10話 無名で登録者138人は凄い

《吉村ミナside》


 凄いことが起きた。

 朝目が覚めると、チャンネル登録者が138人だったのだ。


 昨日の時点ではチャンネル登録者は8人だった。

 配信を見に来た人が登録してくれたのだろう。


 イルは無名の探索者だ。

 何か他の活動をしていたという訳でもない。


 それなのに、チャンネル登録者が5人増えただけでも凄い。

 しかし、138人はその比ではない。


 一体なぜ?


「もしかして……」


 考えられるとすれば、ネットのどこかで話題になった可能性だ。

 イルの名前で検索をするが、イルという名前が多過ぎるのか、ヒットしない。


「イル、起きて!」

「むにゃむにゃ……」


 可愛くベッドの隣で寝ぼけている彼女を起こす。


「チャンネル登録者が増えたよ! 138人!」

「138人……? 1000人も行ってないないのかぁ……」


 リアクションが薄かった。

 イルはただ眠そうにあくびをすると、ベッドから降りるのであった。


(凄いことなんだけどね)



 ミナはダンチューブで、モンスターについて調べることにした。

 パソコンの前に座る。


「また襲われてもいいように、勉強しておこう。復習は大事だからね」


 「ヒュドラ」で検索を掛けると、モンスター解説チャンネルが出て来た。

 動画をクリックする前に、投稿者のチャンネルページを開く。


「モンスターマニア、ガオか」


 チャンネル主はモンスターマニアを自称しているようで、様々なモンスターについての解説が投稿されている。

 声だけなので姿は分からないが、女性の声であった。


 チャンネル登録者は3000人。

 活動の方向性は違うものの、同じダンチューバーとして、悔しい思いはある。


「S級モンスターか」


 コメントでリスナーが言っていた通りだ。


「普通の解毒ポーションじゃ、効果がない程の猛毒か」


 イルはなぜ、解毒ができたのだろうか?


「イル、どうやって解毒したの?」


 ベッドの上で漫画を読んでいるイルに、声を掛ける。


「細胞を修復させただけだよ!」

「なるほど」


 さっぱり分からないが、さも当然のことのように言っているので、イルの種族にとっては普通のことなのだろう。


「イル、登録者増やしたい?」

「うん!」

「じゃあ、行こうか」

「どこに?」

「ダンジョンにだよ」


 折角、伸び始めているのだ。

 それに乗って行動しない手はない。


「この前のダンジョンに行こうか」

「うん! 絶対大人気アイドルダンジョン配信者になってみせるんだから!」



 昨日と同じく、少し距離のあるダンジョンへと向かった。


 ダンジョン前まで来ると階段を降り、ダンジョンへと入る。


「よいしょ!」


 イルがミナの体内から放出されると、スキル【擬態】を使い、人間の姿になる。


「どうにかして、ダンジョンの外でも人間の姿でいられないの?」

「ちょっと難しいかな……でも、別な方法でどうにかできるかも!」

「別な方法……?」

「うん! 後少し、こう……ひらめき的なのが必要だけどね!」

「頑張れ」


 ポケットに入っているスマホを取り出すと、配信の準備を開始する。

 設定はしてあるので、確認をするだけで良い。


「あれ?」


 配信をする為に、配信エリアを決める。

 その為に、奥へと進んでいくのだが、そこで少女の姿が目に入った。


「知り合い?」


 隣にいるイルが、可愛らしく首を傾げる。


「知り合いじゃないけど、知ってる人かも」


 その少女はスマホを手に持ち、モンスターを撮影している。

 撮影しているモンスターはスライムで、人間を襲わないタイプのようだ。


「モンスターマニア、ガオ?」


 少女の動画撮影時の声を聴いた限り、おそらくガオだ。


「そうなの?」

「多分」


 多くのノベルゲームをやっているミナは、人の声を聴き分ける能力が一般的よりも少し高い。

 大人向けゲームは、声優の名義が違う場合があるので、それを調べていた時期があったからだ。

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