赤音の伝説
しばらく倒木に座って話をした。
タテハは
「たしか、もう少し上るとあったはず」赤い鳥居のことに話が及んだとき、タテハが突然立ち上がって歩き出した。僕も立ち上がり、辛うじて道らしき道をついて行った。
歌っているような喋っているような鳥の鳴き声が林冠に響き渡り、梢からは蝉しぐれが降ってくる。途切れのない心地よい音に包まれていると、夢の中を歩いているような、現実ではない境地にいるような気分になってくるのだった。
「お腹が空いてきたね」突然振り向いて言うタテハの声で、僕は夢から
「明日はおにぎり持って来ようよ」
タテハは明日もここへやって来るつもりだ。僕と一緒に。
一人で歩き回るのに慣れている僕としては、いささか不自由を感じながらも、正直なところ少し楽しみな気持ちもあった。
結局、この日は赤い鳥居を見つけることはできなかった。
「今日は無窮の森へ行ってきました」と静さんに報告した。
「タテハと?」昼食後のお膳を拭いていた静さんが顔を上げた。
タテハからは秘密にしておいてとお願いされていたが、内緒にするほどのことではないと判断したのだ。
それよりも、禁足地に似た雰囲気のある「無窮の森」について静さんに聞きたいことが色々とあった。
静さんは予想していたほどは驚かなかった。むしろ、少し微笑んだようにも見えた。
山に入るな…というのは、子どもが迷い込まないようにという一種の躾みたいなものだったのだろう。年はまだ若いが、今やタテハはしっかりとした大人の女性だ…僕から見ると。
「なんで「無窮の森」と呼ばれているんですか?あそこは」ずっと気になっていたことだった。
「お茶をいれましょう」静さんは質問にはすぐに答えず、土間に下りた。
<無窮の森について
しばらく倒木に座って話をした。
タテハは
「たしか、もう少し上るとあったはず」赤い鳥居のことに話が及んだとき、タテハが突然立ち上がって歩き出した。僕も立ち上がり、辛うじて道らしき道をついて行った。
歌っているような喋っているような鳥の鳴き声が林冠に響き渡り、梢からは蝉しぐれが降ってくる。途切れのない心地よい音に包まれていると、夢の中を歩いているような、現実ではない境地にいるような気分になってくるのだった。
「お腹が空いてきたね」突然振り向いて言うタテハの声で、僕は夢から
「明日はおにぎり持って来ようよ」
タテハは明日もここへやって来るつもりだ。僕と一緒に。
一人で歩き回るのに慣れている僕としては、いささか不自由を感じながらも、正直なところ少し楽しみな気持ちもあった。
結局、この日は赤い鳥居を見つけることはできなかった。
「今日は無窮の森へ行ってきました」と静さんに報告した。
「タテハと?」昼食後のお膳を拭いていた静さんが顔を上げた。
タテハからは秘密にしておいてとお願いされていたが、内緒にするほどのことではないと判断したのだ。
それよりも、禁足地に似た雰囲気のある「無窮の森」について静さんに聞きたいことが色々とあった。
静さんは予想していたほどは驚かなかった。むしろ、少し微笑んだようにも見えた。
山に入るな…というのは、子どもが迷い込まないようにという一種の躾みたいなものだったのだろう。年はまだ若いが、今やタテハはしっかりとした大人の女性だ…僕から見ると。
「なんで「無窮の森」と呼ばれているんですか?あそこは」ずっと気になっていたことだった。
「お茶をいれましょう」静さんは質問にはすぐに答えず、土間に下りた。
<無窮の森について赤沼静が語ったこと>
今から80年ほど前の敗戦後、無窮の森に建っていた
その後、10年も経たずに「神道指令」は失効となり、従来のように祭事や神事が自由に執り行われるようになった
当時、その舞い姿が美しいと評判の娘だった。ある祭事のときに赤音集落長の目に留まり、七段目で行われる神事の際に呼ばれて巫女舞を奉納するようになった。そして、後に集落長に嫁ぐまでこの仕事を続けた。
静の母親も若いころに巫女をしていて、赤沼家の遠い先祖には、朝廷の
静が初めて神がかりになったのは、赤音神社で奉仕し始めて間もなくのことだった。このときに降りてきた真言を村人たちが唱え始め、読経の形となって現在に至っている。
あるとき、赤音の集落を赤くせよという神託を賜った。神社に祀られている
集落長の赤沼義一郎は考え抜いた末、とりあえず、屋根瓦を赤くするために南方から赤瓦を取り寄せた。集落の屋根をすべて葺き替え、柱を赤く塗るのには10年近くの年月を要した。
その後も静は神託を降ろし続けた。その中には赤音集落の起源にまつわる不思議な話もあった。
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