3話 宇宙人! 規格外モンスターを食べる!

 黒を基調とした巨大なドラゴン。

 邪魔になるものを破壊しながら、こちらへ向かって来る。

 その姿から、それの狂暴性が伝わって来る。


 そんな相手に対して、イルは「ご馳走!」と叫んだ。


「流石にヤバイ! 逃げよう!」

「ええ!? 折角目の前にあんなに美味しそうなドラゴンがいるのに、帰っちゃうの!?」

「あんなデカいのに勝てる訳ないって! 殺されちゃうよ、逃げようよ!」

「私のことを心配してくれたの!? 嬉しい! でもね! そんな心配はいらないよ! 少し離れた所で見ていてよ!」

「……悪いけど、ヤバくなったら1人で逃げるからね」

「OK! かっこいい所、見せちゃうからね!」


 ミナは、離れた岩陰に隠れた。


(イルには悪いけど、ここでイルが負ければ、私はいつ殺されてもおかしくない生活から解放される。悪く思わないで)


 流石にあんな相手には勝てないだろう。

 少々残酷ながらも、宇宙人の最期を見届けようとするのだった。



《イルside》


「さてと、いただきます!」

「グオオオオオオオ!!」


 目の前のドラゴンは、かなりの巨体だ。

 おそらく、これを体内に全て吸収出来れば、数日は何も食べなくても大丈夫だろう。


「おっと!」


 ドラゴンは口内から、黒い光線をイルに向かって吐き出す。


「ふふん! こう見えても私は素早いよ! 私の種族は、惑星中を回って、全ての知的生命体を殺すことを想定された体だからね! 素早くなくちゃ、やっていけないよ! 私はやらないけどね!」


 本来であれば、すぐに倒すのだが、ここはミナにかっこいい所を見て貰おう。


「チラッ!」


 ここでミナの方をチラ見すると、ミナは岩陰で怯えたようにこちらを見ていた。

 その瞬間。


「うわっ!」


 想定よりも、敵の動きは速かった。

 イルの巨大ミミズの集合体のような体に、ドラゴンの爪が突き刺さり、貫通した。


 イルの血が辺りに飛び散る。


「あ……あ……」


 ミナはそうつぶやくと、バタリとその場に倒れる。


「倒れる程、私のことを心配してくれていたなんて! 確かに、これはかなりの重傷だよ……」


 かなりの重傷だ。

 自然治癒だと、全治10秒の重症である。


「でも、頑張ればもっと早く回復できる!」


 イルは細胞の修復に、意識を集中させる。

 すると、穴の空いた箇所は塞がった。


「全治0.5秒か……。結構かかっちゃったけど、重症だったから仕方ないよね……」


 ミナが起きていたのならば、もしかすると失望させていたかもしれない。


「ミナも寝ちゃったし、もう思いっきりやって食べちゃおう!」


 大きさとして、イルは一般的な女子小学生くらいの大きさだ。


 そんなイルは大ジャンプをし、触手をドラゴンの胸部に突きさす。


「これで一撃かな?」

「グオオオオオオオッ!!」

「凄い! 心臓を潰したのに!」


 こうなっては仕方がない。

 イルはドラゴンに密着し、細胞を一時的に増殖させる。


「グオオオオオオ!?」


 ドラゴンの身体を包み込み、一気に力を入れ、全身の骨を砕く。

 体内に細胞を侵入させ、全ての臓器を破壊するのも忘れない。

 即死である。


「いただきます!」


 イルは体内にグシャグシャになったドラゴンを取り込むと、地面に着地する。

 元の大きさに戻ると、ミナの元へと向かう。



《吉村ミナside》


 目を覚ますと、自室の天井が目に入った。

 背中にはベッドの感触。

 眠っていたようだ。


「なんだ、夢か」


 宇宙人が突然来て、ダンジョン配信者になりたいと言われ、一緒にダンジョン探索に出かける夢だ。

 でも、全てが夢だったようで、安心だ。


「あっ! 起きた!」

「え?」


 目の前で、ピンク色の髪をした女の子がこちらを覗いていた。


「夢じゃなかった……」


 と、してもだ。


「どうして、生きてるの?」

「あれくらいだったら、普通に回復できるよ! 少し時間は掛かっちゃったけどね!」

「そうなんだ。まさか、魔法まで取得していたとは……」

「魔法って何?」

「え? 回復魔法で回復したんじゃないの?」


 魔法とは、ダンジョン内でのみ使える、超能力的なものだ。


「違うよ! 私の能力だよ!」

「ってことは、スキル?」


 スキルも同じく、ダンジョン内でのみ使える。

 魔法とは少々違うが、同じ超能力的なものだ。


「違うって! 人間だって、歩いたり、息をしたりしてるでしょ?」

「うん。で、それとなんの関係が?」

「それと同じで、私にも細胞を修復できる能力が、元々備そなわわってるんだよ! 人間にもあると思うけど、人間よりも凄く早くね!」


 つまりは、この宇宙人にとっては、自然なことという訳か。


「あ、でもね! スキルは私持ってるよ! さっき手に入れた!」

「へぇ」

「ずっっっっと欲しかった能力だよ! ダンジョン外で使えないのが残念だけどね!」


 さっき手に入れたと言うのは、ドラゴンを倒して手に入れたということだろうか?


「ちなみにさっきのドラゴンは?」

「食べた!」

「なるほど」


 あんな巨大なドラゴン、よく体内におさめたものだ。

 そもそも、人間とは体の構造が違うので、突っ込むだけ無駄だろう。


「それはそうと、初ダンジョンどうだった? 怖くなかったでしょ?」

「怖かったよ」

「そんな!」

「でも」

「でも?」

「いや、なんでもないよ」


 意味深な表情で、ミナは「フッ」と笑った。


(あんなデカいモンスターを1人で倒せる宇宙人が部屋にいる今の状況も、滅茶苦茶怖い)

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