14話 犯人逮捕

 ピンクのガキとは、おそらくピンク色の髪をした女の子……に見えているイルのことだろう。


「い、イルちゃんは関係ないっすよ!」


 ガオは必死に声を絞り出す。

 だが、そんなガオの願いは届かず、強盗はナイフを持ってイルへと歩いて行く。


(まずい!)


 イルを刺してしまえば、彼女が人間に対して怒りを向ける可能性は高いだろう。

 となれば、地球の危機となる可能性がある。


 確かにイルのことを心配だという思いもあるが、この前体に穴を開けられても普通に復活したので、その辺りの心配は正直言って薄い。


(体が動かない……っ!)


 ナイフを持った男は、イルとはまた違った怖さがあり、その場から動けない。

 ガオも同じなようで、声も出なくなっている。


「もしかして、私女の子に見えてない?」

「あ? どういうことだ? 命乞いか? 俺が好きなのはガオちゃんだけだ! それ以外に興味はねぇ!」


 グサッ!


 イルの心臓に、ナイフが深く突き刺さった。


「そういうのって、人間同士でやっちゃ駄目なんじゃなかったっけ?」

「は?」


 錯覚させる能力が解けたのか、今のイルはグロテスクなミミズの集合体のような見た目に見えている。


 イルはナイフを体内に取り込む。


「な、な、な、なんだお前は!」

「何が?」


 解けたことに、本人は気づいていないようだ。


「ば、化物がああああああああああああっ!!」


 イルの姿を見た男は発狂し、喉が枯れる程に奇声をあげながら、イルを何度も蹴りつけた。


「どうしたの!?」

「ひっ……ひぃ……」


 男は体をフラフラとよろけさせると、ショックで気を失ったのか、その場に倒れた。


「今の内に警察に連絡をしないと!」


 今はサングラスをしていないので、イルを直視しないように気を付けながら、警察に連絡をする。


「イル! 言いにくいんだけど、女の子に見えなくなってるよ!」

「えっ!? あっ! しまった! 刺された衝撃で、解けちゃってたみたい!」


 警察に通報をした後、イルに注意をすると、彼女は人間の女の子の姿に戻った。


「って、そうだ!」


 ガオが先程から、ずっとイルを見ていた。

 イルの正体が、バレてしまったようだ。


「ありがとうございますっす!」

「え!?」


 ガオはイルの目の前で、お礼を言う。


「どうしたしまして!」

「1日に2度も命を助けられちゃったっす!」


(え?)


 ガオはイルについての事情を、詳しく知らないハズだ。

 知っていたとしても、かなりショッキングな見た目で、裸眼で直視するのは難しい。

 今は女の子の姿に見えているとはいえ、先程の姿はまだ記憶に新しいハズだ。


 それなのに、ガオの表情に恐怖はなかった。


「ガオさん、怖くないの?」

「何がっすか?」


「さっき、イルがその……モンスターみたいになったじゃん」

「あっ! そうでした! さっきのかっこ良かったっすよね! イルちゃんはモンスターなんすか!? でも、モンスターはダンジョンの外に出られないハズっすよね? もしかして、ダンジョンの外に出られる新種のモンスターっすか!?」


「えっと、怖くないの? グロテスクな気がするんだけど……」

「そうっすかね? 確かに、少し変わった感じっすけど、モンスターマニアとしてはそこがいいっす!」


(嘘でしょ……)


