16話 コピー能力……?

 イルはダンジョン内ではスキル【擬態】によって、本当に人間の姿になることができる。

 しかし、人間の姿は扱いにくいらしく、スライムを倒すのがやっとの状態だ。


 真の姿となれば、S級モンスターを軽々倒す程の実力を持っているイルだが、それでは映像をネットに流すことはできない。

 となれば、人間の姿で戦闘をする修行をするしかないだろう。


 3人は、ダンジョンへと向かった。

 ダンジョンへ入ると、イルはスキル【擬態】を発動させた。


 ただ、元々女の子に見える状態なので、こちらからはいつ発動したのかは分からない。


「じゃあ、早速、剣での修行をしよう」

「よーし!」


 イルは腰のショートソードを抜く。

 彼女は精一杯それを振るい、スライムを倒す。


「人間の体だと、剣って難しいね」

「他の武器にしてみる?」

「う~ん。武器はいいかな」

「どういうこと?」


 イルは腰の鞘にショートソードを収めた。


「炎攻撃!」


 イルはスライムに向かって右手をつきだすと、その右手の平から、まるで火炎放射器のように炎が放出される。

 スライムはその炎に焼かれて消滅した。


「魔法っすか!?」

「この前のフェニックスの炎にそっくりだ……」


 かなり高威力で、オーバーキル……つまりはスライムを倒すのには相応しくないような威力だと、感じた。


「いつの間に魔法を使えるようになったの?」


 ミナは驚きつつも、イルに聞く。

 しかし……


「魔法? 使えないよ?」


 と、このような返答が帰って来た。

 今の魔法は見た所、炎属性の魔法だと思ったのだが、違うというのだろうか?


「じゃあ、なんかのスキルっすか?」

「私の使えるスキルは【擬態】だけだよ!」


 どういうことだろうか?


「じゃあ、今のは一体なんなの?」

「フェニックスの真似だよ!」

「真似!? ってことは、なんか敵の攻撃をコピーするスキルとか、使ったの?」

「違うよ! スキルは【擬態】だけしか使えないよ!」

「えっと……じゃあ、真似っていうのは何をしたの?」

「フェニックスの攻撃を再現した! 例えばね……そうだ! 物真似芸人さんっているでしょ?」


 そういえば、この前テレビでイルが見ていた。


「いるね」

「それと同じだよ! って言っても、私の感覚だから、人間にできるかは分からないけど!」

「よく分からないけど、スキルでも魔法でもなく、イル自身の力でフェニックスの攻撃をコピーしたってこと?」

「そう! 観察して、真似してみたの!」


 よく分からないが、イルにとっては頑張ればできることなのだろう。


「でも、あんなに強いモンスターの攻撃をコピーするのって難しくないの?」

「難しくないよ! 逆にあんまり弱いモンスターだと、コピーしにくいっていうか、できないかな?」

「どうして?」

「特徴が掴みにくいからかな! 例えば人間が他の人の声を物真似するとして、特徴ある声や喋り方の人と、そうじゃない人だったらどっちの方が真似しやすいと思う?」

「特徴ある人かな」

「多分それと同じ! あんまり弱いと、上手く特徴が掴めないんだよね……」

「な、なるほど?」


 分かるような、分からないような例えである。


「とにかく、イルはフェニックスの炎が使えるようになったってことなんだね?」

「うん! フェニックスはマスターした! 後、ヒュドラの毒も! 2匹とも何回か食べてるから、覚えちゃった!」

「何回も!? ……そういえば、来たばかりの時も言ってたね」


 イルは来たばかりの時、名前は出さなかったものの、ヒュドラやフェニックスと戦ったと言っていた。

 ミナはその時、それがヒュドラやフェニックスを指しているとは思っていなかったのだが、今思えばあれはこの2匹のことを刺していたのだろう。


「炎もだけど、毒は特に危ないから、気を付けてね」


 これはゲームではないので、近くにいる味方も攻撃を食らってしまう。


「正直、自分で練習しておいてなんだけど、毒はあんまり使い道ないかな? というか、別に私が【擬態】を解除すれば、別に使わなくても問題ないんだけどね!」

「じゃあ、どうしてコピーを?」

「なんか色々技使えた方が、かっこいいかなって思ってね! 私はアイドル系ダンチューバーだからね! トップを目指す為には、派手さも必要なのだ!」

「なるほど」


 こうして、修行はあっという間に完了した。

 思ったよりも早く終わったので、午後は配信をするとしよう。


「少なくとも、ダンジョンの外では使わないようにするね!」

「え? スキルとか魔法って、ダンジョンの中でしか使えないけど?」

「ただの真似だから、どこでも使えるよ!」

「危ないね……」

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