7話 初配信でS級モンスターと遭遇
次の日の放課後、帰宅をすると、自室でパソコンを立ち上げる。
自身のチャンネルをチェックしてみると、再生数は80回であった。
「ええ!? 少ない!!」
「最初ならそんなもんだよ」
「そうなの!? だって、ほら! 皆再生数数万とかだよ!? 多分私達のチャンネルって、再生数最下位なんじゃないのかな!?」
「そんなことないよ」
ダンチューブは、ユーチューブと同じく、再生回数が多い動画が目立つ。
しかし、仕様上そうなっているだけで、実際には0回再生のものも多く存在する。
むしろ、そういった動画の方が多いかもしれない。
それを考えると、1日で80回再生というのは、そこまで悪くないのかもしれない。
「コメント来てるね」
「本当!?」
「うん」
3つのコメントが来ていた。
1つは「初配信いつですか?」という質問だ。
今週末に配信すると、正確な時間と共に返信をしておいた。
こういうのは概要欄にも書いておいた方が良いだろう。
2、3つ目のコメントは、イルの容姿を褒めるコメントだ。
「やったー! 私かわいいって!」
「そうだね」
「でも、かわいいんだったら、もっとチャンネル登録者増えてもいいと思うんだけどな!」
現在のチャンネル登録者数は、3だ。
おそらく、コメントをしてくれた人達が登録してくれたのだろう。
「確かにイルは、かわいい」
人間がかわいいと思う姿に擬態しているので、当然だろう。
「でも、かわいいってだけじゃ厳しいだろうし、まだまだこれからだよ」
「むーっ!」
誰でも気軽に動画を投稿できる時代だ。
才能があろうと、容姿が良かろうと、伸びずにサイトの奥深くに沈んでしまう者も多いだろう。
◇
時は流れ週末、土曜日。
もしもこの世界にダンジョンが無ければ、イルによって世界は終末に向かっていたと考えると、ダンジョンに感謝である。
今回は身バレ防止の為、自転車で自宅から離れた場所にあるダンジョンに向かった。
この前のダンジョンもそこまで自宅から近くはなかったのだが、そのダンジョンよりも遠い場所だ。
「準備はバッチリだね」
ミナはダンジョンに入ると、この前たまたま見つけた宝箱に入っていた、下半身がズボンの白いスーツを着用する。
すぐに着替えられるように、Tシャツやスカートの上からの着用だ。
サングラスと合わせ、ボディーガード感があるかもしれない。
「さてと! 初配信楽しみだ!」
この前と同じく、黒いセーラー服を着用した人間の姿のイルが、飛び跳ねながら配信の準備が終わるのを待機している。
ちなみにダンチューブはダンジョン関係の動画や配信しか載せられないというサイトの性質上、チャンネル登録者0人からスマホでの配信が可能だ。
「じゃあ、準備もできたし、そろそろスタートするよ」
「うん!」
スマホのカメラをイルに向け、配信開始ボタンをタップした。
「こんにちは! イルです! 初めましての人は初めまして! 初配信です!」
(マズい……)
同時視聴者数、通称同接数と呼ばれるそれは、現在この配信を何人が見ているかを表す。
現在は0である。
「好きなものは、イチゴミルク! って、これは話したよね!」
(マズいぞ……)
配信開始時刻を書いておいたのだが、やはり予定通りには行かないのだろう。
配信開始して10分。
同接は未だ0のままだ。
・こんにちは
「来た!」
・誰の声?
「あ、マネージャーです。今はカメラマンやっています」
・把握
(良かった! これで同接0人は回避できた!)
「そういえば、皆のコメント見えないね! どうしよう……そうだ!」
ダンジョン配信者の多くは、特殊なコンタクトレンズでコメントを見られるようにしている。
その性能からして結構な値段がするので、持っていない。
「うんうん! おっ! 1人来てくれたみたいだね!」
・初配信とは思えない程、元気だね!
・遅れたけど、来れた
・見に来たぞ
「おお! 3人も!」
(いやいやいや! どうやってコメント見てるの!?)
配信中、イルの正体がバレるのは避けたいので、そこはツッコミを入れないでおいた。
・何歳?
・↑マナー違反だぞ
こんなコメントも来ていたのだが……
「1歳未満だよ!」
・配信慣れしてるな
・草
・ナイス設定
(多分、嘘は言ってないんだろうな)
「じゃあ、進んでいくよ!」
イルはショートソードを引き抜く。
宝箱からドロップしたものだが、初心者用の武器だ。
・イルちゃんは剣か
・もっと強い剣の方がいいような……
・マネージャーさんが強んでしょ
・ああ、そういうパターンもあるな
アイドル路線のダンジョン配信者に多いのだが、何かあった時の為に、カメラマンとしてプロの探索者を雇うこともあると、聞いたことがある。
「スライム撃破!」
・上手い!
・見てると俺の初心者時代を思い出すな
・そういえば、イルちゃん初心者か
「うん! 一応初心者かな……?」
・一応……?
「色々あってね!」
ダンジョンを進んでいくが、ここで事件発生。
「ギョアアアアアアアアッ!」
目の前に、9つの首をもつ竜が現れた。
(は?)
ミナは現実が受け入れられず、ポカーンとした表情を浮かべる。
(なんでこんな所にこんな強そうなモンスターがいるの!? というか、このモンスター何!? さっきまで、スライムとかばっかだったじゃん!)
・ヒュドラ!?
・ちょっ!
・無理だ!
・すぐ逃げろ
ミナは既に一歩ずつ後ろに下がっている。
「イル、逃げるよ!」
「え? なんで?」
イルはヒュドラに向かって剣を振り降ろす。
「ていやああああああああっ! あ、折れた」
・無理に決まってんだろ!
・S級探索者が狩るようなモンスターを狩れる訳ないだろ!
・助けに行きたい……
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