13話 フェニックスとストーカー

 ガオの耳にイルとの会話は入っていなかったようだ。

 怯えている彼女の手を引く。


「なるべく端に逃げよう」

「に、逃げられないっすよ」

「こういうのって、敵を倒せば、収まるんでしょ?」

「そ、そうっすけど……フェニックスは強いっす、それに死なないっす……」

「なんとかなるでしょ。一緒に後ろ向いていよう? イルの邪魔をしたくないからさ」

「イルちゃんがフェニックスと戦う……?」


 イルの戦闘は刺激が強い。

 ミナはガオと一緒にモンスターに背を向けると、イルはフェニックスに向かっていくのであった。




《イルside》


 イルは擬態を解除し、元のミミズの集合体のような見た目に戻る。


「よし!」


 フェニックスと呼ばれていたこの火の鳥は、一度食べたことがある。

 確かに普通に攻撃しても、すぐに回復してしまう。


 しかし、相手のデータは前に戦った時に既に入手済だ。

 人間達がどのようにフェニックスの回復能力に結論を出したのかは分からない。


 だが、イルには分かっている。

 フェニックスは脳が無ければ回復ができないことを。


 あくまで、脳が指令を出して、回復をしているに過ぎない。

 となれば、やることは簡単だ。


「防御はガラ空きなんだよね!」

「カォォォォ!?」


 イルが触手を伸ばし、フェニックスの頭に突きさす。

 おそらく死なないので、本来はあまり防御をしなくても良いのだろう、攻撃を防ぐことは下手なようだ。


「脳が少しでも残っていれば、脳自体も回復させちゃうから! こうする!」


 イルはフェニックスの脳を触手でいじくり回す。


「カォォォォ!?」

「できた!」


 触手を戻すと、イルは体を回転させ、ドリルのようになる。


「ていやーっ!」


 ドリルのようになったイルは、そのままフェニックスを貫いた。

 フェニックスは地面に落下し、動かなくなる。


「ふふん! これで食べられる! いただきます!」


 イルは触手を伸ばし、そのままフェニックスを体内に納めた。

 なぜフェニックスが死んだのか?


 その理由は簡単である。

 「回復」という命令が脳から体に行き渡らないように、改造したのだ。




《吉村ミナside》


 背中の方から何やら激しい戦闘の音が聴こえたと思ったら、すぐにそれはんだ。

 目の前で燃えている炎も消えた。

 無事にフェニックスを倒したようだ。


 戦闘が終わり、人間に擬態し直したイルがこちらに向かって走って来る音が聴こえた。


「勝ったよ!」

「お疲れ」


 ミナはイルが負ける姿を想像していなかった為、特に大きなリアクションもせずに、対応した。


「ありがとうね」


 だが、お礼は忘れない。


「いやいや! 私もご飯が食べられて、良かったし気にしなくていいよ!」


 イルは少し照れたような表情で、笑った。


「ど、どうやってフェニックスを!?」


 冷静さを少し取り戻したのか、ガオは立ち上がると、イルに聞く。


「えっと、色々かな!」

「色々って……そもそもフェニックスって、死なないんすよ!? 不死鳥なんすから!」

「実はそうでもないんだよ! 向こうも想定外だったみたいだしね。やっぱり、自分はどうやっても死なない存在だって、遺伝子情報に組み込まれているんだろうね。だから、私の攻撃に対して、油断をしていたって感じかな!」


 イルは「やれやれ」とでも言いたげな表情で、眉を八の字にして、フェニックスの敗因をガオに語った。


「そ、そうなんすか? なんかよく分からないっすが……助けてくれて、ありがとうございました!」

「どういたしまして!」


 彼女はガオに対して、満面の笑みで言葉を返した。



 ダンジョンから出ると、ガオに家に来ないかと誘われた。

 お礼として、休んで行って欲しいとのことだ。

 お言葉に甘えて、ガオの家にお邪魔することにした。


「お邪魔します」

「お邪魔しまーす!」


 普段、イルと外出をする際は、その姿を見られないように寄生させている。

 だが、今の彼女は普通に歩いて家まで来た。


「聞くタイミング見失ったから今聞くけど、普通に歩いていても、どうして誰もイルのことを不審がらないの?」


 ガオが先に2階にある自分の部屋へと行った隙に、こっそりとイルに聞いた。


「難しく言うのと簡単に言うの、どっちがいい?」

「簡単なの」

「分かった! 簡単に言うと、脳の認識をバグらせたって感じかな!」

「バグらせた?」

「うん! どう見えてるかなんて、結局は脳がそう認識しているだけに過ぎないからね! 私を見た時、脳に「女の子」って認識させるようにしているだけだよ! ほら! 目の錯覚とかあるでしょ? それと似た感じ! でも、触った感覚とかも錯覚させてるから、目だけじゃないけどね!」

「なるほど」


 分かったような、分からないような。


「ただ、これ結構面倒なんだよ。この力を使っている間は人間と同じくらいの力しか出せないくらいには、繊細な力なんだ。まだミナの脳に直接幻覚を見せていた時の方が楽だったよ」


 少し呆れたような、自虐的な表情だ。


「色々大変なんだね」

「うん! 転んだ衝撃とかで解ける時もあるから、そういうのにも注意しないと!」

「おいおい」


 人前でイルの姿が公開されたら、間違いなく面倒なことになる。

 イルを怒らせたら地球の危機なので、それは避けなくてはならない。


 ◇


 その後、2階への階段をのぼり、ガオの部屋へお邪魔した。


「実は私の親、今旅行中なんすよね!」

「私と同じだ。私の親も海外旅行でしばらく帰って来ないみたい」

「海外っすか!? 凄いっすね!」


 と、机を囲みながら、何気ないことを話していると……


 バタンッ!


 玄関のドアが大きく開く音がした。


「ガオさんのご両親、旅行から帰って来たのかな?」

「流石に早過ぎるっすね。しかし、鍵を持っているのはお母さん達だけっすから……」


 2階へ誰かが上って来る足音がする。

 そして、ガオの部屋のドアが勢いよく開く。


「ガオちゃん! 会いたかったよ!」


 サングラスをしている、ナイフを持った男性が出現した。


(まさか、ストーカー!?)


「チッ! 他にもガキがいんのかよ! 邪魔だな……お楽しみの邪魔になる奴らは先にぶっ殺すとするか! まずはピンクのガキ! お前を殺す!」


 先程までの楽しそうな空気は失われ、場が静まり返る。

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