。

 言ってしまえば、ダンジョン専用のユーチューブである。


「おまけにこのサイトができたのも、2年前だっけ?」

「そうっす! 2022年に開設されたっすね! ダンジョンの映像って結構ショッキングなものが多いっすからね。ユーチューブには似合わないということで、分けられたんすよ。おまけに一時期はおススメ動画がダンジョン関連で埋まって、問題になったこともあったっすからね」


「そんなこともあったんだ」

「私が言うのもなんすが、まさかあんな危険な場所の映像をアップするのがここまで流行になるとは思っていなかったっす」


 いくらゲームのような場所とはいえ、そこで死んでしまえば普通に死ぬ。

 だからこそ、イルと会う前のミナは、ダンジョンに行こうとは思わなかったのだ。


「ちなみに、トップの100万人の人はどんな動画をあげてるんだろう?」

「見てみるっすか?」

「うん」


 恥ずかしながら、その人の動画は見たことがない。

 マネージャーとして、知っておく必要はあるだろう。


『今日はモンスターの肉でカレーを作ります!』


「あれ?」


 想像していた動画とは違っていた。

 いわゆる料理動画を多く投稿しており、配信も料理配信がほとんどである。


「てっきり、強いモンスターをばっさばっさと倒す系の人がトップだと思っていたよ」

「料理は人の心を掴むっすからね。暴力的なのが苦手な方も登録するんで、この数になったと言われているっす」

「なるほど」

「ちなみに、登録者90万代の人は意外に多く、ジャンルがバラけているっすね。例えば、同じモンスター討伐専門チャンネルでも、ドラゴン専門チャンネルとかで分かれているっす」


 ダンチューブの仕組みは、ユーチューブとほぼ同じだ。

 となると、登録者を増加させる為にも、専門性は大事なのだろう。


「しかし、そうとも言えないっす! 例えば圧倒的な実力があれば、そうとも限らないっす! そう! イルちゃんの実力があればトップダンチューバーも夢じゃないっす!」

「イルの本気が映せればね」

「そうなんすよね……」


 ガオはイルのことが相当気に入っているのか、まるで自分のことのようにがっかりしていた。


「よし!」


 ミナは立ち上がる。


「イル! 修行だ!」

「修行?」


 イルは首を傾げる。


「人間の姿でも戦闘できるように、練習しよう!」

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