 その後、パトカーのサイレンの音が聴こえた。

 ただ状況が状況なので、警察も中に入っては来ないようだ。

 犯人が目を覚ましていたとしたら、彼を刺激する可能性もあるからだろう。


 ガオとイルに気絶した犯人の見張りを頼むと、警察の元へ報告をしに行く。


 その後警察と一緒に犯人の元へと戻った。


 警察の人達は、精神面やどこか怪我をしていないかなどを心配してくれたが、それについては問題ないといった意味合いの返答をした。


「ご協力、感謝いたします。こいつは指名手配犯でした。薬もやっているような男でしたので、大事になる前に逮捕できて不幸中の幸いでした」


 敬礼ポーズをこちらに向けてくれたので、ミナ達3人も敬礼で返した。



 野次馬が集まって来たので、3人でミナの家へと避難してきた。

 ミナの部屋で、机を囲む3人。


「今日は泊まっていったらどうかな? まだ騒がしいだろうし」

「そうさせて貰うっす!」


 ここで、とある相談をガオに持ちかける。


「ガオさん、提案なんだけどいいかな?」

「何っすか?」


 ミナは一瞬イルをチラリと見ると、ガオに言う。


「イルのマネージャーになってみない?」

「え!?」

「無責任だとは思うけど、ガオさんはイルの真の姿を受け入れてるし、どうかなって? 勿論、断ってもいいんだけど、もし良かったらどう?」

「イルちゃんと、一緒に住むってことっすよね!?」

「ごめん、そうなる」


 嫌そうに言ったのかと思ったら、そうではなかったらしく……


「それはかなり魅力的な提案っすね!」


 むしろ一緒に住めることを喜んでいるようであった。


「魅力的っすけど……」

「あ、ごめん! 勝手に頼まれても、困るよね」

「そうじゃないっす! ただ、イルちゃんはどう思ってるんすか?」

「そんなもの、ガオさんといた方がいいに決まってるでしょ。私はイルの本当の姿を受け入れられてないからさ。最初はショックのあまり気を失ちゃったし」


 ミナはイルの方に顔を向けて言う。


「イル、どう?」

「どうって、私としてはミナと一緒にいたいかな~♪」

「どうして!?」


 ハッキリ言って、本来の姿を直視できないのは失礼過ぎる。

 そんな人とよりも、それを受け入れてくれる人といた方が、断然良い気がするのだが。


「フラれちゃったっすか!」


 ガオは冗談のように、「あちゃー」と言った感じで、笑いながら下を向き、右手の平で顔をおおう。


「ごめんね! でも、ガオも大切な友達だから! これからも一緒に遊んだりしようね!」

「勿論っす!」


(なぜ?)


 特にガオのことを嫌っている様子はない。

 嫌っていないのであれば、本来の姿を受け入れてくれる人の方がいいに決まっている。


(イルからすれば、私はガオの下位互換のハズ、なのになぜ?)



 夜中、電気を消した自室のベッドの上で、眠れずにイルと共に天井を見つめている。

 ベッドに3人はきつかったので、ガオだけは床に布団をいて寝ている。

 布団じゃないと眠れないと言っていたが、おそらくは気をつかわせない為に言ったのだろう。


「イル、どうしてガオさんの所に行かないの? 私といるよりいいんじゃないの?」

「どうして?」


 ガオが眠ったのを確認すると、イルに疑問を投げかけた。


「色々あるけど、一番は見た目だよ。私はイルの姿にショックを受けて気絶するくらいだ。でも、ガオさんはそうじゃない。イルの本当の姿を受け入れている」

「なんだ! そんなことか!」


 イルは夜中に似合わないような、明るい声を飛ばした。


「そんなことって……見た目を受け入れてくれるかどうかは、大事だと思う」

「私もそう思うよ! だからこそ、普段は人間に受け入れてくれるような見た目でいるんだからね!」

「だったらどうして、ガオさんの所に行かないの?」

「うーん。私、ミナと会う前は色んな所に行って、色んな人を観察したんだけどさ」


 彼女は疑問には答えず、なぜか昔話を始めた。


「急にどうしたの?」

「聞いて欲しくてね!」


 イルが話を聞けというのは、珍しいことだったので、聞くことにした。


「人間ってさ、どんなに仲が良い人同士でも、どこかしらは嫌いな所とか、どうしても受け入れられない所ってあるでしょ?」

「それは、そうでしょ。全く同じ人間じゃないんだから」


 全てを受け入れることは、どんなに仲が良くても、現実的には難しいことだろう。


「うん! 誰しも受け入れられない部分が何かしらはあるんだったらさ、ミナは私の見た目が受け入れられないって、だけじゃないのかな?」

「だけって、見た目は大事でしょ」


「それはそうだけど、むしろどこが受け入れられないのかがわかりやすいから、私的には気持ちは楽だって、思うけどな! 後、実際に私もこうやって対策してる訳だし、いいんじゃないのかな?」

「でも、本当の姿を受け入れられないのって辛くないの? 私のそういう所は嫌だとは思わないの?」


「正直嫌だけどさ、さっきも言った通り、嫌いな所ってどんなに仲が良くても何かしらはあるもんでしょ?」

「それはそうだけど……イルはそれでもいいの?」


「うん! だから、これからもよろしくね! マネージャー!」

「そういうことなら、これからもマネージャー頑張るしかないのかな」


 面倒だと感じる部分もあるが、どこかホッとした感覚もあった。

 もしかすると、心の中ではまだまだマネージャーを続けたかったが、彼女の受け入れられない部分があることに、罪悪感があったのかもしれない。

 しかし、イルに心の中を見透かされたようなことを言われ、その罪悪感も消えたように感じた。

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